キャンプへ GO その6





 →その5からつづく

つかんでいた手を二人が同時に放したので流されたイトマン、すぐにそばの岩にしがみつきました。
慌ててまたそばに寄って行く救助員のつもりの私たち二人。
イトマンの両腕をまた同時につかみました。
またまたイトマンは引っ張りだこにされてうつ伏せになってしまいました。

「イトマン、しっかりしろ、おい、イトマン」

「プハァッ」

顔を上げて息をしたのでまた安心して支えていた手を放してしまいました。
つかまっていた腕をいきなり放されて、イトマンはまたまた溺れそうになっています。

「イトマンッ!」

「ゴボゴボゴボ」

後ろの方からリーダーの夫が声をかけてきます。

「おい、両腕を同時につかまれていたら、イトマンも立てないだろう」

「あ、そうか」

「そうでした、そうでした」

間抜けな救助の二人も、ここでやっと気付いて片方ずつ支えてイトマンは立ち上がることができました。

今回は失敗しましたが、何を隠そう、この私、数年前に日本赤十字社の救急員の資格を取ったのでした。
1週間講習に通って、止血法や三角巾で数十秒で各部位に包帯する技術などを習得したのです。

(これは勉強になりました。自分と同じくらいの体重の人が床に倒れているのを自分の背中に載せてオンブして走るやり方とか習得できてよかったです。)

せっかく取得した救急員の資格ですが、キャンプでとっさには役に立てませんでした。
もっとも大きなリュックを背負って急流の川に流された人の救助というのは習いませんでしたけど。

イトマンはゆっくり立ち上がると、周りを見回して突然叫びました。

「わっ、メガネがない!!」

さっきまでイトマンがかけていた近視用の銀縁メガネが、優秀な日赤救急員たちによる救助の間に流されてしまったのです。

気の毒に、出発してまだ数時間しか経っていないのに、イトマンは 0,1もない視力であと3日間、ジャングルのキャンプを続けることになったのです。

濁流の川を遡っていくと少し流れが緩やかになってきました。
きれいな浅瀬が続き、鳥の声が聞こえます。
木漏れ日の下、実に気分よく歩けます。

ふと、イトマンが心配になり振り替えると、強度の近視なのにメガネを失くしたために足元をじっと見ながら転ばないように下ばかり見て歩いています。
景色を見る余裕はありません。
もっともメガネがないので景色も見えないでしょうけど。

自分もイトマンに負けず劣らすの強度の近視なのでイトマンの気持ちがよくわかります。

陽の当たる浅瀬をしばらく歩いていると、行く手に滝の音がします。
近づけばそれほど大きくはないけど、この滝を直登しなければ先へ進めません。

「もしかして、この滝を登るのォ?」

「ほかにどうやって行くって言うんだよ、崖を迂回して行くか?」

それも難儀そうだ。

結局全員が滝のシャワーを浴びながらフリークライミングすることになりました。

「まったく……何で、いつも……こうなっちゃうの…ブツブツブツ…」

文句は滝の音に消されていました。

滝を登り終わるとまた静かな浅瀬が続きました。

と思うのも束の間、浅瀬の後はまた滝です。

「ハァッ、また滝……」

一行の中で元気なのがキャンプ大好き、生きがい、というリーダーの夫。


と、もう一人アウトドアと冒険が大好きのミイちゃん。
彼女も元体操部、身軽に滝の岩をスイスイと登って行きます。

いくつか滝を越えて歩きやすい場所になってきました。
川の両側が林になって緑におおわれたきれいな場所です。

「みんな、ここでちょっと休憩しよう」

朝から歩き始めて、今まで滝の所で5分くらい水飲み休憩はありましたが、荷物を下ろして腰を落ち着けての長い休憩はこれが初めてです。

みんなの顔にも疲れが見えてきています。
特にイトマン、気のせいか意気消沈しているような…。
古い大きなカーキ色のキャンバス地のリュック、山の中で地面に腰を下ろしてうつむいている所など、楽しいキャンプの最中というより、知らない人が見たら、逃避行の引揚者のように見えなくもない。

焼肉に冷たいビールの、るんるんビーチパーティ

のはずがこんなことになるなんて石垣空港に着いたときには思いもしなかったでしょう。

もしかすると、(来なきゃよかった)と思っているのかも…。



「ちょっと、他に近くにキャンプできるいい所がないか見てくるわ」

リュックを下ろすとリーダーは早足で川に沿って上流に向かいました。

数分後、戻ると、

「ようし、今日はもうここでキャンプすることにしよう」

道なき道を行くキャンプですから、一般的な登山道を行くキャンプとちがってちゃんとした設備付きのキャンプ場などというのはありません。
午後の早いうちに適当な場所を探してテントを張り、夕食の支度をします。
食事とその片付けも明るいうちに済ませたいからです。

もう昼はとうに過ぎていましたが、夕方までにはまだまだ時間があります。
ここはイトマンのことを思って早めに本日の終点としたのでしょう。

テントの用意ができると、ほとんどの人は上流にウナギの仕掛けをしに出かけました。
針にエサをかけてウナギを釣るのです。
夕方仕掛けて翌朝ウナギがかかっているか見ます。

ご飯炊きを買って出た私と、メガネのないイトマンはキャンプ地に残りました。


イトマン、本当に憔悴し切った様子です。
荷物を下ろしたその場所のまま座り込んでじっとしています。
声をかけるのもはばかられる感じ。

長い1日でした。
それでも日が暮れるまでまだまだ時間があります。

キャンプはさらに続くのです。
              
その7 へつづく

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No title

ほんと、アウトドアではメガネかけていると不利なこと多いですよね。

裸眼視力のいい人がうらやましい。

イトマンごめんよ

イトマン笑ってごめんよ~
私もド近眼だから眼鏡なしの心細さはよくわかるよ~v-356
がんばれイトマンe-271
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