ひ弱な野生児 その5 大草原のオタク系赤ちゃん



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ひ弱な野生児 その4からつづく



さてオムツの洗濯をしようと洗濯機を見ると、水が溜まって洗濯物が入ったままです。

「あれ?洗濯途中だったの?」

「三日くらい前からスイッチ入れて、それから忘れて、次の日また回して、でこんなになった」

「ゆすいで干せばいいのね?」

「ゆすぐも何も、洗剤なんか使ってないよ」

「はあ?水洗いだけ?!」

「そう」

それできれいになるのか?

どおりで昨日見た洗濯物、洗ってあるにしては薄汚れていたような気がしました。

「なんか・・・洗濯機も汚いよ。臭いし」

「そうかな」

この洗濯機で洗濯したらオムツがかえって汚れそうに思えます。

洗濯の前にまず洗濯機の中を洗ってきれいにする必要がありそうです。


「ふーっ、きれいになった・・・」

「オムツの洗濯終わったのか?」

「今からです!」


1週間後、付き添いで来てくれていた母も帰って行きました。

大草原で夫婦だけの子育てになります。

実家に居た時は周りには近所の人たちが大勢いましたし、両親と、同居の独身の弟、歩いて5分の所に住む妹などが毎日代わる代わるに面倒を看てあやしてくれていました。

ここでは5㎞四方に家はありません。

お店に至っては一番近いスーパーまで20㎞あります。

牧場で接する人間は私たち夫婦だけです。

独身従業員もいますが、家の外に出ない鉄兵とはほとんど接触がありません。

「たまにはお外に行こうか」

連れ出しますが、北緯二十四度、北回帰線の夏の日射しは真上から照り付けます。

真っ赤な顔になって苦しそうに見えて、かわいそうで、すぐに退散。

「暑いネエ、お部屋に入ろう」


なかなか外遊びができません。

夕方には暑くても日は翳ってきます。

「さあ、もうお日さまは沈みそうだよ。今なら暑くないから外に行こう」

「夕焼けがきれいだねえ。でも・・・か、か、痒いー!」

直射日光はなくなりますが、その代わり夕方は蚊の大群の襲撃に遭います。

広い草原の中の一軒家ですから蚊も集中攻撃になります。

あっという間に体中ボコボコに咬まれて腫れ上がっています。

「ヒャア、これはたまらん、逃げろー」

とまた室内へ。

夜になると眠ってくれますが、

「なんだ、寝ちゃったの?」

夜の牛舎の見回り点検から帰った父さんつまらなそうです。

「やっと涼しい時間になったんだから、遊ぼうよ」

クーラーが点けてあっても、昼間はあまり効かないからです。

屋根の上がヤケドするほど熱くなっていて室内で立ち上がると天井からモワーッと熱気を感じます。

夜になってやっとクーラーが効いてきて涼しい思いができます。

「せっかく寝たところなんだから起こさないでよ」

「だって遊びたいんだよー」

夏は異常に暑いので朝夕に働き、昼間は休憩です。

大人も休憩時間つまりお昼寝タイムが長いのです。

それでどうしても夜が遅くなります。


「自分が眠くないからって、子どもを起こして遊ぶことはないでしょ」

「良い子は夜に遊ぶんだよねー、鉄兵ちゃん」

いじくり回しているうちに鉄兵、起きてきてしまいました。

「高い、高―い」

「キャッ、キャッ、キャッ」

二人ともご機嫌です。

あああ、また今日も夜更かし赤ちゃんだ。


「もう夜中よ、うるさいですよ、近所迷惑よ」

「近所がないんだから近所迷惑はないだろう」

「でももう12時を過ぎています!」

「まだまだ宵の口だよねー、鉄兵ちゃん」

「キャハッ、キャハハハハ」

ダメだ、こりゃ。

夜更かしですから、当然、翌日は朝寝坊です。

大人は朝のエサをやるので一応朝起きますが、昼はカーテンを閉めてなかなか起きて来ない寝坊の赤ちゃんといっしょに親子で昼寝です。

夜更かし → 寝坊 → さらに夜更かし のパターンは毎日だんだんひどくなって行きました。


数ヵ月後には、寝るのが明け方、起きて来るのが夕方と、完全に昼夜逆転になってしまいました。

「まだ寝ないの?」

「やあ、絶好調だよ」

周りが真っ暗な広い大草原で、夜中なのに一軒だけ煌煌と明かりが点いた家。

そのうち少し離れた所の鶏小屋から、飼っていた一番鳥の鳴く声が聞こえてきます。

「コケコッコオー」

「ホラ、ニワトリさんが鳴いたよ、もう寝なさい」

普通は鶏が鳴いたら起きる合図じゃなかったっけ。


夕方になると楽しみにしているテレビの幼児番組が始まります。

朝の番組の再放送です。

この時はまだ石垣島では民放の放送がなく、テレビはNHKだけでした。

アニメもNHKではほとんど放送されず、小さな子が喜ぶ数少ない幼児向けの番組でした。

“お母さんといっしょ”

朝の9時半の放送分は観たことがなく、いつも夕方5時の再放送ばかり観ていました。

「もうすぐ“お母さんといっしょ”(夕方の再放送です)が始まるよ、もう起きなさい」


昼間でも室内でいっしょに遊べる友だちがいればまだちがったかも知れません。

ここでは遊ぶ相手は普段は親だけです。


昼もたまには外に出ることもあります。

「今日は草刈りしたから梱包運びを手伝ってくれ」

「鉄兵を置いて行くわけにはいかないでしょ」

近くに預ける場所も、親戚もありません。

「なんとか考えてくれ、トラックの運転だよ」

仕方なく抱っこヒモで前抱っこにしてトラックの運転席に上ります。

これでハンドルを握ります。

道路ではないから道路交通法違反にはなりませんが、好ましい姿ではないですね。

家にハイハイし始めた赤ちゃんを一人置いて仕事に行くのとどっちが危険なことでしょう。

運転席で母親の胸に抱っこヒモで縛り付けられたまま、初めは窮屈そうにしていましたが、そのうち飽きて眠ってしまいました。

お座りができるようになると、助手席に座らせてオヤツや飲み物の哺乳瓶を持たせて私は運転をしていました、

子どもを預ける場所も看てくれる人もいないとこうなるのです。

昔の農家で一日中赤ちゃんを家に置いて働かざるを得なかった若いお母さん、心配で辛かったでしょうね。


オモチャで遊ぶ月齢になると、夜中は一人でジグソーパズルをして絵本を見るのがお気に入りの子になっていました。

家にはテレビゲームやパソコンがありませんでしたが、もしあったら、完全に「オタク赤ちゃん」になっていたでしょう。


「鉄兵」という名にそぐわず、すっかり色白でひ弱な子どもになってしまいました。

暑中見舞いのハガキが来ると。大体が

「お子さんは大自然の中でたくましく育っていることでしょう」

と書かれてありました。

はい、たくましくオタク赤ちゃんになっています。

それでも人の居ない田舎でこそできる育児もありました。

それはオムツ無しスッポンポン育児でした。


ひ弱な野生児 その6へつづく



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