ひ弱な野生児 その2 ターザン都会へ行く



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ひ弱な野生児 その1からつづく




このまま先生が今日中に新年会から帰って来なかったらどうしましょう。

母子ともに残念なことに・・なんて言ったら、総合病院の待合室の大泣き夫の再現になってしまいます。

お腹が張って少し痛くて苦しかったのは、便秘ではなくて弱い陣痛だったのでした。

無理にいきんではいけなかったのです。


 時々お腹がキューッと張ってくるとそれに合わせたように胎児のトクトクトクという心音が、トック、トック、トックと遅くなります。

本当はそういう時に速い心音にならないといけないそうです。

どんな異常があるんでしょう。生きて産まれて来てくれるでしょうか。

ハラハラしていると夜更けに産院の玄関を開ける音がしました。

先生が戻られました。新年会にしては早い時刻です。

「先生、あの患者さん、破水しちゃったんです」

「え」

助産師さんと先生が何かまだ話しています。

「患者のことが心配だったから飲まずに新年会を早めに抜けて来たんだよ」

(やっぱり・・・。良かった、泥酔してなくて)

産婦人科の先生ともなると、出産を控えた入院患者がいる時はゆっくり酒を飲んでいることもできないということですね。たいへんです。


元日の夜に緊急に帝王切開ということになりました。

普通は帝王切開は2名の医師が執刀するのだそうです。

産まれた後は、妊婦と新生児と両方の手当てが必要だかららしいです。

前もって予定していれば医師2名が準備に当たるはずですが、この日は全く予定外。

もう一人の医師を、しかも元日の夜中に確保するのってむずかしいことなのです。

この近くのほとんどの産婦人科医師は先ほどの新年会に参加していたのです。

先生はどこかに電話していらっしゃいます。


「ボクの姪っ子が来てくれることになった」

「お迎えはどうします?」

「自分で車を運転して来るそうだ。30分もかからないでしょう」

先生の姪御さんも産婦人科の先生でしかも近くの町に住んでいらっしゃったのはさいわいでした。


 全身麻酔ではないので、痛みはなくとも意識はあります。手術中の音も聞こえます。


お腹からいよいよ赤ちゃんが出てくると思える時になってもなかなか出てきません。

出産まで便秘?いえ、こういうのを難産と言うのです。

帝王切開なのに?


先生と看護師さん二人と助産師さん二人と、計5人で引っ張ってもなかなか出てこない赤ちゃん。

「セーノー・・・、ソレッ」

掛け声に合わせて引っ張られて私の体は手術台から持ち上がってしまいます。

「もう一度、セーノー、ホレッ」

 スポッ!!


と音がしたかと思えるほどでした。

どうやら骨盤に胎児の頭が引っかかっていたようです。

心音がおかしかったのはそのせいだったのでしょう。

赤ちゃんも苦しかったのです。

(ウ○コと思ってトイレで踏ん張ってゴメンネ)


骨盤に挟まっていたために赤ちゃんの顔の半分がうっ血して黒くなって眼も充血していました。

それ以外は健康で予定通り退院できました。


赤ちゃん誕生に産院に駆けつけられて間に合ったのは、先生から直接電話をもらった私の実家の両親でした。

車で2分の距離でしたから。


牧童ガシラであるうちの夫は、年明けてから産まれると思っていたので、心の準備もなく、出産の連絡を受けて慌てました。


「産まれた、産まれたよ!」

「ん?何?子牛が産まれた?ちがう?」

まだ何日も先と思っていたので元日の夜はカウボーイたちと酒を飲んでくつろいでいたのです。

それでとんちんかんな受け答えをしています。


手術の後、翌日には自分で歩いてトイレに行くし、3日目には二階の病室から一階の授乳室まで階段を下りて行きます。

ここの産院で一日4回の授乳の時間になると病室の産婦さんたちは授乳室にぞろぞろと集まります。

この日は出産後の人が10人くらい入院していました。

助産師さんが隣の新生児室から赤ちゃんを連れて来て、一人ずつお母さんに渡してくれて授乳開始。

出産が初めての人は上手に乳首をくわえさせられなくて苦労しています。

どうにか赤ちゃんが母乳を飲み始めると、産まれてまだ数日なのにじょうずに飲みます。

痛いくらい強く吸われます。

授乳室の中では、赤ちゃんたちが母乳を吸う音と呼吸の音だけが聞こえ、静かな時が流れます。

若いお母さん方はゆったり落ち着いた表情です。

至福の時。


子供を抱いて母乳を飲ませながら、長かった不妊治療の末に授かった子を実感していました。

(今私は「お母さん」をしているんだ)

と、石垣の病院で妊娠を知った時にも、誕生の瞬間の時にも流れなかった涙が出てきてしまいました。

回りに気付かれないようにこっそりネグリジェの袖で拭いていました。


さて、そのころ牧場では正月の酒の酔いもとっくに醒めて、カウボーイ父さんはまだ見ぬわが子に会いたくて仕方がありません。

総合病院の混んだ待合室で周りが驚くほどの大泣きをした人です。

どんなに赤ちゃんに会いたかったことでしょう。

休暇の予定を考え、飛行機の切符を予約して、いよいよ上京してわが子に会いに来ることにました。

実際には産まれて1ヶ月近く経ってからやっと飛行機に乗ることができたのでした。

カウボーイの父さん。この期間、月に一度の大事な牛のセリ市があったり、定期的にする牛のダニ駆除をしたりと、牧場の大きな仕事があって島を出られなかったのです。



「ピンポーン」

実家のチャイムが鳴りました。

「あ、パパだよ」

実は、普段から外出着は妻任せだったので、どんな恰好で上京して来るか不安に思っていたのでした。

「やっと会えたね、遠かったでしょ、・・・!!何?!その恰好・・・」

「ん、おかしい?」

冬場なので一応厚手の上着を着ています。

でもズボンは亜熱帯の石垣の牧場で仕事をするときに使っていた薄手の木綿の夏用の物。

しかも布が擦り切れるくらいに何度も洗濯して向こうが透けて見えそうです。

足元は作業用の「軍足」。

足袋のように親指の所で二股になった、軍手の足バージョンです。

おまけに靴ではなく公共の宿泊施設のトイレでよく見るような安物のサンダル。


「それで飛行機に乗って来たの?」

「そうだよ、それが何か?」

髪も、いつもは伸びてくると牧場で私がバリカンとハサミで散髪してあげていたのですが、もう3ヶ月も散髪してくれる人がいなかったので伸び放題です。

自分の服装には興味がない人だからしょうがないですね。


赤ちゃんをベビーベッドから抱き上げてまだ玄関に立ったままのカウボーイ「父さん」に渡しました。

「わあ、これがオレの子どもなんだ・・・・」

感慨深げです。

待ちに待った初めてのわが子とのご対面。

「さあ、おしゃんぽに行きまちょうね、ぼうや」

(えええっ、この寒空の下をお散歩??)

新米父さん、産まれてまだ1ヶ月も経たないで首が据わっていない新生児を縦抱きにして外に飛び出して行きました。

あの恰好で。


「あ、あ、あ、待ってええ」

室内用のベビー服のまま肩に担がれたように縦抱きにされた私の赤ちゃん・・・、いえ、二人の赤ちゃんですが。


後ろから追いかけようとしましたが、わが子に会えて抱くことができた彼はうれしくてどんどん走って行ってしまいました。

肩越しに赤ちゃんの顔が見えますが首が据わっていないので頭がグラングランしています。

それに気が付いた父さん、慌てて頭の後ろを支えてやって走って行きます。


「大丈夫かネエ、アンタのダンナ」

実家の私の母が後ろでつぶやきました。

「うん、たぶん」

その時、風がピュ――・・・

う――・・・さぶ。

ひ弱な野生児 その3につづく


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