カウボーイ募集中 その4 夜逃げだあ!



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おすすめは、 「アイ ハブ ア ハブ」



→ カウボーイ募集中その3からつづく




やっと来てくれます、新しい従業員。

フェリーが到着しても迎えには行かなくても済みそうです。

自前の車に荷物を積んで自分で運転して来るのです。

港からの道順を電話で説明してありますから信号もなくほとんど一本道、迷うことはないでしょう。


新米カウボーイ君、若くて身なりもきちんとした人でした。

ワンボックスカーにどっさり積み込んだ荷物。

当時は本土から車を積んで石垣まで来るフェリーの便がありました。

車1台に付き、運転手一人分の運賃は無料でした。

車にできるだけ荷物を積んでくれば引越し料金の節約になります。

車の運搬料金はかかりますが、飛行機代も今ほど安くはなかったのでフェリーの利用はお得でした。




「はじめまして、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


ずいぶんと腰の低いおっとりとした方のようです。


「すごい荷物ですね」

「アパートは引き上げて来たものですから」

完全に移住するつもりですね。

「ずいぶんと田舎で驚いたでしょう」

「そうですね。ところで自動販売機はどこにありますか?」

「販売機?」

「はい」

「・・・・・・・」

ヒロシ君と私は顔を見合わせてしまいました。

「販売機なんかないですよ」

「ない?・・・ないんですか?!」

「ジュースの自販機ならここから4km行ったところに村があってそこの小さな売店の前にあります」

「ハァーッ?!・・・4km?!」

「タバコはその売店に売ってますが夜は閉まっちゃいます。タバコを自販機で買うなら隣の村まで行かないと」

「そうね、ここからだと10kmはあるかな」

「・・・!・・・ジ、ジ、ジュ、・・・10km・・・!!・・・」

新米君、固まっています。

「あれ?面接のときにオーナーから聞いてなかったですか?」

「・・・は、いえ、田舎で不便とは言われてましたけど」

新米君、急に表情が暗くなったような・・。

いや、すぐ慣れるでしょう。


「さっそくですが、見学をかねて見回りに行ってもらいましょう」

「・・・ハイ、着替えて来ます」

「これを使ってください」

牧場に備え付けのデニムのツナギ服を貸してあげました。Mサイズですが細身の彼なら入るでしょう。

車の荷物を下ろすのは後回しにしてまずは明るいうちに牧場を見てもらいましょう。

見回りに付き添うのは私です。


放牧場は丘を開墾して作られたので斜面を上り下りしますし、放牧場の中には林も池もあります。

海も見えるし、ゆっくり散歩するにはいい景色です。


歩き出して何分も経たないうちに新米君、息があがってしまいました。

「ハァッ、ハァッ、・・・」

「だ、だいじょうぶですか?」

「ハァッ、ハァッ、・・・ハ、ハイ・・・」

「どこか具合が悪いんですか?」

「いえ、ボク、ハァッ、・・・今までずっと、・・・ハァ、ハア、・・・デスクワークばかりだったもんですから・・・ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・」


あれれ、まだ何も仕事してないのに息も絶え絶えですねえ。

続くかなあ・・・。


午後は牛の群れを追う仕事でした。

新米カウボーイ君、ここでは仮に「デスク君」と呼ぶことにしておきましょう。

デスク君は群れの真横について牛たちと平行に走る役だったのですが、ずっと遅れています。

群れの移動が終わって牛舎で落ち着いたころヨタヨタとたどり着きました。

「遅いぞ、もう終わっちゃったよ」

「・・・すみません・・・ ゼェー、ゼェー ・・・」

「本当にだいじょうぶなの?心臓かどこか悪いんじゃないの?」

「いえ、どこも悪くないです。運動不足だっただけです」


トラックで乾燥草の梱包を運ぶ時もただみんなが通ったあとからついて来るのがやっとでした。


その後何の仕事でも力が出ず、ヘナヘナになっているようです。


原則としてこの牧場では食事は各自が自炊です。

独身男性のカウボーイは簡単な物を作って食べています。

夜になって、疲れ切ったデスク君、どうしているかと、彼の部屋に行ってみました。

そこは私たち家族用の住宅から一番遠い建物です。部屋の前に停めたワンボックスカーには荷物がまだ入ったままです。

荷物を下ろす余裕もなかったみたいです。

車内には布団や着替えの入ったケースが見えます。

その他に、ゴルフバッグ、衛星放送のアンテナや釣り道具も見えます。

仕事の合間にゴルフや釣りを楽しもうと思っていたのかも知れません。

でも今はとてもそんな状態ではありませんね。



部屋は明かりは点いていますが静かです。

「どうですか?ご飯は食べましたか?」

何か作って持って来てあげようかと思って声をかけましたが返事がありません。

具合が悪いんでしょうか。

そっとドアを開けてみると、部屋に上がったまま倒れこむようにして作業着のまま眠っています。

よほど疲れたのでしょう。

晩ご飯も食べていないようです。

車から小さな電気炊飯器とわずかな食器とタオルケットだけは部屋に置いてありました。


「ご飯、食べませんか?」

「・・・、ん?・・・んん、んん、・・・」

バタッ。

ちょっと目を開けて頭を起こしましたがまた寝てしまいました。

布団も敷かずに。

いえ、布団はまだ自分の車の中に置いたままです。

無理に起こすのもかわいそうなのでそのまま寝かせてあげました。



翌日、朝のエサやりの時刻になってもデスク君は起きてきません。

昨日の疲れで起きられないのでしょう。

「すみませんが仕事の時間なんで起きてください」

「ハ、ハッ、ハイ!!」

呼びに行くと、デスク君、目を覚まして飛び起きました。

昨夜見たのと同じ作業服のままです。

二日目は前日にもましてヨタヨタのヘロヘロでした。

彫りの深い顔に濃い眉毛、色白のデスク君、会社ではモテたかも知れません。

今は顔色はよくないし、目の下にクマができてしまっています。


夜になって歓迎会をかねてみんなで食事です。

二日目もまだ同じツナギ服の作業着です。

着替える体力も残っていないのかも。

飲みながら打ち解けて話そうとするのですが、デスク君、元気がありません。

「スミマセン、ボク、お役に立てなくて・・・」

「いや、最初は誰でも慣れないから。そのうちにできるようになるさ」

「スミマセン、・・・本当にスミマセン・・・スミマセン・・・」

デスク君、なんだか涙ぐんでいるようです。


1人前に働けないのが申しわけなく、歯がゆくて泣いているのだと誰もが思っていました。

「また明日からがんばろうな」

「・・・ハイ、スミマセン・・・スミマセン・・・」



翌日もやはり朝のエサやりの時刻には起きて来ません。

「かわいそうだな。疲れているみたいだし、もう少し寝かせてやるか」

しかし昼になっても起きてこないようです。

「様子を見てくるわ」

部屋に行くとデスク君は部屋にいません。

出かけているようです。

タバコかジュースの自販機を探しに行ったのでしょうか。

それともインスタント食品を買いに言ったのでしょうか。

「一言くらい言って出かければいいのに」

ここの牧場ではプライベートタイムであっても、出かけるときには必ず誰かに言ってから行きます。

牧場内でハブに咬まれて動けなくなったとか、街に行って来る途中で車が故障したとしても誰も気付きません。

携帯電話がなかった当時は、連絡のつけようがありませんでしたから。

5km四方に公衆電話もなければ滅多に他の車も通りません。

僻地で生活するにはそれなりのルールがあるのです。


都会の会社勤めを辞めて仕事しながらリゾート気分で暮らすはずだったデスク君。

牧場のカウボーイ仕事に疲れて、黙って街へ行って気分転換しているのでしょうか。

もしかして

『続きそうもないから今月で辞めさせて』なんて言ってきたら何と言って引き止めるべきか、を考えていました。


夕方近くなってもまだ戻ってきません。

「夕方のエサやりに間に合わないじゃないの」

部屋に入ってみてブツブツ言いながらぼんやり見ているうちに気付きました。

あ、炊飯器がない!

タオルケットもない!

旅行カバンもない。

車からデスク君が下ろしたいくつかの品がなくなっているのです。

元々殺風景な部屋でしたが彼の自前の荷物が一切ないのです。元からあった古い小さなテーブルなどはそのまま置いてあります。


ということは・・・・・・・・





「夜逃げだあっ」 


いえ、昼間ですから「昼逃げ」と言うんでしょうか。

昼でも夜逃げとはこれいかに。

なぞ掛けをやっている場合じゃありません。

逃げられたー。


→カウボーイ募集中 その5につづく



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