カウボーイ募集中 その2

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カウボーイ募集中 その1からつづく


「こんなに来ちゃったよ、募集」

「そんなにカウボーイなりたい人いるのかね」

「あんな文章書くからだよ」

「ねえ、これ見て。この人、ちょっと勘違いしてるかもよ」

「どれどれ?・・・31歳、独身・・・てふつうじゃん」

「ちがう、就職希望の理由」

↓こんな風に書いてありました。

『上級公務員の試験を受けようと思っています。仕事をしながら受験勉強ができたら、と考えております』


「なんだ、これえ」

「牧場の仕事してクタクタになって勉強するの?へえ、そんな時間あると思ってるのかね」


「これもすごいぞ」

『東京で会社に勤務して7年になりますが、業務に忙殺されそうに感じるようになり・・・(中略)・・・静かな自然に囲まれて心を癒されたいと・・・(以下略)・・・』

「なんだよ、コイツ、牧場は保養所じゃないぞ!!」

あんな美辞麗句の募集広告を出したからでしょうか。

「これじゃまともな従業員が集まるかどうかわからないぞ」

「別の募集の宣伝をする?」

「そうだ、キャンプ場に貼り紙をしよう、住み込み牧場従業員募集、って」


石垣島には公営のキャンプ場があります。

当時は年間通じて使用料は無料でした。

海岸に面していて、屋根付きの炊事場、トイレに水道、お湯までは出ませんがシャワーも使えるのです。

夏場は家族連れや学校、グループ単位で訪れる人でにぎわっています。

さすがに冬場は海では寒くて泳げませんし、天気も悪いのでキャンプする気になりません。

一般市民は来ませんが、冬もキャンプしている人たちがいます。

日本中を旅行しようとバイクにテントと寝袋を積んで来ている若者たちです。

都会の生活に疲れ、あるいは新しい自分を探そうと、故郷を離れて別世界のような自然の中で暮らそうと長期滞在している人たちもいます。

どちらにしても初めから何泊しようと決めている人は少ないようです。

何泊してもタダですから。

キャンプ場というより無料宿泊所のように考えている人もいるようです。

何ヶ月も、いえ、何年も住み着いている人もいました。

共同であるべき炊事場に私物を拡げて占領する人もいて問題になったこともありました。

長くキャンプ場にいる人の中には、仕事を見つけてキャンプ場からバイクで職場に通う人もいました。

キャンパーには変わった人もいますが、自然が好きだし、旅先で誰とでも友達になれる気さくな若者も多かったのです。

そういう若者が来てくれたら、という望みを託してキャンプ場に貼り紙をしました。

今度はシンプルに、

「住み込み従業員募集」と。


この「住み込み」というのがミソです。


質素な従業員用の社宅でもキャンプ場のテントよりずっと快適です。

住宅があって給料がもらえて海や山の見える場所で働けるのです。


数日後に、貼り紙を見たと言って訪ねて来た若い男性がいました。

「東京からフェリーで石垣に着いてすぐキャンプ場に行ったんです。そしたら貼り紙が目に付いたので。」

学校を卒業してサラリーマンを2~3年やった後、思うところがあって旅に出たそうです。

「ヒロシと言います。よろしくお願いします」

高校野球で有名な学校で野球部に所属していたと言うだけあって、礼儀正しい青年です。

数ヶ月間でもよい、ということで働いてもらうことにしました。

このヒロシ君がアルバイト従業員に加わりましたが、まだ人手不足なのでカウボーイは募集中です。

「夢の保養牧場へのお誘いの文句」に魅かれて何人も連絡してきました。

  *****************

『わたくし、今は大阪の会社に勤めておるのですが、このたび退職して是非とも御社の業務に住み込みで・・・』

「ちょ、ちょっと待ってください」

相手は若者というより年上の落ち着いた話し方の人。

たぶん年齢からしても会社ではそれなりの地位や役職なのでしょう。

いかにも「上司」という感じがします。

『こちらを引き上げてさっそく移り住む準備の方を・・・』

「ま、ま、そんなに急がなくても・・・」

『いえ、もう決めたいと思いますので』

「いえ、あの、まずはとりあえず会社の方は休暇を取ってください」

『は?』

「遊びがてら、試しにこちらに見に来てからでもいいんじゃないですか?」

『そうですね、じゃあ、そうします』

ということで、見学に来ることになりました。

飛行機の着く時刻に石垣空港へ夫が迎えに行きました。

その間にヒロシ君とヨシダさんと私は牛舎の前の広場でスコップを使ってセメントを練っていました。

夏に来る実習生や荷物用のプレハブを地面に固定するために、コンクリートの土台を作っていたのです。

僻地の牧場のカウボーイは何でも自分たちでするのです。

セメントの粉と水と砂利を混ぜて固さを調節して地面に作った木枠の中に流し込んでいきます・

練っていると生コンがペチョッと撥ねて作業服や顔や髪、メガネにまで飛び散ってきます。



そうしているとそこへ空港へ迎えに行った牧場のトラックが帰って来ました。

トラックはセメント仕事をしている私たちの正面に停車しました。

「おう、みんなご苦労だな。見学の人をお連れしたよ」

助手席から降りて来たのは件の、会社の中間管理職風の中年の男性。

きれいな服、きれいな靴、きれいな髪型の都会の紳士でした。

「こんにちわー」

「コンチワー」

灰色のセメントまみれの作業服の私たち。

服も私たちの方はボロボロです。

ヒロシ君のシャツの肩のところが有刺鉄線に引っ掛けてビリビリに破れています。

片方の肩が丸出しになってしまって、まるでタイやビルマのお坊さんの袈裟みたいになっています。

「あ、は、はじめまして。よろしくお願いします」

汚い恰好の私たちを見て、紳士は少し面食らったようです。

「さあ、この辺で休憩にしようや」

セメント仕事は一休みです。

紳士も着替えて牛舎や放牧場の見学です。

「今日はこの牧場の宿舎に泊まっていってくださいね」

「ありがとうございます、牧場長さん」

「いえ牧場長なんてもんじゃないです。管理の責任者ですが」

「じゃ、なんとお呼びすればいいでしょう」

「そうですねえ・・・」

カシラがいいんじゃないかしら?」

「カシラ?!シャレのつもりか」


『カウボーイ』は日本語で『牧童』というのだそうです。

以前に国勢調査があった時、職種欄にそう書くように指示がありました。

カウボーイの責任者は『牧童頭』だそうです。

「ボクドウガシラだからカシラと呼べば?」

「なんか、極道って呼ばれているみたいだなあ」


カシラの案内で牛舎の見学に行った紳士、新品のようにきれいな運動靴に履き替えていました。

本当にあの人カウボーイやるのカシラ。





  →カウボーイ募集 その3 につづく



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