アイ ハブ ア ハブ その9


  →アイ ハブ ア ハブ その8 からつづく

テッちゃんは動けないのでテントの中でじーっとしています。
看病といってもこれと言ってすることもないのです。
ご飯を作って運んであげることぐらいです。
トイレだけはテッちゃん何とか一人で歩いて行っています。

「ところで、テッちゃん、昨日はトイレに行こうとして咬まれたんでしょ。その後どうしたの?」

「あ、ウンコ、止まっちゃいました」

暗くなってから動き回るのはいやなので明るいうちに夕食、片付けなどを済ませます。

明るいうちに夕食を摂るなんていうところがますます『病院に入院』しているみたいです。
野戦病院ですけど。

まだまだ日が高いのにもうすることがありません。

「それじゃあ、ボクはもう向こうのテントに行きます。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい・・・」

・・・・・って、まだ早すぎるよ。

この日、野田君はテントに入ったきり、翌朝明るくなるまで出てきませんでした。

朝日の当たる時間帯になると夜行性のハブはもう出てきません。


テッちゃんはトイレ以外、ずっとテントの中で過ごし、することもなく退屈そのもののようでした。
私は、薪集め、水汲み、食事の支度、片付けと、一日中何かとすることがあって適度に忙しくしていました。

暇な時間があっても、景色を眺めたり、散策したりもできて決して退屈はしません。健康というのは本当にありがたいと思いました。

景色のよい大自然の中のキャンプも、健康であればこそ楽しめるというものです。

野戦病院に入院中のテッちゃん、テントの中で暇つぶしに読む物さえありません。
誰も本の一冊も持って来ていません。キャンプ中に読書なんて暇はないと誰しも思っていました。

あるのは、昨日まで炊事の焚き付けに使ってきて最後に残った古新聞の20cmほどの切れ端だけ。
この小さな切れ端を、テッちゃん端から端まで読んでいます。たった1枚の新聞の切れ端を、表を読んで、裏を読んで、また表を読んで。古新聞をこんなに丁寧に読んだことは今までなかったでしょう。

古新聞に飽きると(とっくに飽きていますが)、テントの小さな出入口からわずかに覗く空の“一部”を見ています。
三角形に切り取られた空をぼんやり眺めていると時々野鳥が横切るのが見えます。

ほんの一瞬チラッと目に入るだけですが、いつも牧場で見ているのと同じ種類の鳥が多いので、鳴き声と羽の色で判断して野鳥の好きなテッちゃん、次々と鳥の名前を当てています。


三日目の朝食後、私もすることがなくテントで寝転がってウトウトしていました。

三日間雨が降らずにいたので川の水は減ってきていました。浅くなった川の中を、ザッ、ザッ、ザッと誰か歩いてくる音がします。

「なんだ?何が来たんだ?」

こんな朝っぱらから応援隊が来るとは思っていませんでした。


「よかった、生きてたかー

「あ、来てくれたの、早いね」

「石垣から朝一番の船で西表に渉って急ぎ足で登って来たんだよ」

「それにしても速いじゃないの。ここまで一日がかりで来た所なのに」

「石垣にいてもあんたらのことが心配で、心配で」

こっちは山の中でも“退屈なくらい”何事もなく平和に過ごしていたのですが、下山した人たちは、とくに心配性のリーダーは連絡もつかない山に残してきたメンバーのことを気遣って不安な時間を送っていたのでした。

この頃はまだ携帯電話が普及していませんでした。持っている人もいましたがほんの一部の人たちでした。
まして完全に圏外の場所です。
衛星電話は一般化されていない頃のことです。


以下は後で聞いて分かった話です。

朝早くに山を下りていった下山組はもう昼前には石垣に着きました。

「食糧や燃料も準備するけど、まずはハブの血清だ、病院へ急ごう」

   
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「先生!先生!」

「どうしたんですか」

「この病院にハブの血清はありませんか?」

「ハブ?うちは動物病院だけど・・・・」

O先生が答えます。


O先生は、『キャンプへ GO』や『幻の湖』の章で登場した獣医さんです。

「ですから牛用の血清があるんじゃないか、と思って」

「牛が咬まれたの?」

「いえ、実習生が西表のジャングルでキャンプしてて咬まれたんです。今テントで寝てるんで血清があれば持って行ってやりたいんです」

「ええっ?!そ、そんな、命にかかわること・・・簡単に薬なんか出せませんよ!!ちゃんと人間の病院に行ってくださいっ!」

「やっぱりダメか」


   (当然です。普通はハブに咬まれたら救急車です)

リーダーは夜になると恐ろしい夢を見てうなされたのでした。



  →アイ ハブ ア ハブ その10につづく


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