アイ ハブ ア ハブ その7


  →アイ ハブ ア ハブ その6からつづく


テントが流されそうになったほどの大雨が降ったのです。
マヤグスクの滝も相当な水量にちがいありません。
山肌を迂回して斜面を下りるしかありません。

しかも真っ暗な夜。
たとえなんとか下りられたとしても夜は定期船はもうありません。
石垣の病院には行かれません。
ふもとの診療所に行くだけです。
西表の診療所にはハブ用の血清が常備されているんでしょうか。

「どうにかしてヘリを呼んできましょうか」

離島の急患はときどき海上保安庁のヘリコプターで石垣島の県立病院に運ばれています。

「ヘリがどこに降りるんだ?」

ヘリコプターが離着陸するには広い平らな場所が必要です。
学校の校庭や大型スーパーの駐車場のような場所は山の中にはありません。
もう少し下流の方に行けば広くなった川原がありますが、そこまでもテッちゃんが歩いて行くのはムリです。

「病院に着いても入院してタダ寝てるだけだろう」

「それはそうだけど」

「無理して病院連れて行く意味あるかな」

「病院、行かなくてもいいんじゃないかな」



こう言うのには理由がありました。

数年前まで牧場の近くに老人が一人で住んでいました。

ある日その老人が足をハブに咬まれました。
老人はやっとの思いで牧場まで助けを求めに来ました。
老人の家には電話がなかったのです。
老人を病院に運んで入院となりました。

翌日病院に見舞いに行くと、老人はももまで腫れ上がった足をむき出しにして寝ていました。

足首、ふくらはぎ、太ももの周囲に油性ペンで十ヶ所くらい一周ぐるりと線が描かれてありました。
この線のところの周囲の長さを看護師さんがメジャーで測ります。

足の腫れは反対側の脚の膝まできていましたが、そこから先は腫れていません。

そして日を追うごとに腫れは引いていきました。
その間、特に治療というのはなかったのです。
特効薬もないし、血清も打たないし、栄養点滴して安静に寝ているだけです。


「そうだね、ここで寝てても入院して寝てても同じだよ」

というわけでこの野戦病院にテッちゃん入院となりました。

「で、いつまでこの山の中にいるんだ」

「テッちゃんが歩けるようになるまで」

「全員が付き添う必要はないね」

「それどころか、さっきの夕食のときに食糧と燃料をほとんど使い切っちゃったわよ」

「一人だけテッちゃんの看病と世話する人を置いて行こう」

「ああ、牧場の仕事もあるし。そうだ、お前残ってテッちゃんの看病してくれ、看護婦さんだ」

「ええっ、私一人?心もとないなあ」

「じゃあ、もう一人誰かヘルプしよう。あとの者は一度下山しよう」


牧場の仕事、食糧などの追加調達の他に、
どうしても翌日は石垣に帰らなければならないわけがあったのです。

Kさんは数日後に東京へ行って青年海外協力隊の二次試験を受けることになっていたのです。

Kさんが石垣を出発するのは翌々日の午後です。
見送りをすると、もうその日は西表の山に登ってくるのは無理です。

今まで何年もお隣の牧場仲間でやってきた間柄ですからやはり見送りには行きたいのです。


テッちゃんの足の痛みは毒を搾り出したことで少し治まってきたようです。

「それじゃあ、明日下山する人を決めよう」

「まずKさんは帰らなきゃね」

「オレも下山組だな」

「もちろんですよ。リーダーは滝を迂回するルートに詳しいからいっしょに下りてもらわないと」

「実習生の3人のうち誰か一人残ってあとは下山だ」

「ボ、ボク下山します」

「あ、僕も」

「いえ、ぼくが・・・」

「ああ、ああ、相談して決めてくれ」

テントの横で3人、ゴショゴショと話し声が聞こえたと思ったら、

「じゃーん、けーん、ぽーん」

「やったーっ!」

「くっそー」

騒いでいます。

じゃんけんして笑って騒ぐぐらいだから深刻な状況は脱したということでしょう。







  →アイ ハブ ア ハブ その8につづく


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