アイ ハブ ア ハブ その4



アイ ハブ ア ハブ その3からつづく

食事が済んだら早々と食器洗いです。早くしないと谷は真っ暗になってしまいます。
夜には夜行性の危険な生き物が活動します。暗くなったらテントや焚き火からあまり離れず、のんびりとくつろぐ、というのがジャングルでの賢い夜の過ごし方です。

片付けが済んで、私は川原で顔を洗っていました。
ブルーグレイの空の下で、川の水はまだライト無しでやっと見える程度です。男たちはリーダーに誘われてテントの中で残った酒を飲み始めています。これで誰かハーモニカでも吹けば本当にカウボーイのキャンプです。

今回は大怪我をする人もなく、疲れるようなこともなく、計画通りに進んだ平和なキャンプだった、と思っていました。

中洲にはススキが茂っていました。
私は顔を洗いながら暮れ行く群青色の空に映えるススキの穂のシルエットを見ていました。

そのススキの中を通る人影が見えます。テッちゃんです。

水でも汲みに行くのでしょうか、対岸に渉っていきます。

と、途中で何かわめきながら引き返して来ました。忘れ物?・・・・・・ちがう!

「イタタタ、イテエ、イテエ・・・・。」

「どうしたの?」

「ヘビ・・・に・・・・咬まれた・・・」

「はあっ?タイヘン!」

この地域でヘビと言えば毒を持つハブをまず考えます。

西表や石垣にいるのは「サキシマハブ」という種類です。沖縄本島にいる猛毒のハブとはちがって、咬まれてもすぐに命にかかわるということはありません。本土のマムシより毒性は弱いと言われます。それでも咬まれたら痛みと腫れは一級です。

「イタタ、イタタタ・・・・、初めはカニに、・・・足を挟まれたかと・・・思ったんだけど・・・、ヘビだ・・・細いしっぽがチョロリと見えた・・・。」

ヘビに咬まれたらそれが毒ヘビかどうかを真っ先に確かめなければなりません。

咬まれた痕が人間の歯形のような形なら、毒のないヘビなので消毒さえしておけばあまり心配はありません。
毒ヘビの場合、針のように鋭い二本の牙をプスリと刺して毒液を注入するわけですから、牙の痕がポツポツと二つあれば毒ヘビということです。

テッちゃんの足をその場で見ようとしても暗くて傷が見えません。

ちなみに、ここでは毒ヘビ=ハブですが、いろんな種類の毒ヘビがいる地帯ではヘビによって毒の種類がちがって、当然血清も異なりますから、もしヘビに咬まれたら、即刻そのヘビを捕まえて種類を確かめます。咬んだヘビに逃げられるということは命に逃げられることになるわけです。

テントにいる人たちは酒を飲んでにぎやかに笑っています。中洲でのこの異変にはまったく気付いていません。テントまで走って呼びに行きます。

「みんな来てえ!テッちゃんがヘビに咬まれた!」

ヘビという言葉に一同がシンとなったが、次の瞬間全員がテントから飛び出して来ました。

テッちゃんはようやくテントまで足を引きずり歩いてたどり着いたところでした。

「テッちゃん!ホントか?!ハブなのか?」

毒ヘビではないことにかすかな期待があったのです。でもライトを点けてテッちゃんの足を見たら、ハブに咬まれたのは一目瞭然でした。足の甲にポツポツと二つの牙の痕があるのがハブに咬まれた何よりの証拠です。

それを確かめるまでもなくテッちゃんの足はすでに腫れ始めています。

「ああ、・・・・・咬まれてる・・・・・」

辺りはすっかり暗くなって、互いの顔の表情も見えませんが、みんなの顔から血の気が引いていくのは、一斉に洩れた絶望的なため息の声でわかりました。



   →アイ ハブ ア ハブ その5につづく


↓クリックしてね ランキング参加中


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

野生児の妻

Author:野生児の妻
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード