大草原の小さな家 その5


  →大草原の小さな家 その4 からつづく

(山火事…って、どうなっちゃうの?!)

従業員と実習生と、慌てて軽トラの停めてある広場に全員集合.
午前の仕事が終わってシャワーを浴びてくつろいでいたところだったので、みんなあたふたと作業着を着ながら走って来ます。
長靴もちゃんと履けずにガポガポしながら寄ってきた人を見て、

「あ、オレサンダルで来ちゃった。替えて来るわ」

上着のボタンを掛け違えている人も。みんな相当焦っています。消防士さんはこういうときも冷静なんでしょうか。


軽トラの荷台にドラム缶や大型ポリペールを積んでそれに水を溜めます。水道の蛇口からホースで入れるだけでは間に合いません。広場には牛に飲ませる水を溜めておく小さなコンクリのプールが作ってありました。
ここからも水をドラム缶に入れていきます。その間に牛舎や風呂場などを走り回ってありったけのバケツ、洗面器など、水の汲めるものなら何でもかき集めます。それとボロ布や捨てていいようなボロ毛布、ほうきも。

軽トラの荷台に水を積んで、人間は乗り切れないのでバイクと3tトラックで煙の上がっている山に向かって出動です。

放牧場の奥まで軽トラを乗り入れてバケツリレーがスタートです。

広い牧草地に火が付いてメラメラ、パチパチとどんどん燃え広がって行きます。
これ以上広がらないように燃えている最先端に行って水をかけます。同時にボロ布やバスタオルの古いのを濡らした物、ホウキも使って炎を叩いて消します。とにかくどんな手を使っても延焼をくい止めなければ。
風で煙がこちらに向かう場所ではゴッホン、ゴッホン。草地を走り回って小さな炎は長靴でも踏みつけて消します。

放牧場の火はそれ以上は広がらないと見ましたが、この時には山の中に火が入り始めていました。
煙に巻かれながら夢中でバケツリレーを繰り返します。軽トラの荷台の上でドラム缶からバケツで水をくみ出して下の人に渡す役目のヨシダさん、全身ずぶ濡れです。バケツを運ぶ私たちも煙で顔が真っ黒。シャツもズボンも靴もススで黒く汚れています。

荷台のドラム缶が空になってまた水を運んで来ます。何十杯、何百杯バケツリレーをしたでしょう。
完全消火とは行かないまでも、山の火ももう燃え広がる心配もないくらいになりました。

「ああ、よかった、もうすぐ消えるな」

「これだけ水をかけたからあとは自然鎮火するんじゃないか?」

みんなホッとしてやっと手を休めました。

すると、遠くから

「カーン、カーン、カーン…」

「ん?何?」

「もしや、…」

「消防車?」

誰が呼んだんでしょうか。たぶん煙を見たのでとんで来たんでしょう。
これだけの煙ですから近くを車で通った人が通報したにちがいありません。

消防車の人たちは山の際まで乗りつけてホースを伸ばして山の中に踏み入っていきます。

「ああ、もうほとんど消えてるな」

とは言うものの、ホースから噴出する水。大量ではなく細い水の線ですが的確に赤く燃え残っている木の幹に水を命中させて消しています。ドラム缶何本分の水も使わず鎮火しました。消防車が到着する前にもう私たちがほとんど消火していましたから。

消防士の人たちも落ち着いたものです。

「これでだいじょうぶですよ」

「責任者の方はどなたですか?」

「は、はい、私です」

「放牧場で野焼きする時は気をつけてくださいね」

「はい、すみません、ご迷惑をかけました」

「火入れをする時は届けを出してくださいね。それから燃やす時は風下から、かつ一箇所から火を付けて少しずつ燃やしてくださいよ」

……だそうです。

「あ、それから」

「はい」

「あとで始末書を書いてもらいますので、消防署に来てください」

「はい」

「それから、奥さん」

「は、はい」

「これでまた本を書くネタができましたね、フフフ」

あらら、分かってたのね。

そうです、実はこの2年前にノンフィクションを書いて出版したのでした。
新婚旅行で無人島へ行って自給自足で12日間暮らして、最後に森でイノシシを獲って帰ったこと、都会育ちが牧場で初めて体験してビックリの「ど田舎」の暮らし、などを書いたものです。石垣島や沖縄県内では結構売れて増刷を4刷りまでしました。その後映画化もされましたが、こちらはさっぱりでした。でも島の人には本がおもしろいと評判でした。(自分で言うのもなんですが)

この時は本が書けるぞ、と喜んでいたわけではありません、もちろん。

消防車も帰って行き、疲れた身体で片づけをしていました。

草地は広い範囲で燃えた跡が黒いこげ跡になっています。

ぼんやりとこげ跡を歩くのは野田君。

「どうしたの」

「麦わら帽子が…」

「どこに脱いだの?」

「軽トラを降りて、火からずうっと遠くに置いといたんですけど」

大事なテンガロン麦わら帽、ここなら火が届かないだろうと思っていた場所に確保したはずなのに。

「燃えちゃいました」

気の毒に、どこにあったかわからないくらいにきれいサッパリ灰になってしまいました。

         →その6につづく

↓クリックしてね ランキング参加中


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

そうですね、本にしてくれる出版社があればいいんですけど。自費出版はお金が要りますから。

新婚旅行は無人島

そうそうそう!この本はとっても面白いんです!
繰り返し何度も読んで楽しんでます。
こうやってネットで読めるのも嬉しいですが
やっぱりこちらも本になってほしいなぁと思います!!
プロフィール

野生児の妻

Author:野生児の妻
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード