大草原の小さな家 その2

  →大草原の小さな家 その1からつづく

ここの牧場は、島の空港のある市街地から20kmくらい離れています。
5万人近くの島の人口のほとんどが島の中心地に集中しているので、市街地を外れると、ほとんどがサトウキビ畑。
島を一周する一本道の海岸道路からはサンゴ礁の海と 畑と 山の緑だけの景色が続きます。

その信号のない片側1車線の幹線道路を車で30分ほど走り、さらに防風林に挟まれた未舗装の細いデコボコ道に入って4km行くと、突き当たりにパッと開ける岬。(このデコボコ道は後に舗装されましたがそれは10年も先のことです。これはまだ水道も通ってなかった1980年代の話です。)
そのサンゴ礁の海に突き出した岬全体が牧場です。

街から遠く不便な場所ですが朝も夜も牛の管理をするので従業員は住み込みが原則です。

当時この牧場に住んでいるのは私たち夫婦、前出の山岳部出身のシマヤさん、農業は未経験だけど動物好きのヨシダさんが常駐していました。
ふだん牛にエサをやるだけのときはこのメンバーで充分なのですが、牛に食べさせる干草を大量に作る時や牛の群を移動させる時、牛をセリ市場に売るために運ぶ時などは人手が足りないので短期募集をします。
短期と言っても夏の1~2ヶ月だけとか、一ヶ月に3日だけ、なんて都合よく人を集められるはずがありません。
そこで、

「実習生」を受け入れます。ちょうど大学の夏休みに合わせて、母校の大学の農学系の数人の学生を実習生と言う形で受け入れてアルバイトしてもらうことにしました。

キャンプにいっしょに行ったミイちゃんも、親戚ではありますが実は実習生の身分で住み込みで数ヶ月間働いてもらっていました。

その年は夏休みよりだいぶ早くに一人の実習生が来ました。夫の大学の農学部の後輩のテツヤ君です。通称「テッちゃん」。
まじめで明るくハキハキした好青年です。この実習生のテッちゃん、まじめなのにいろいろなことをやらかしてくれたのです。

テッちゃんには私たち夫婦の住む家族用の住宅から10m離れた別棟の独身者用の建物に住んで自炊してもらうことにしました。そこは数年間シマヤさんが住んでいましたが事情があってこの年に石垣を離れることになり、テッちゃんの到着と同じ頃に退職したのです。

牧場では100頭近くの牛のほとんどが放牧です。放牧だから放っておけばいい、というわけではありません。柵の切れ目から逃げる牛や具合の悪い牛がいないか見回ることも必要です。

初めは先輩の従業員である夫がいろいろと教えてあげています。

「テッちゃん、見回りの内容を教えておくからね」

「はい」

少し高い丘の上に立って、緑の地面に散らばる黒い牛の数を数えます。

「区画ごとに入れてある牛の数を数える」

「牛が歩き回って動くから数えにくいですねえ」

何回も数えなおしています。

「放牧場の草には牛が喜んで食べる草と、ぜんぜん食べない草があるんだ」

「ところどころに牧草以外の草も生えていますね。チガヤとかイバラとか」

「長いこと肥料をまいてないから牧草が雑草に負けてくるんだ」

「放置しておくとますます牛が食べない草がはびこって牧草の面積が減りますね」

「その通り。だからイバラやランタナみたいに牛の嫌いな草は見つけたらクワで掘って根っこから除去する」

「はい、がんばります」

「でもタイヘンだから、よく乾いたチガヤの株などはこうやって火を点けて燃やしてもいいよ

ポケットからライターを出した夫は薄茶色のススキのようなチガヤの株の根元に火を点けました。この年は雨が少なく、チガヤは水不足で枯れかかっていました。火が付くと乾燥したチガヤはメラメラ、パチパチと勢いよく燃え出してあっという間に燃え尽きて、同時に燃える物がなくなったので火は間もなく消えてしまいました。
チガヤの周りには、地面すれすれまで牛が食べつくしてゴルフ場の芝生のように短くなった草の一部があるだけです。燃える物は他にありません。

朝も夕方も亜熱帯の夏の牧場は清清しいというより、とにかく暑いのです。

西部劇の中で登場するカウボーイは、スエードのズボンやジーンズにフランネルかギンガムチェックのシャツを着てカッコイイと言うイメージですが、ここではそんな恰好では働けません。
Tシャツに薄手の綿のズボン、それも200mくらいの区画を一回り見回るだけでも汗びっしょりでシャツを一日何回も替えることになります。
北国の牧場でツナギの服やサスペンダー付きのズボンで作業しているのをテレビで見ましたが、暑い国では熱中症になります。

「農業機械も使うので本当は安全を考えて長袖長ズボンの地の厚い生地の方がいいんだけどな」

「厚いのは暑いですね」

「うん、オレなんか暑がりだからなるべく薄い生地のズボンだよ」

何度も洗濯して生地が透けて見えるほどになって、しかも放牧場の囲いの有刺鉄線にしょっちゅう引っ掛けてかぎ裂きを作っているのでズボンはボロボロです。どこの国のホームレスでもこんなにひどいズボンは履いていないと思います。

(あああ、『大草原の小さな家』の父さんのマイケル・ランドンはもっとカッコよかったと思うんだけどなあ・・・)

そういう私もローラ・インガルスのようなギャザーかフレアーのロングスカートに白いエプロンでるんるんと坂をスキップして下りてくる・・・・・・・・・・わけではありませんでしたから。

そして夏休みに入ると、テッちゃんより学年の下の学生が4人も実習に来ました。

この夏は実習生テッちゃんが大活躍というか大失態というか、とにかくよく活動した年でした。

  →大草原の小さな家 その3へつづく



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