マダナイの鈴 その2

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前回からの続き、後半です。

入ってはいけない山道に迷い込んだ高坂家の車は後戻りもできずに・・・。



「姉ちゃん、さっきから何をゴチャゴチャ言ってるんだよ?」
 ガタン!
 その時だった。車が何かに乗り上げたように持ち上がって次の瞬間、急停止した。
「痛たたた・・・。天井に頭ぶつけたよー」
「ゴメン、ゴメン、大きな石に乗り上げちゃった」
父はもう一度エンジンをかけようとしたが、かからない。
「あれ?うんともすんとも言わない。エンジンかバッテリーがいかれたかな」
父は車を降りて車体の下を懐中電灯を点けて見ている。山の中の道はすっかり暮れてしまった。道の両側の藪は黒い塊に見える。
「バーベキューしたいよー、バーベキュー」
「うるさいなあ、もうこんなに暗くなって、バーベキューは無理よ。うちに帰ったらフライパンでお肉焼いてもらいなさい」
「うぇーん」
「ワンワンワン!」
弟の泣き声にかぶせてマダナイが吠えた。
「マダナイ、どうしたの?」
マダナイは窓ガラスを爪でガリガリ掻いている。
「マダナイ、オシッコしたいんじゃないの?」
ドアを少し開けてやるとマダナイはすごい勢いで飛び出して走って行った。
「あ、遠くに行かないで!」
こんな山奥で迷子になったら帰ってこられない。私は焦って追いかけようとした。
「まお!走ったら危ないっ」
マダナイの首の鈴がチリンチリンと鳴る。その音だけを頼りに私は暗い道を追う。真っ暗と思ったがマダナイの後ろ姿が見えている。頭の上に半月が照らしているのだった。
「ウウウ~、ウウウウ~~」
 マダナイは暗い森の木に向かってうなっていた。見ると大きな木の上、地上三メートルほどの太い枝に何かがいる。人間ではない。猿?いや、もっと大きい。薄茶色の毛の生えた動物のような生き物。オランウータンやチンパンジーが都会から車で二時間くらいの山にいるわけがない。動物園から逃げ出した?いや、ちがう、猿じゃない、人間?
 枝からもう少し低い枝に移ったその時、枝の隙間から射し込んだ月光に照らされてこちらから顔がハッキリ見えた。猿のような姿に人間の顔が付いている。化け物!この世のものじゃない。立ちすくんでいるとその化け物はスルスルと枝を降りて地面に立った。四足とも二本足ともつかない恰好ですごいスピードで車のほうへ向かって行った。
「お父さん、逃げて!」
動かない車体の下に頭を突っ込んで調べていた父のすぐそばまでそれは近づいていた。異様な荒い息づかいを察知して起き上がった父に化け物は、まさに両手を大きく上げて襲い掛かろうとしていた。
「ああああっ」
父がやられる。これが山の神様?入っちゃい
けない道に来たから神様が怒っているの?ただの化け物じゃないの!
 父は手に持っていたスパナを振り回しているが、立ち上がると身長二メートルはあるそいつには届かない。腕だって片方だけで一メートル半はある、
「ウガアーッ」
ついに化け物が父にのしかかる!その時、
「ワンワンワン!」
マダナイが大きくジャンプして化け物の背中に取り付いて首の後ろに咬みついた。化け物はのけぞって立ち上がり、父から離れた。背中に咬みついたままのマダナイを振り落とそうと体を大きく揺すっている。マダナイは咬みついたまま四本足の爪を立てて化け物にしがみついている。化け物は片手を後ろに回すとマダナイの尻尾をグッと掴んで勢いよく引き離した。マダナイは尻尾を引っ張られていたかったのか、口を開けてしまった。化け物はマダナイの尻尾を掴んだまま振り回して草むらに向かって投げた。
「ギャイーン!」
「マダナイ!大丈夫!?」
鈴の音と鳴き声を頼りに私は夢中で草むらの中に入って行った。
「ダイジョウブダヨ、マダマダ」
そうは言っても刺のある枝や細くとがった枯れ枝でマダナイの体は傷だらけだ。あちこち血が出ている。マダナイから解放された化け物は、ウウォーと雄叫びを上げてまた車のほうに近づいて行く。車には腰が抜けたのか顔も体も固まって動かない母と、恐怖で顔が引きつりきょろきょろ目だけ動かしている弟が乗っている。その後をマダナイが走って追う。マダナイの背中の毛はあちこち血で赤く染まっている。化け物が車に着くより一瞬早くマダナイが化け物の足首に咬みついた。
「ウウォッ」
化け物が足からマダナイを引き離そうとかが
み込んだその時、すかさずマダナイは化け物ののど元に咬みついた。
「ウガァーッ!」
化け物は仰向けに倒れたが、マダナイはまだ咬みついて放さない。化け物は苦しいのかマダナイを掴んだまま地面をごろごろと転がる。化け物の鈎爪のある指がマダナイの耳にかかった。
「キャウッ!」
マダナイが口を開けたその瞬間、化け物はマダナイをはね飛ばし、マダナイは五メートル位も飛んで行って、車の後部座席のドアに当たって止まった。
「チリーン、リンリンリン・・・」
鈴が転がる音がした。首輪から鈴が外れたのだ。その音で我に返ったのか、弟がドアを開けて外に飛び出した。地面の鈴を拾うと私に投げてよこした。
「姉ちゃん、鈴だ。あいつに投げろ」
 私は訳が分からず受け取った鈴を持ったま
まマダナイを見た。ぐったりしたマダナイは、黙って目でものを言っていた。
(ソウダ、マオチャン、バケモノニスズヲブツケルンダ)
 私は夢中で化け物の顔目がけて鈴を思い切り投げた。見事命中。鈴は化け物の眉間に当たって稲妻のような光と音を発した。
「わあっ」
まぶしさと雷がすぐ近くに落ちたような轟音に私たちは目をつぶり、耳をふさいでいた。何十分、いや何時間気を失っていただろうか。気が付いて立ち上がると化け物は大の字になって地面に倒れている。眉間の毛の間に鈴がはまり込んでいる。死んでるのかな・・・?動かない化け物に恐る恐る近づいてみた。猿のような人間のような恐ろしい顔の化け物は動かないが、少しずつ表情が穏やかになっていった。そして体が透き通るように薄くなっていった。地面が透けて見え、最後は白い煙のようになって浮かんで、そして森の中へ流れて行った。宙に浮いていた鈴が地面に落ちてチリンと鳴った。拾うと手の中で鈴はサラサラと砂のように粉々になった。
「マダナイ、マダナイは?」
息はあった。よかった。生きてたんだ・・・。
ぼおっとしていた家族もハッとして車に乗り込んだ。父がエンジンをかけると嘘のように一発でかかった。膝に抱いたマダナイは目を瞑って小さい息をしている。
 いつの間にか空が薄明るくなっていた。車はどっちに向かって走っているのかもう誰にも分からなかったが相変わらず山の中の細い一本道だった。Uターンした覚えも分かれ道に入った覚えもないのに、いつの間にか車はふもとへ戻る道を走っている。不思議なことに、家族にきいてみても、誰も、どの道を通って帰れたのか記憶がなかった。
 マダナイは意外と早く回復した。でも鈴がないのでもう人間の言葉は喋れない。同じ首輪はもうあの店にはないとおじいさんは言っていたけど、もしかしたらまた入荷してるかもと思って、あの店に行ってみた。しかし、店はなかった。近所の人に聞いたが、移転したのでも閉店したのでもなかった。誰もがその店ははじめからなかったと言うのだ。鈴屋があった場所には古い駄菓子屋があり、おばあさんがいた。もう何十年もここで駄菓子屋をやっているそうだが、近所の人と同じことを言っていた。
「あれは夢だったのかな・・・マダナイ、もうお話はできないね」
「ソンナコトナイサ、ボクタチハイツデモ、ココロノナカデ・・・」
「え?今、喋った?」
しかしそれ以来、マダナイが人の言葉を話すことはなかった。そしてあの怪物にやられそうになった時、なぜ弟は鈴を投げると怪物が倒れると気付いたのか、そもそもあの鈴は何だったのか、全て今も分からないままだ。
でも、あの出来事が夢だったとしても、私はマダナイが起こした奇跡を、ずっと忘れない。
「ありがとう、マダナイ」
「ワン!」



いかがでしたか?高校生の書いた小説。



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