幻の湖 その3


  →幻の湖 その2 からつづく
マヤグスクの滝は、下の方は傾斜の緩やかな階段状になっています。
途中までは滝の水を浴びながらでも1段ずつゆっくり登っていけばいいのですが、上の方に近づくと垂直のような急な壁です。

「ウーン・・・」

滝を見上げて高所恐怖症の私はしばらく突っ立っていました。

元山岳部のシマヤさんがザイルを持って登り始めました。スルスルとなんなく滝の上まで着いて、登るのが苦手な私のような初心者のために上からザイルを垂らしてくれました。

小柄な I さんやO先生も自力で登っていきました。ミイちゃんも以前からフリークライミングをやって見たいと言っていただけあって、ザイルの世話にならずがんばって登っています。

とうとう私の番です。

「何やってんだよ、早く登れよ」

リーダーは他のメンバーが登ったのを見届けてから一番最後に行くことになっています。

「あああ、仕方ない、行くか」

ザイルがあるんだし、上には何人もいるからいざとなったら助けてくれるでしょう。

上から下がっているザイルの端を腰に巻いて命綱にします。
お腹の周りにザイルを巻いて普通に固結びに縛ったのでは、ほどけたり、締まり過ぎたりしてお腹が苦しくなってしまいます。

こういう時は登山家は「もやい結び」という結び方を使います。

舫い(もやい) と言うくらいですから元々は船を繋ぐ時の結び方です。登山家でも船乗りでもない私ですが、もやい結びは身についています。牧場で牛を牛舎の柵に繋ぐ時にはこの繋ぎ方をします。
牛の力で引っ張ってもはずれない、それでいて解いて別の場所に移動する時にはワンタッチではずせるように、結び目が固く締まり過ぎない便利な結び方です。

もやい結びで命綱のザイルを身体に結び付けて滝の階段を登り始めます。

上に行くにしたがってますます恐怖感が強くなっていきます。滝の水は雨が少ない時期とはいうもののの、すごい水量で音を立てて落ちています。両手で岩にしがみつき、一歩ずつ上がって来ましたが、絶壁に近い岩をこれ以上は登れないと思いました。かと言って、戻るわけにも行かず、立ち往生のまま、泣きたくなります。

「何を止まってんだよ、どんどん登っていけよ」

「コ、コワイヨ――ッ!!」

階段状の滝の上まで来ると、その上は幅の狭い竪穴の洞穴のような岩を大量の水が垂直に落ちています。こういうのを登山用語で「ゴルジュ」と言うらしいです。ここのゴルジュは渇水時には穴の中を通って登れるそうですが今日はそこまでは水は少なくないのです。

岩のデコボコに指をかけて身体を支えていますがチビリそうです。

滝の水はバケツの水をかけられたように勢いよく頭に当たります。
姿勢よく上を向いて登っていけば楽なのでしょうが、岩に身体を貼り付けるようにして、スパイダーマンのようにしがみついているのでちっとも進みません。

足元を見ると、上から落ちてくる滝の水は後頭部を直撃し、額に巻いていた鉢巻タオルが吹っ飛んで滝つぼに沈んでいきました。

「わあ、前が見えない!息ができない!キャー、メガネが取れるーっ!」

一人で騒ぐ私に他の人たちは呆れていたのかも知れません。でもこの時は自分の今の状態に頭が真っ白だったのです。

興奮していつの間にか私は両手を放してザイルにつかまっていました。その途端、重心が岩から離れ、体が浮いて、足がツルンと滑り、私はザイルにぶら下がったまま空中に飛び出してしまいました。

「ひぇえーっ!!!!!!」

宙ぶらりんのまま、ザイルだけを頼りにしっかり握っていましたがそのままザイルロープのよじれと水圧でクルーリ、クルーリと回転しています。遊園地のコーヒーカップに乗っているように景色がぐるぐる回っています。

「ゴ、ゴワイヨーオ・・・・ヒーッ」

これが楽しいキャンプなんでしょうか?



その4につづく

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