幻の湖 その2


幻の湖 その1からつづく
石垣港からは、前回と同じく西表の船浦港行きの早朝の便に乗ります。
船浦港からはバスで浦内川(ウラウチガワ)の河口まで行きます。

ここから川をジャブジャブと歩いて遡って行くわけではありません。
他の観光客の人たちといっしょに、ここで遊覧ボートに乗り込むのです。

川の両側のマングローブや異国的な亜熱帯ジャングルの景色に観光客たちは

「わあ、すごーい」

などと歓声を上げていますが、私たちは今からもっとすごい所に入って行こうとしています。
ここはまだまだ入り口にさしかかった所です。

数十分後、遊覧ボートは大きな岩の手前で止まり、乗客はここで降ります。
この黒くて平らな岩はその外観から軍艦岩と呼ばれ、ここより上流は岩だらけで船は入れず、終点になります。

船を降りる時に船長は乗客の人数を数えています。来た時と同じ数の乗客がそろわないと帰りの船を出発させることができないからです。

「こっちのお客さんたちは帰りの船には乗らないんだね」

オシャレな旅行者の服装とは明らかにちがうキャンパーの恰好の私たちに船長は声をかけました。
そうです、他のお客さんたちのように1時間後の帰りの船には乗りません。片道切符です。

「ハイ、山でキャンプします」

「縦断か、気をつけてな」

船を降りて少し歩くと有名な「マリユドゥの滝」と「カンピレーの滝」に着きます。
ここまではサンダルやワンピース姿の観光客でも歩いて来れる楽な道です。

普通はここまで来たら、滝のそばの河原でお弁当を食べて休憩してから引き返して、船着場で1時間ほど待っていたさっきの船で川を下って港に帰る、と言うのが一般的な観光コースです。

一般的な観光客でない私たちは河原で昼食、と言う所まではいっしょですが、そこから先がちがいます。


観光客が時間になって元来た道を帰るのと反対に、川に沿って登って行きます。

「あの人たちはまた船で帰って行くんだね、今夜は民宿かホテルに泊まるんだろうね」

そういうのもいいかなあ、とチラと考えながら遊覧ボート乗り場からはどんどん遠ざかっていくのでした。

この辺りは多くの人が歩いて来た登山道になっていて、子どもでもハイキング気分で通れる歩きやすい道です。この登山道を道なりに進んで行けば、島の反対側の村まで出られるのです。

しかし今日は幻の湖を目指す一行の私たちですから、この登山道も途中までで横道に入ります。

「あ、ここだったね」

1時間以上歩いたところで浦内川の本流にイタジキ川という支流が流れ込んでいる場所に出ました。

何年か前にこの西表縦断をしたことがあります。この支流を少し上がると、「マヤグスクの滝」に出合います。この滝は西表で一番美しい滝と言う人もいるくらいです。

「おーい、こっちだぞー」

前回のキャンプに続いてリーダー役を務める夫が迷わずイタジキ川を登って行きます。

川の水は多くないので水に浸かって進むわけではないのですが、その分大きな岩をいくつも超えながら苦労してよじ登っていかなければなりません。

「フウーッ、きついよー」

「お前の荷物が一番軽いんだぞ、がんばれ」

「何よ、この岩・・・、すごい大きさ」

フウフウ言いながら登っていますが、もっときつい行程がその先にあることには思いは及びません。この時はただ、重力に逆らっていることを実感しているだけでした。

普段が運動不足なのか、ハアハアと息を切らせながらようやくマヤグスクの滝の前に着きました。

「ワーッ!すごい!きれいーっ!カンゲキー!」

マヤグスクの滝は初体験のミイちゃん、大感激です。確かにこの滝はきれいです。自然が作ったすばらしい姿をしています。

階段状の岩が何段も続き、その階段に沿うように流れ落ちる水が集まる滝つぼは円形のプールのようです。思わず泳ぎたくなります。
岩の階段は下から上に行くに従って、少しずつ幅が狭くなり、台形のピラミッドのような形になっています。上から順に流れて来る水はシャンパンタワーのように岩を伝わって下りて来ています。

「ハァーッ、ホンマにきれいやわー」

兵庫から来た、いつもは電子機器の仕事の I さん、関西弁で感動。

無口なシマヤさんと獣医のO先生は無言で感動。

「何回見てもきれいな滝だわねえ」

「そんなに何回も来てるかぁ?」

「へへっ、二回目でした」

こういう場所でキャンプしたいなあ・・・、と思っていると、

「よし、今日はここでキャンプにしよう」

・・・(♪ヤッター!)・・・


滝つぼの周りは広くて平らな岩盤になっています。ここでテントを張り、"ウナギ釣りの仕掛けをしに行く"、と"夕食の支度をする"、の二つのうち、好きな方を選んで分かれます。

どっちも興味がないけど私は必然的にご飯炊きになります。

毎回行こう行こうと熱心に誘うのはもしかしてこの仕事のため?




明るいうちに早めに食事を済ませて、まだ初日で余力を残しての一泊目です。

滝の音を聴きながら硬い岩の上で寝るのもいいものです、・・・・・・・・たまには。


翌朝、何と一匹だけ小さなウナギが釣れました。おかずにしてみんなで一食分です。

ウナギと言っても、西表の川で釣れるウナギは店の鰻丼に入っているようなウナギとは種類がちがいます。

ここで言うウナギは「オオウナギ」という、普通のウナギとはまったく別の種類のものです。どちらかと言うとナマズの方に近いかも。小さくてもオオウナギです。大きいウナギという意味ではありません。

以前にテレビ番組で、西表の無人の浜に住む老人が山奥の川でビール瓶くらいの太さのオオウナギを釣って食べるというドキュメンタリーを見たのです。偶然にもこの老人は夫が学生時代に西表でキャンプした頃に知り合って、当時は一緒に酒を飲んだ間柄だったのです。

「ようし、オレもでっかいオオウナギを釣るぞー、一升瓶くらいの日本一のオオウナギを!」

とその時から大きなウナギを釣る目標ができたのでした。

この番組のビデオは何百回繰り返して見たことでしょう。番組内で老人の話すセリフも一言一句間違えずに言えるまでになりました。


オオウナギを食べて精力つけて、出発します。

「今からどっちに行くの?」

「この上だよ」

滝の上を指差すリーダー。

「どこから登るの?」

「ここをそのまま」

「真っ直ぐ?」

「そう、真っ直ぐ」

「まっすぐ・・・」

見上げると階段状の美しく優雅なマヤグスクの滝はこっちに来て登ってみろ、と言わんばかりにドドドドと音を立てて水を落とし続けています。

「ハアーッ、また滝・・・・」

でも今度は前回の滝のように普通に濡れながらもスイスイと登って行かれる代物ではなかったのです。
   →幻の湖 その3 につづく

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No title

クリックありがとうございます。
原作は今までアップした分の10倍くらいのページ数があります。

No title

大変な思いをして、キャンプから帰って来たのに、又幻の湖を探しに西表に行くんですね。
どこからがFictionでどこまでが現実の実体験か分りませんが、大学生になった気分、少年少女の冒険物語みたいで思い白いですね。
しかし、えらぶさん、大変ですねえ、これだけの量の小説を書き続けるとは!熱意に感心しました!
プール付きの豪邸は無理としても、回りに豪華な天然のプールがあって、お金で買えない自然がありますから、もうそれだけで充分ではなうですか!
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