キャンプへ GO その13


        →その12からつづく
何時間も川を泳いで、と言うか、流されて下って来た私たちにとって、この遊覧船はまさに渡りに船ででした。
船長は、リュックを背負って川に浮いている私たち6人のキャンプの一行を見ても、それほど驚いたようでもありませんでした。少なくとも遊覧船の乗客よりは。

もしかすると、今までこういうことをするキャンパーに時々出会ってきたんでしょうか。

「このすぐ上の船着場で待ってな、帰りに乗せてあげるよ」

「やったー!助かったあ!」

もう泳がなくてもすむ。 

歩くより泳ぐ方が好きな元水泳部の私でも、もうこれ以上泳ぐのはたくさんでした。
他の人たちももちろん大喜びです。

すぐ上の船着場というのはさっき私たちが横目で見て通った古い桟橋です。期せずして桟橋上陸となりました。

もと来た道、じゃなくて川を、また泳いで戻り、よじ登るようにして桟橋に上がります。

靴や靴下を脱いでサンダルに履き替えて遊覧船が戻ってくるのを待ちます。

「ちょっと上がってみるか」

遊覧船が上流の方へ行って観光客にマングローブなどを見せてから、戻って来るまでだいぶ時間があります。
上陸して桟橋に続く川沿いの林の奥に入って見ることにしました。
ジャングルと言うよりは昔ここで人が生活していたことを匂わせる土地でした。

「誰かが植えたんだろうね、シークヮーサーがあるよ」

「あ、実が成ってる」

「食べてみよう」

シークヮーサーと呼ばれる柑橘類(和名は「ヒラミレモン」)の木が何本も植えられてあって、主のないまま成長を続け、実がいくつか成っています。何年も手入れがされていないと見えて雑木に囲まれています。

「わあ、スッパイ」
「ほんとにシークヮーサーだ」

かつては人が歩いた道だったと思われるところを進んで行くと、林の奥に屋敷の跡が見えました。

「昔は誰か住んでいたんだね」

「ここなら周りに大きな木があって台風の時も安全だし、川も近いし、快適そうだね」

「買い物が不便だけど」

「電気も来てないじゃん」

「土地は肥えていそうだな」

今が明治か大正時代ならここは確かに住むのに快適な場所だったでしょう。

昨日までゴリラの葉っぱのベッドで寝て原始人のようなキャンプを続けていた私たちは、今の自分たちが原始時代にいるような気がして、ここに住んでもよさそうだ・・・などど無責任な発言をしています。傾く地面で炊事をして、ゴロリとした大きな石を椅子にして腰を下ろして食事をしていたキャンプの後ではどんな廃屋も御殿に見えます。

そうこうしているうちにまた遠くからエンジン音が…。上流に行っていた遊覧船が帰って来ました。

桟橋から遊覧船に乗せてもらいます。きれいな服装の観光客に見られながら乗船した私たちはそのままデッキに移ります。クーラーの効いた下の船室は空いていましたが、濡れた身体で中に入っていく気はしません。これ以上ジロジロと見られたくもないし、乗せてもらっただけでもありがたいので、汚れて敗残兵のようになった私たちは荷物といっしょにデッキで風に吹かれていました。

船から見る川は静かできれいな水面です。その水面を船の舳先は割って波を作って進んで行きます。
あっという間に港に到着。

船長に丁重にお礼を言って港の売店に入ります。ここで石垣行きの切符を買って、次の定期船の時刻まで時間があるので、売店のベンチで一休み。アイスクリームも売っています。クッキーやせんべいも。

「お、お、おいしい・・・ぅぅぅぅ」

原始時代には絶対なかったおいしい物です。



牧場に帰って、リュックの荷物を出します。ミイちゃんに持ってもらったお米の残り、ビニール袋に入れてきっちり口を縛ってあったはずなのに、どこかに穴が開いていたのでしょう。米がすっかり水を吸っています。袋の口を開けて匂いを嗅ぐと、

「ク、臭っっ!!」

米は川の水を吸って、あの気温の中、何時間も置かれて腐ってしまっていました。

私の荷物には鍋しかありませんから濡れて腐る物はないはず。でも一応見てみよう、と出すと、アルミの丸いコッヘルがあちこちボコボコになっています。

「あ、滝で岩の滑り台をした時だ」

リュックを背当てクッションの代わりに使って滑っていたのでコッヘルが凹んでしまいました。


お湯のシャワーを浴びて、

「ああ、原始時代からタイムマシンで戻ったみたいだ」

などと天国気分を味わっていた時、体の異変に気付きます。

「なんか体中痒い」

「ん?・・・この黒いポツポツは何?」

ポリポリ・・・・・・??・・・・・・!!・・・!!!

「キャッ、ナニ!何これ・・・ダニ??!・・・えええええええっ

湿った地面に木の枝を敷きつめて寝た時に付いたのでしょう。西表の山にはイノシシに付くダニがいます。木の葉の裏にでもダニが居たのを知らずに寝て身体に付いてしまったにちがいありません。
小さいものは黒ゴマくらいの大きさ、大きいのはアリの頭くらいになっています。

これはみんなにも被害があるでしょう。

「ミイちゃん!いっしょにシャワー入ろう」

「やですよ」

「そうじゃなくて、背中にダニが付いているかも知れないから」

「えええっ!いやだああ!取ってくださいー」

手足のダニは自分ではがせますが、お尻や背中に付いたのは人に取ってもらわないといけません。
体中に付いたダニをシャワー室でお互いに取り合いっこして駆除しました。


翌日、イトマンを石垣空港に送って行きました。空港では飛行機に乗る前にイトマンは奥さんに電話をしていました。

「予定の飛行機で帰るから、迎えに来て。それと、迎えに来る時、机の引き出しにあるスペアのメガネ持って来て」


イトマンが帰ってから数週間して、どうしているかと思って電話してみました。

「おもしろかったけどさ、あれから"滝"という言葉を聞いただけでゾオッとしてね、体が拒否反応して不愉快になるんですよ」

気の毒に。

「ダニはだいじょうぶだった?」

「あの後、四、五日気が付かなくて」

「うん」

「風呂で、何となく腕を見たらすごく大きな痣のようなホクロがあって」

「うんうん」

「こんな所に、こーんな大きなホクロがあったかな?!と思ったらブドウの粒のように大きくなったダニだったんですよ」

数日間も血を吸い続けたダニは大きく成長してよく太ったのでしょう。

「それで、痒いし、赤く腫れていたし」

「それまで気付かなかったの?」

「奥さんはね、ボクのダニを見てそれ以来、1週間以上は同じ部屋で寝てくれなかったよ」

最後の最後まで気の毒なイトマンでした。

それからも時々イトマンと話をしましたが、必ずキャンプの話になって大笑いするのですが、"またいっしょに行きましょう"と言いませんでした。


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