カウボーイのお引越し その16

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→カウボーイのお引越し その15からつづく
夏休みになったら新しい家に引っ越してのんびり過ごすはずが、連日の引越し作業です。
長い休みなのに子どもたちは遊びに行く暇もありません。
家の中の荷物もさることながら、庭の果樹も引越しです。
20年も住んでいると、家庭菜園の域を越えて熱帯果樹が何本も、それもかなりの大きさになっていました。
これも個人の物ですから持って行って新しい土地に植え替えます。
幸いにも今度の土地の畑は広いのです。
シークワーサー、アセローラ、などの熱帯果樹を根回しして移動します。
根回しもミニユンボの「鉄兵丸」が働きます。
建築はほとんど完成ですがこういう仕事にまたマムさんが来てくれます。
何年も育ててきた果樹の根の周りを深く掘って移植できる大きさに地下の部分をまとめます。
一番愛着があって持って行きたいのは「ボクのトモダチ」のクワの木でした。
でもあまりにも大きく育って、今では大木と呼べる太さになってしまったクワの木は運ぶのはむずかしいでしょう。
思い出のあるクワの木。
子供が生まれる前に1m足らずの高さで太さも指くらいしかなかった細い苗だったのに。
植えた2年後に子どもが産まれ、子どもたちといっしょに成長していったクワの木は家族のようなものでした。
数年前に水道管敷設の工事をしました。
それまで谷の水をポンプで汲み上げて引いてきていましたが、市の水道水を使うことになったのです。
水源の近くで道路工事があって、保健所で調べてもらうと谷の水は飲み水には適さない水になっていました。
水道管を地中を掘って埋めるのには台所近くのクワの木の大きく横に張り出した枝がじゃまでした。
大きな機械が入らないので、一番太い枝を切り落とすことになりました。
その時も子どもたちは、(私も)泣きたいくらいに悲しかったのです。
枝にロープを下げてブランコにして遊んだり、それを足がかりにして木に登って屋根の上まで上がったり。
大事な枝だったのです。
枝を一本切るだけでも悲しいのに、この木を丸ごと置いて去らなければならないというのは辛いことでした。
他の木は根回しが済んで持って行って移植しました。
そしてまだまだ引越し作業が続く中、夏の例年の現象が起きました。
台風です。
毎年の恒例行事のように台風は必ず来るのです。
建築途中でなくてよかったです。
新しい家は壁も屋根も窓、ドアも完全にできあがって台風に対しての心配はありません。
台風が来る季節の前に完成させようとがんばって6月中に工事を終わらせたのです。
新しい家は戸締りを完璧にして、家族は牧場に帰ります。
台風が過ぎるのを待つ事にします。
久々に引越しの作業はお休みです。
あまり大きくない台風だったようで一晩経っただけで暴風は強風に変わりました。
まだゴーゴーと風の音はしますがそっと台所裏のドアを開けて外の様子を見てみます。
「あああっ、クワの木が!・・・・・・」
植えてから十年以上経って、今までどんな猛烈な台風にもびくともしなかったあのクワの木が、傾いてしまっています。
完全に倒れてはいませんが元の位置へ修復するのは人間の力では不可能です。
鉄兵丸を使って起こしたとしてもかえって根を傷める事になるでしょう。
どっちにしてもこの木の所有権は放棄しなければならなかったのです。
「ボ、ボクのお友だちが・・・・・・・」
中一になっていた鉄兵もショックなようです。
クワの木の周りに何本も根を張っていた他の木を掘って持って行ってしまったからでしょうか。
地盤が緩んでいた所へ大雨が降って強風が吹きましたからこうなってしまったのでしょう。
二十年前に初めてこの牧場に来た時は住宅の周りには木の一本もなく風の音だけが聞こえて荒涼とした原野のように見えました。
いつしか、植えたクワの木だけでなく、こぼれ種から生えたクワの苗も生長して大きな木になっていました。
他にも飛んで来た種から生えた雑木などで家の周りは木に囲まれて、森のようになっていました。
遠くから見ると牧場の中に小さな森があり、その中に小さな家があるという状態でした。
大草原の小さな森の小さな家だったのです。
森になってからは直射日光は避けられて、日中壁が熱くて触れないということはなくなりました。
トイレも浴室も涼しくなって、以前のようなサウナ状態ではなくなりました。
その代わりちょっと風通しが悪くなって蚊が多く、それに室内は昼間も薄暗くて電灯を点けていましたが。
牧場閉鎖と同時に解体されたトラックが牧場の仕事の象徴なら、このクワの木はここでの子育ての生活の象徴だったように思えます。
二十年近く続いた牧場での生活も終わりを迎えようとしていました。
→カウボーイのお引越し17につづく
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