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カウボーイのお引越し その1

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イノシシ天国 その15からつづく


趣味を重視しながらも牧場の仕事は真面目にやっていました。

ここの牧場は私たちが来たばかりの頃はずいぶんと黒字でした。

島の畜産農家の中でもあそこはいい牛を出すと有名だったのです。

ただ、セリ市の会場で牛が良く暴れることでも有名でした。

「アンタのとこの牛は闘牛みたいだね」

と言われたこともあります。

数頭だけ飼っている農家では、毎日牛をわが子のようにかわいがっているのでセリ市でも飼い主の後をおとなしくついて歩きます。

うちの牧場は放牧が中心なのでロープで繋がれることに慣れていない牛たちはいやがって暴れます。

特に放牧場で生まれて一年近く育った子牛はのびのびと、野生の牛のように生きてきたのです。

生まれて数ヶ月経った所で親子いっしょに放牧場から牛舎に移動してきます。

ここで親子の牛は別々のパドックに分けて飼われます。

今までお母さん牛のおっぱいを好きな時に好きなだけ吸っていた子牛もこの日で離乳です。

当然さびしくて鳴きます、大声で。


モーーッ、モーーーッ

「うるさいなあ、一日中モーモーと」

「昨日離乳したばかりだからなあ」

一度に数頭から十頭を離乳しますから鳴き声も数倍です。

牛舎から五十m離れた住宅まで鳴き声は聞こえてきます。

モーモーとしか鳴きませんが、牛の言葉で

「おかあちゃーん」

と呼んでいるのでしょうか、ちょっと切ない。

母牛の方でも子牛に飲ませられるはずのおっぱいが張って痛くなって、

モーーッ

その声を聞いてまた恋しくなって子牛が

モーッ

「いつまで鳴くんだ」

「まあ、2、3日の辛抱だよ」

本当はおっぱい無しの状態に子牛の身体が慣れるのに一週間くらいはかかるのですが、三日も鳴き続けていると子牛も鳴き過ぎで声が枯れて息しか出ません。

風邪を引いて声が出ない人のようにかすれ声で

「モホーホホッ、ヒーッ」

一生懸命鳴いていますが聞こえません。

静かになりました。

鳴き交わしていた母牛もあきらめたのか、感じなくなったのか、鳴きません。

「ああ、これでやっとぐっすり眠れるわ」

「そうか?毎晩スヤスヤ眠ってたように見えたぞ」

「いいえ、眠れませんでした!!」


離乳が終わると子牛はよく草を食べるようになります。

青々した新鮮な草とトウモロコシ、ムギ、フスマ、ダイズなどの穀物の餌を食べさせて体重を増やします。

そしてセリの日が近づくと出荷の子牛を選びます。

数週間前にロープ飼いに慣らしておけばいいのでしょうが・・・。

セリの日の一日前くらいになってセリ市に持って行く子牛を捕まえてロープに繋ぎます。

追い掛け回された子牛も必死です。

狭いパドックの中、二十頭ほどの子牛たちの中からセリに出す牛を選びます。

牛の耳に着けた番号札―「耳標番号」を見て捕まえます。

「そいつだ、その外を向いてる大きな奴を捕まえろ」

「わ、他の牛がじゃまだ、向こう行けっ!」

子牛は群れで動くので全体がドドドッと同じ方向に走ります。

「ああ、もう、つかまらんなあ、そいつだ、そいつ、二十一番」

「クソッ、また逃げられたー」

「仕方ない、先に十七番捕まえよう、そこにいるぞ」

「わあ、また逃げられた」

狭く限られたパドックの中でカウボーイたちと牛たちの鬼ごっこみたいなことが続きます。

四角いパドックの中を丸くグルグル、ドタドタと走る牛とカウボーイたち。

子牛といってもせりに出すような生後一歳前後の牛は体重が二百kg以上あります。

体当たりされたら吹き飛びます。

カウボーイたちが疲れてきた頃、大捕物の末ようやく予定の牛たちを全部捕まえて角と鼻にロープをかけてこれで一段落。

初めて自由の身から囚われた姿になった子牛。

場合によってはこのときに初めて鼻に鼻環を付けられる牛もいます。

鼻環、つまりロープを通すための鼻ピアスです。

牛にとってはとんでもない災難の日です。

追い回されて捕まり、いきなり押さえつけられて鼻にピアスをされてロープに繋がれて自由を奪われてしまうわけです。

針を刺されて予防注射というのもあります。

突然に人間不信になるのも無理はありません。

かくして翌日セリの会場に向かうトラックに載せる時にも牛は怖がって踏ん張り、一歩も動きません。

カウボーイ全員が力ずくで大汗かいて荷台に載せて会場まで行きますがそこでもまた牛と格闘です。

「ドナ・ドナ・ドーナ」と感傷に浸っている暇はありません。

わけわからず恐ろしい所から逃げ出そうとする牛と、ロープの綱引きになります。

時にはロープを持った手が滑って放してしまい、会場の外にまで牛が逃げ出すことも。

場外乱闘です。

飼い主に引かれて牛がトコトコと素直についてくる農家の人は笑って見ています。

「またあの牧場の闘牛大会が始まったぞ」


いえ、笑われても、毎月何頭もの子牛を出荷できていたこの頃が、思えば牧場の最盛期でした。


カウボーイのお引越し その2につづく

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イノシシ天国 その15

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イノシシ天国 その14からつづく

ある日、子どもを学校に送って行ったときに学校の近くのSさんに会いました。

「ねえねえ、牧場のイノシシ逃げたって言ってたでしょ」

「え?」

どうして知ってるの?!あ、このまえ遊びに来た子か。家に帰ってお母さんに話して、お母さんが近所のひとと会話して・・・。

「それが何か?」

「昨日隣村の学校のPTAにイノシシ肉の寄付があってね」

「はい・・・」

イヤな予感。

Sさんは隣村で仕事をしていたこともあるし、顔が広いのです。耳も早いけど。

「そのイノシシは、隣村のUさん、あなたも知ってるでしょ、牛飼い仲間だから」

「うんうん、・・・・・・・」

ますますイヤな予感。

「そのUさんがお宅の牧場のすぐ裏の山に入って鉄砲で獲ったんですって」

ドキッ!!!!

「大きくて、よく太って、普通のイノシシとちがってたって」

ガーーン!!!!!!!

「毛の色も、肉の色もちがったって言ってたよ」

ああああああ、決定的。グスン。

「・・・・・・・・・・」

「お宅が飼ってたイノシシって本土のもので種類が違うって言ってたよね」

「うん、そうだけど・・・・」

「獲れたイノシシはそれじゃなかったの?」

たぶんそうです、いえ、まちがいなくそうです。

そりゃあ、よく太っていたはずです。

毎日エサをやって囲いの中でのんびりくらしていたのですから。

でも、それはうちのイノシシだ、なーんて言ってもその証拠はないし。

主張するとかえって困ることになります。

イノシシを逃がしたという責任がかかってきます。

近くの畑は山のイノシシの被害が多くて農家の人は迷惑していたのです。

畑の作物をかじったり、草の根を食べるために牧草地を鼻で掘って荒らしたり。

そういう害獣を放してしまったということが知れたら苦情が来ないとも限りません。

それにしても、今まで何年もエサをやり続けていたのは何のためだったの。

和歌山の田舎から何時間も車を運転して関空まで運び、人間並みに高いペット貨物料金を払って飛行機に乗せて連れて来たイノシシが・・・。

本土産のイノシシと地元のリュウキュウイノシシといっしょに飼って掛け合わせを育てるんだということでしたけど。結局両者の間に子どもは産まれず、雑種のイノシシを作ることはできませんでした。

牧場に遊びに来たお客さんに見せて自慢していただけでした。

『食用にしないのにどうして買っているんですか』と聞かれて、

『毎日エサをやっているだけです』と答えていた父さん。

でも、毎日エサをやっていたのは私なんですけど。



「残念だったね、獲られちゃって」

考え込んでいた私を気遣って気の毒そうに声をかてくれるSさん。

「え?あ、う、うん・・・・・・」

「それで、そのイノシシだけど」

「はい」

「すぐそばでもう一頭、合計二頭獲ったんだって」

「えーーーーーーーーーーっ!二頭とも獲られちゃったの?!」


ギャフン!


カウボーイのお引越し その1につづく

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