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イノシシ天国 その14

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イノシシ天国 その13からつづく



家から一歩も出ちゃダメとは言っても、子どもたちは遊びたいのです。

家に帰ってこないで学校や友達の家で遊ぶ分にはかまいません。

夕方迎えに行ってやればいいのです。


そして、数日後、

「今日、くるみの家に遊びに行ってもいい?」

「え、ちょっと困るな」

「何で?」

「危ないからよ」

「危ないことなんかしないよ」

「そうじゃなくて、うちは危険なの」

「何が?今まで遊びに来てもよかったじゃない」

(イノシシが家を包囲してるからだよ)

「ううん、今は・・・まあいいか。その代わり家の中だけで遊んでね」

「いいよ」
うちの子は遊びに行かせているのに、よその子は出入り禁止というのもおかしいと思われます。

車に乗せて連れて来ましたが、我が家の子どもたちのように車から素早くプレハブのドアに直行してくれません。

「早く、外に居ないで、家に入るの!」

「え?」

友達の手を引っ張って急いでプレハブの中に押し込みます。

「イノシシがその辺に逃げているんだから」

「ひゃー」

「絶対に外に出ないでよ」

「うん、わかった、出ないよ」

あーあ、できればイノシシが逃げていること、誰にも知られたくはなかった。


毎日家の外に出るときは気をつけて見ているのですが、イノシシの姿が見えません。

夜行性ですから昼は藪の中などでじっとして寝ているのかもしれません。

逃げる前のイノシシたちはそうでしたから。

昼間はエサを食べる時以外はいつ見ても寝ていました。

夜は歩き回っているのかも知れませんが、もともと夜間は外には出ません。

ハブに咬まれたくないですから。

毎日同じ場所にエサだけは撒いていますがそれを食べに来た形跡があるのでたぶん遠くには行ってないでしょう。

しかしそれもあまり食べなくなりました。


「他に食べ物を見つけて生活しているってことか?」

困ったことになりました。

山に逃げてしまったらつかまえられません。

以前に逃げ出したイノシシは仲間が恋しかったのか、食べ物が山で見つけられなかったのか、だいぶ経ってから自分で戻って来ました。

そして檻の周りをウロウロと入りたそうにしていました。

一部金網を開けてやると素直に入って一件落着となったのでした。

今回もそれを期待しているのですがなかなか戻ってきません。


家のドアの前に居座られるよりは人間にとって安全ですが、財産である家畜(売りも食べもしないからペットというのでしょうか)を失うのは悲しいことです。

「いつか帰って来るさ」

(生きていれば・・・。)

心配なのは、今がイノシシの猟期だということです。

牧場の前をイノシシ狩りの車が通る時期になりました。

「うちのイノシシ撃たれちゃったりしないかな?」

「うーん、どうかな、山の中に行かなければいいんだけどねえ」

そうこうするうちに父さんが和歌山から帰って来ました。

でもおばあちゃんの所にまたすぐ帰って行かなければなりません。

手術が終わってもまだリハビリが必要なのでそのめんどうを看るために数日したらまた行くのです。

つまり島での用事を済ませるための一時帰国(?)です。


「エラいことになったなあ」

「まだ遠くには言ってないと思うんだけど」

「エサを少しずつでも食べてるんなら夜になったらここに来てるってことだろう」

運よく父さんがいる間に大きいイノシシが二頭、しかもオスとメスが帰ってきました。

逃げた檻の近くまで来ています。


「おい、おいっ・・・」

小声で父さんが呼んでいます。

「今がチャンス?」

「オレがドアをそっと開けるから、後ろから静かに追ってきてくれ」

イノシシを驚かさないようにゆっくりと近づきます。

急に近づいたり大きな声を出したりすればビックリして逃げて行ってしまいます。

「はい、はい、いい子だねえ、行きなさいよ~~」

猫なで声で優しく追って追い込み成功。

あともう一頭。

「入った一頭が逃げないように見張っててくれよ」

「見てるよ」

「そんな遠くからじゃなくて、ドアを塞いで」

「ええっ、またあ?」

せっかく入れたのにまた逃げられては困ります。

でも逃げようと突進してきたら、ドアの前にいる私はどうなるの?

「大丈夫だよ、自分から戻ってきたということは帰りたかったんだよ」

それもそうです。

入ったメスのイノシシは囲いの中で落ち着いています。

「オスはメスのそばに行きたがるもんだ」

「ふーーーん・・・」

「何をニヤニヤしてるんだよ」

「イノシシも人間も同じだと言いたいのか?」

「いえいえ、フフッ」(動物は大体そうかな?)


「ほら、オスが来た」

オスを入れるべく、ドアの前を開けます。

中のメスが出るか、その前にオスが入るか・・・。

「ゆっくり挟み撃ちにしろ」

「ハイッ、ハイッ、行きなさいよー」

「あ、入った!!」

「やったあ!」

「早くドアを閉めろ」

これでひとまず二頭は捕獲。

そしてまた父さんが出発して行ってしまいました。

まだ二頭逃げています。

実はこのころ、イノシシどころではなく、もっと大きな問題をかかえていたのでした。

牧場は経営難から危機を迎え、牧場自体の存続が危うくなっていたのでした。

そのことはいずれまた別の章にしてお話しましょう。



→イノシシ天国 その15につづく


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イノシシ天国 その13

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イノシシ天国 その12からつづく

「ああ。弱ったなあ」

前門の虎、後門の狼・・・じゃなくて前門のシシ、後門のシシ・・・です。

もうとっくに子どもたちを迎えに行く時刻になっています。

比較的弱そうなイノシシがいた方の南側のドアを細めに開けて外の様子をそおっと窺います。

「ホッ、居ない・・・今がチャンスだ」

車はいつも通りに裏口に近い所に停めてあります。

でも何本もの木に囲まれて見通しが悪いのです。

イノシシに出くわしても素早く逃げるのにも歩きにくいですし。

ここはちょっと遠くても安全な方の出入り口を使うべきでしょう。

ドアを開けると車に向かって飛び出します。

〝明日に向かって撃て〟

いやそんなにカッコよくないか。

一応戦う場面になっても襲われないように護身用の長い棒を持って。

タタタタッ、バタン!

運転席に乗って車のドアを閉めてひと息。

さっきまでイノシシがでんと構えていた裏口には今のところ姿は見えません。

でも周りが藪だらけですからその中に隠れているかも知れません。


学校で子どもたちを迎えて帰る車の中で・・・。

「お母さんこの棒何?」

「イノシシ避け」

「?」

「イノシシが逃げちゃったんだ」

「何匹逃げたの?」

「たぶん四頭くらい」

「え?!」
「え!」

「あとでイノシシの檻のところに行って確かめるよ」

「まだ見てないの?」

「だって家の周りをイノシシがウロウロしてて怖いんだもん」

「ええっ!」
「ええっ!」

「今朝はいつもの裏口を開けたらそこに居た」

「えええっ?!」
「はああっ?!」
「えええっ?!」

「だから今日はプレハブのドアの近くに車を着けるからそっちから家に入ってね」

「・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」

プレハブというのは、母屋にほとんどくっ付けて設置されたプレハブ小屋のことです。

子どもたちが大きくなって家が狭くなってきたので、それまで空き地に置いてあったものを移動して子どもの勉強部屋にしたのでした。

プレハブを購入した当初は実習生の寝起きする住宅に、その後は物置になっていました。

プレハブのドアの正面に車を停めて、少し様子を見ます。

「今は居ないみたいだな、よし、今だ、行けっ!」

車とプレハブ小屋の入り口まで2mほどですが、念のためにそこに私が護身用の棒を持って立ちます。

子どもたちはバタバタと最短距離でプレハブ小屋に入りました。

「わ、押すな」
「ずるい、お兄ちゃんだけ先に行かないでよ」
「ヤダー、くるみが先だ」
「こら、襟首引っ張るな」

わずか半間の引き戸を半分ほど開けたところで、三人がわれ先に入ろうとするもんだからラッシュアワーのようになってしまいました。

順序良く入った方が早いでしょうに。

「争ってないで早く入りなさい」

ドアのところで団子になって詰まっている子どもたちの背中を押して中に押し込むと上がり口でつまずいて、ランドセルを背負ったまま将棋倒しのように重なってしまいました。

「わ、わ」
「痛いよー」
「ムギュー、重いー」

「ホホホ、よかった、無事に帰れて」

「ちっとも無事じゃないじゃないか」

「まあ、とにかく、窓を渡って母屋に行っておいてちょうだい」

プレハブの部屋の奥の、高さ1mほどの窓を開けてやりました。

子どもたちは次々と、今度は順番に窓枠を乗り越えて向こう側に渡って行きました。

母屋の窓とプレハブの窓は向かい合っていてその距離は40cmくらいしかありません。

窓から窓へ渡れば子どもでも簡単に母屋に移って行かれます。

ドア・ツゥ・ドア・・・じゃなくて、ウィンドー・ツゥー・ウィンドーです。

そうでなければ家の外をぐるっと回って入らなければなりません。

「イノシシが家の周りに何匹もいるから外に出たらダメよ」

「わかってるよ」

今までも夜はハブが出るから外に出てはダメ、と言って来たのに、今度は昼でも家の中に閉じこもっていなければなりません。

「つまんないよー」

「仕方ないわよ、イノシシに取り囲まれてるんだから」

向こうの囲いには何頭残っているんでしょう。

窓から外を見て、イノシシが近くに居ないのを確認して素早く見に行きます。


「あ、いない、一匹もいない」

裏に回って見ると、表からは草に隠れて見えなかったのですが金網には大きな破れ目が・・・。

これでは元の場所に戻してもまた出てきてしまいます。

金網を直さなければ。

いえ、こんなにイノシシがウヨウヨ周りに居たのでは落ち着いて修理できません。

イノシシを追い込むのにも手が足りません。

当分は家から出られません。

外出する時は靴を抱えて窓からプレハブにササッと移って車に乗る時の三秒間だけは外の空気が吸えるというわけです。

脱走イノシシに対する三秒ルールです。

ライオンや熊が逃げ出したわけじゃないですから、それほどピリピリしなくてもいいと思うのですが、あのカミソリのように鋭い牙を知っている者にとっては、子どもを不用意に戸外に出す気にはなれません。


昔の話ですが、山中の細い一本道(おそらくけものみちと重なっていたのでしょう)を一列になって歩いていた人たちがありました。

そして反対側から来たイノシシと鉢合わせしてしまいました。

イノシシもビックリしたのでしょう。

逃げ場もなく、人間たちの間を勢いよく体当たりしながらすり抜けて通っていきました。

運悪く股の間をイノシシに通られた人がいました。

昔のことなので厚手の作業ズボンなどは履いておらず、着物でしたから、その腿の内側を牙で直に斬られて出血死してしまったという話です。


真偽のほどは確認のしようがありませんが、ありそうなことです。

うちでは毎日ふんだんに食糧は与えているし、人を襲って食べたイノシシというのは聞いたことがありません。

肉食ではないし。

でもまあ、あまり刺激せずに静かにしていた方がいいのです。

しばらくは三秒ルールを守っていました。

イノシシたちはそんなに遠くには行かないし、これ以上悪いことにはならないと高を括っていたからです。




→イノシシ天国 その14
につづく

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イノシシ天国 その12

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イノシシ天国 その11からつづく


健やかに大きくなったイノシシたちに、ただエサをやって太らせ続けている毎日でした。

ある日の夕方、台所でお皿を洗っていると、家の南側の斜面に面した草むらに、何かガサッと動いた音がしました。

「ん?また牛が脱柵したのか?」

窓からは丈の高い草が茂っているのが見えるだけです。

以前は家庭菜園にしていた場所ですが、イノシシの第三放牧場にと金網で囲っていたのです。

その後ほとんど使われないで一年、二年と経つうちに、草ぼうぼうのジャングルのようになってしまいました。

囲いの端もところどころ破れているらしく、たまに放牧場から脱柵した牛が迷い込んできます。

牛の姿を確かめようと、台所に近い裏口から外に出てみると・・・。

「アレ?何だ、今の・・・」

藪の中に逃げ込んだ瞬間、その動物のお尻がチラリと見えました。

なんか、牛にしては小さいような・・・。

子牛にしては動作が機敏。

いや、あのこげ茶色の丸いお尻は・・・牛じゃないぞ!

ということは。


そうです、イノシシが逃げたとしか考えられないのです。

急いでイノシシの囲いの所に行ってみます。


「あ、こんな所に穴が・・・」

数えてみるとイノシシの数も一頭足りません。

取り敢えず、あり合わせの金網のきれっぱしで穴をふさいでおきます。

「あーあ、お父さんのいない時に限ってこういうことが」


そうなんです。和歌山の一人暮らしのおばあちゃんが手術をすることになって、父さんはしばらくその看病のためにそちらに行っているのです。

囲いの中に残っているイノシシがそれ以上逃げないように穴をふさぎましたが、すでに逃げて行った一匹はどうしましょう。

今のところは大人一人ではどうすることもできないのでしばらくはそのままということになります。

ここで生まれて何年も育ってきたイノシシはそうすぐに遠くに行くことはありません。

外に出ては見たものの、むしろ元の仲間の所に帰りたくて囲いの周りをウロウロして、追うと簡単に囲いの中に入ってくれることもあるのです。

今までイノシシが脱走したことはありましたが、そうやって遠くに逃がさないうちに確保してきたのでした。

「逃げたイノシシ山に行かないかな?」

「毎日金網のそばにエサを撒いてやろう。それを食べている間は遠くには行かないよ」

数日はそれでよかったのですが・・・。


ある日、裏口を開けた時に目の前にいた大きなイノシシに至近距離で遭遇してしまいました。

「わ!こんな近くに!」

反射的に慌ててドアを閉めていました。

急いで鍵を掛けて奥の部屋に移ります。

そこで今見た光景を反芻してみます。

(?・・・今のイノシシ、身体大きかったな)

逃げているのはわりと小さなイノシシのはずでした。

(それに2頭いたように見えたけど、錯覚かな?)

とにかくもう一度確かめてみよう。

恐る恐るドアをそおっと細めに開けてみます。

イノシシは裏口のすぐ外で、桑の木の根元に昨日捨てた魚の骨をバリバリ噛んで食べていました。

家の周りをうろついている野良猫たちのために残飯を裏口から外の桑の木の下にポイッと投げておくのが習慣でした。

ムシャムシャと食べているイノシシのその口には大きな鋭い牙が・・・。

(あ、一番大きなオスだ!)

その後ろには二番目に大きなイノシシ。

食べながらチラとこちらに視線を向けています。

目が合っても知らん顔してまだ食べ続けています。

取敢えずドアを閉めて考えます。

(あんなにドアの真ん前に居座られたら外にも出られないわ、もうちょっと家から離れてもらおう)

再びドアを開けて野良犬でも追っ払うように

「しっ、しっ・・・」

イノシシは逃げるどころか、カフカフ、シャキシャキと歯ぎしりをして威嚇します。

イノシシの歯ぎしりは悔しくてするわけではありません。

戦いの前に牙をこすり合わせて研いでいるのです。

つまり戦闘態勢です。

「ヒャー、こわ~~~」

そうこうしているうちに、学校へ子どもを迎えに行く時刻です。

「しかたがない、反対側から出るか」

台風が頻繁に来る石垣島の家は大体が二方向以上に出入り口があります。

風向きによってはドアも窓も開けられない方向があるからです。

3~4方向にドアがあれば風がくるのと反対側のドアが少なくとも一ヵ所はあることになります。

普通は台風時は外には出ませんが、停電になった夏の日、扇風機エアコンもなしの亜熱帯で窓をすべて閉め切って一日中は過ごせません。

 いつもはほとんど使っていない東側のドアから外に出ると、

「ええっ、ここにもイノシシが来てる」

先回りして反対側のドアで待ち伏せ?

それほど賢くはないでしょう。

もう一度家に入って裏口を開けて外を見ると、やっぱりさっきのイノシシは同じ所に2頭いました。

「ということは・・・」

何頭逃げているの?

家はイノシシに包囲されてしまいました。



イノシシ天国 その13につづく

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イノシシ天国 その11

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→イノシシ天国 その10からつづく

家畜を釣るにはエサです。

イノシシにいつも与えているトウモロコシのフレークの袋を持ってきました。

毎日やっている農協のエサの袋を見せただけで条件反射のようにイノシシは走って寄ってきます。

「今だ!」

父さんが急いで金網の修理をしている間、イノシシの気をこちらに向けておかなければなりません。

時間を稼ぐためにわざとエサの袋をガサガサさせて、金網越しにチビチビと勿体ぶってのエサやりです。

金網を閉じるのが終わるとイノシシに気付かれないように素早く脱出した父さん。

「ああ、怖かった」

「バカ、オレの方がこわかったぞ」

となりの囲いに入れたメスは草に隠れています。

しばらくイノシシを入れていなかったのでそちらは雑草が茂っていました。

出産を迎えるのに好都合です。

オスのイノシシはメスの方にも行かれず、からかう相手の人間もいなくなって所在無げ(・・・かどうかわかりませんが)囲いの中でウロウロしていました。

この状態でイノシシたちは数年間飼われることになるのです。

ウリボウが産まれたりもしましたが、一番大きなイノシシは体重が80㎏を越えたと思うくらいよく太りました。

もう絶対人間より強いです。

戦う気はありませんが。

「わあ、イノシシ飼っているんですか」

遊びに来た人に自慢げに見せる父さん。

毎日エサをやってるのは私なんですけど。

「はい、あまり近づくと危ないですよ」

「いやいや、手を出したりはしませんよ。咬まれるんでしょ」

「え、そうじゃなくて、そんなにソバに行かないで・・・」

ビチャッ!

「キャッ、汚い!なんか飛んできた」

(だから言ったじゃないの)

「すいません、地面がドロドロで・・・」

「何だ、これ、泥っていうかウンコ混ざってる?臭いよ」

お客さんの白いシャツは101のダルメシアンみたいに黒い(こげ茶?)斑点になってしまいました。

このイノシシの放牧場、いつも「ぬかるみ」です。

晴れた日が続くと地面が乾きますが雨の季節はグチョグチョでイノシシが歩くたびにビッチャビッチャと足音がします。

いくら泥に身体をこすって泥浴びが好きなイノシシでもこれはちょっとひどいかな。

ときどきトラクターで乾いた土や砂を入れてやりますけど、すぐ水っぽくなってしまいます。


エサは、農協で買ってくるエサだけでは足りないので残飯も投げてやります。

残飯と言っても人間様が食べないもの、つまり卵の殻や魚の骨、果物の皮など。

そんな物でもバリバリと喜んで食べています。

草の根も掘って食べるくらいですから。

しかし臭い。

イノシシの体臭ではなく残飯とどろどろ地面の臭いです。

住宅のすぐ目の前にイノシシの囲いがあるのでにおいは家の中まで風に乗って流れてきます。

「臭い、ご飯がまずくなる」

「窓を閉めろ」

閉め切って一日中エアコンを点けることになってしまいました。


「あのう、イノシシを飼ってどうするんですか?」

よく人に聞かれます。

「ええと、どうするって」

「食べるんですか?」

「最初は食べるつもりで飼い始めたんですけど・・・」

「あの大きなオスなんてすごいですね」

確かによく太って肉がたくさん取れそうです。

「売れますね」

はい、でも捕まりません。

中に入ったら殺されます。

「こんなに大きくなったら捕まえることもできなくて、売ることも食べることもできませんよ」

「じゃあ、子どもが産まれたら捕って食べればいいですね」

「そうですね、仔豚の丸焼きで」

そう冗談を言いますが、ウリボウが産まれたらそれはそれで可愛くて食べるなんてできません。

こうして、イノシシは順調に育って増えては行きますが食べも売りもせずに毎日エサをやっていました。

動物好きでかわいいのならペットですけど、私は動物を飼うという趣味はありません。

誰もやらないから仕方なくエサをやっていますが本当は動物好きじゃないんです。

臭いし。


「イノシシ、どうして飼っているんですか?」

さあ、どうして飼っているんでしょうね?


数年経って子どもたち(人間の)が学校や幼稚園に行くようになって、友だちを連れて来るようになりました。


「この家、なんか、くさいよ」

「なんでアンタの家、臭いの?」

イノシシがいるからです。

それだけならいいのですが、ついに恐れていたことが起きました。

→イノシシ天国 その12につづく

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