ひ弱な野生児 その1

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→カウボーイ募集中 その6からつづく
野鳥さんが来てくれたおかげで私も楽になって来ました。
ちょうど妊娠したことがわかった時だったので本当に助かりました。
暑い季節が来てお腹が大きくなった私はカウガールの仕事がだんだんきつくなってきました。
やせっぽちで寒がりだった私もお腹にいつもカイロを入れているみたいに
「暑い、暑い」
を連発していました。
仕事の合間の休憩時はクーラーの冷気を直接受けて体を冷やしていました。
牛舎の牛にエサをやるのも、一苦労です。
飼槽(コンクリート製のエサ箱)に新しいエサをやる前に、前回のエサの喰い残しを取り除き、竹ぼうきできれに掃くという作業があります。
普段はどうということもない軽作業なのですが、身重の時はこれが辛い。
特にかがんで飼槽の中の草の残りなどを拾うのが大きなお腹の身には苦しいのです。
「ふーっ、ふーっ」
「何やってるんだよ、早くやれよ」
「やってるわよ」
「モタモタしないで、もっとパパッとやれよ。ホウキで早く掃いてくれないとエサがやれないだろ。サッサとやれ、サッサと」
「ん――ん、もう頭に来た、もうこんなのいやだ!カウガールやめたっ!」
男である夫には妊婦の辛さがわかりません。
そういう私も以前は、つまり妊娠前にはこういうことが全然わかりませんでした、
妊婦さんが、ただ坂道をゆっくり歩いているだけなのにフウフウ言って、息が上がっているのを見てふしぎに思っていました。
(そんなにキツイかなあ、体重が3~4kgくらい増えただけでしょ)
とか、(普段からよほど運動不足なんじゃないの?)
くらいにしか思っていませんでした。
今もしそう思っている人がいたら1度妊娠してみるとわかります。
体重が重くなった、お腹が太った、だけではないのです。
体内にもう一人人間がいるのです。
胎児はへその緒を通じて呼吸しているわけです。
つまり妊婦は二人分の呼吸をしているのと同じです。
安静にしていても軽い運動をしている時と同じくらい酸素を使っているわけです。
それが運動をするとなればもっと酸素が必要になってちょっと動いてもハアハアしてしまいます。
おまけに平素から低血圧で貧血だった私は、お腹が大きくなってからは座っているだけで肩で呼吸するくらい息が上がって、酸欠状態でした。
これでエサやりの仕事をすれば、空気の薄い高地で動くみたいなものです。
それなのに「サッサと動け」などと言われたのでプッツン来てしまいました。
「来週の東京行きの切符 予約したから」
「ええっ?出産予定までまだ3ヶ月以上あるよ。だいぶ早くないか?」
「いい、少し早めに飛行機に乗らないと心配でしょ」
「まあ、そうだけど」
出産予定日まで1ヶ月未満の妊婦が飛行機に乗る場合、医師の付き添いがないと搭乗を断ることがある、と航空会社の
案内には載っています。
機内の気圧の変化で産気付いて、最寄の空港に緊急着陸、とか機内で出産となったらタイヘンです。
横浜の実家で出産を希望していたので早めに移動することにしました。
カウガールでこき使われる牧場から脱出です。
高齢出産で不妊治療の末にやっとできた赤ちゃんです。
二度目はもしかするともうないかも知れないと覚悟していました。
だから大事を取って、病院に近く、便利のいい実家に行って出産することにしたのです。
もう一つの理由は、離島でしかも牧場があまりにも僻地だから、ということです。
具合が悪くなっても野中の一軒家です。助けを呼べません。
救急車に来てもらうとしても離れた消防署から救急車は来るのです。
しかも病院まで20㎞。
出産後も近所の家のない牧場で夫婦だけで赤ちゃんを育てるということになるわけです。
初めての子育てで何もわからない新米の母親としてはちょっと不安だったのです。
一人で飛行機に乗ることになりました
預け荷物の中にベビーベッドがあります。
石垣島の知り合いがお下がりのベビーベッドをくれたので、産後すぐ使えるように実家に持って行くことにしたのです。
宅配便で送ると梱包や送料がめんどうですが、乗客の手荷物ならタダです。
「じゃあね、行って来るね」
「ああ、気をつけてな、元気な子をブリッと産んで来いよ」
「プリッと産んで来るわ」
行きは一人で飛行機に乗って、帰るときには赤ちゃんと二人になって帰ってくるのです。
「人間を増やして帰って来るなんて女は偉大だ」
妊娠したくても不可能な夫はつぶやきます。
離陸して数時間後には折りたたんだベビーベッドを荷物といっしょに持った私は羽田空港に降り立っていたのでした。
実家で世話になりながら出産の日を待ちます。
年末のはずの予定日が近づいても兆候がありません。
高齢出産のためでしょうか、
「全然陣痛もないし、子宮口も固いなあ。帝王切開にしましょうか」
「え!自然分娩は無理なんですか?」
「ううううん・・・それじゃあもう少し様子見ますかね、」
結局年内には陣痛も来そうもないようなので年明けてから入院して帝王切開することになりました。
「プリッと産むつもりだったのになあ」
「仕方ないさ、年明けたら時間作って子供の顔見に行くよ」
大晦日の朝になってついにその兆候が始まりました。
まだまだ先は長くなるでしょうが、一応その日に産院へ。
入院はしたものの、陣痛らしい陣痛も来ないし、子宮口も開かないし、お産は始まりません。
「こりゃ、やっぱり年末年始の休診日が開けてから帝王切開ですね」
「は、はい、よろしくお願いします」
産院で様子を見ながら年越しすることになりました。
元旦の食事はきれいなおせち料理。
「わあ、正月に入院というのもラッキーだったかな、フフフ」
などとのんきに暇そうにしていましたが、夜になると何度もトイレに行くことになりました。
妊娠中は便秘になる人が多いようです。ホルモンの関係か、運動できないせいか知りませんけど。
トイレに行ってどんなにがんばっても解消しません、便秘。
「ウ――ン」
苦しいものです、便秘。
赤ちゃんだけでなく、ウ○コまでプリッと出てくれません。
何度も大きいお腹でベッドを上がり下りしているうちに、
「パシャ」
あれ!・・・もしかして・・・破水?
すぐにナースコール。
「あらら、破水しちゃったのね。お腹に力入れたんじゃないの?できるだけ動かず安静にしていてね。破水は一度始まったら止めることはできないから」
さっきまでなかなか出て来なかったのを無理に出そうとしていたのは、ウ○コではなくて胎児だったのでした。
どうなっちゃうんでしょう。
助産師さんは宿直でいてくれましたが、帝王切開となれば執刀は医師でなければなりません。
「困ったわねえ、先生は今夜の産婦人科仲間の新年会に出かけられたのよ」
「えええっ!」
携帯電話が普及する前のことです。
お腹に心電図を見る線を着けられて監視体制に入りました。
「微弱な陣痛がある度に胎児の心音が弱くなるのが気になるのよねえ」
「何か異常でも?」
「そうかも知れないけど・・」
早く帰って来てくれないかな、先生・・・。
→ひ弱な野生児 その2につづく
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