赤ちゃん礼讃 その8

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赤ちゃん礼讃 その7 からつづく

クリニックの先生の指示通りに、毎日ボロボロに汗をかいて働いていたある日・・・。

「私、病院行って来ようと思うんだけど」

「どうかしたか?」

「あのさあ、今まで順調だった生理がもう1週間もないんだけど」

(いよいよかな?ドキドキしますねえ)

「ふうん、どうしたんだろうね。なんか悪い病気じゃなきゃいいけどねえ・・・」

(あら、ふつうは、『ホントか?!』とか言って期待するんじゃないの?こういう場合。それとも男はニブイの?)


実は私には勝算がありました。

3ヶ月前のことです。



「もうすっかり内膜症は治ってますよ」

「先生、本当ですか?」

「よかったですね。順調に排卵があるし、今から投薬を止めたら3ヶ月くらいで妊娠しますよ」

「ありがとうございます」


そう言われたのが3ヶ月前、ということは・・・。

****************

島の病院の産婦人科は込んでいて長い時間待たされます。

「心配だからオレもいっしょに行くよ」

とついて来た夫は総合の広い待合室で座っています。


検尿してしばらく経ってから呼ばれました。


「ええっと、尿検査では一応、妊娠反応プラスになってますけどねえ・・・」

看護師さんは慣れた調子で淡々と、穏やかに告げてくれました。

「え?え!は、アハ、あ、そ、そうですか、ウフ、ウフ」

冷静を装っても顔が自然とほころんでしまいます。


産婦人科で妊娠がわかったら自分はどんな反応をするだろう、とかねてから想像していました。



「せ、先生、ほんとうですか!!あ、ありがとうございますう、ウウウウ」

と、うれしさのあまり泣き崩れる・・・・・


・・・・のかなあ、ドラマみたいだけど。

などと思っていたのですが。


現実には顔がヘラヘラと慢心の笑みになってしまうのが気恥ずかしくて、口を無理に結んでいました。

その顔で診察を受けたものだから頬がヒクヒクしてしまい、余計に恥ずかしくなりました。

「妊娠プラスですけど、もう少し後にならないと胎児の形がエコーに映らないんですよ。また来週来てください」

「は、はい、ありがとうございます」

早く顔中で笑いたかったのでそそくさと産婦人科を出てきました。

子沢山がふつうのこの島では、子どもができた、ということは特別にめでたいことや珍しいことではなく、ごく当たり前のことなのでしょうか。

いえ、私くらいの年齢なら、当然4人目か5人目の妊娠と思われたのでしょう。

それであまり大げさでない対応だったのかも知れません。

それでも私たちにとっては記念すべき受胎告知なので、あまり軽々と、

「はいよ、ラーメン一丁あがりっ」

みたいに日常的な会話にはしたくなかったのでした。

でもまあ、吉報でよかったです。


総合待合室に行くと、夫が不安げにこちらを見ています。

大きな待合室ですが、いつもながらぎっしり込んでいます。

当時は島で唯一の総合病院だったので、外科、内科、耳鼻科など、外来の患者たちとその付き添いの人たちで、受け付けと会計窓口の前の待合室はごった返しています。

ざわざわした待合室の奥のベンチの夫にVサインを出してニコッと笑い、合図を送ります。

『やったね!』

という口元で。

普通はこれで分かると思うのですが、彼はいぶかしげにこちらを見たまま突っ立っています。

(アレ?わからないかな、Vだよ、Vサインだよ、V、V)

顔の横でブイブイやって合図を送っているつもりでした。

まだ彼はまじめな顔でずうっとこちらを見て立ったままじっとしています。





赤ちゃん礼讃 その9 につづく

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赤ちゃん礼讃 その7

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  →赤ちゃん礼讃 その6 からつづく

毎日カウボーイ、じゃなくてカウガールの仕事でクタクタになっていました。

これもクリニックの先生の指示に従っているのです。

治療の一環でなくても牧場の仕事はやってみると心と身体の健康によい気がします。


放牧に出さずに牛舎で飼っている牛が10頭以上います。

それは病気で治療の必要な牛、もうすぐセリ市場に出荷予定の牛、それから種付けをする牛・・・つまり妊娠させる準備をしているメス牛です。

ここの牧場は母牛に子どもを産ませて、その子牛がある程度の大きさになったら出荷して収入にする子牛生産牧場だったのです。

だから何十頭もいる牛のほとんどがメス牛と子牛です。
オス牛は1~2頭もいれば充分。

放牧の100頭ものメス牛にオス牛は1頭だけ、ということもあります。

「わあ、一夫多妻だあ、いいなあ、オレも牛に生まれたかったなあ

などと不謹慎なことを言う男性には説明をしてあげます。

「人間でよかったのかもよ」

「どうして?」

「牛でも産まれてくる赤ちゃんはオスとメスがだいたい半分ずつのはずでしょ?」

「まあ、そうだろうね」

「ということは、100頭のメス牛に1頭だけのオスを入れたら、残りの99頭のオスはどうなると思う?」

「うーん」

「あぶれちゃうでしょ?メスに一生出会えずに・・・」

「肉になっちゃう?・・かわいそうだな」

(アレ、かわいそー ってことは、ご自分は残る1頭の方だと考えていらっしゃる?)

「人間でも結婚相手にきびしい条件出す女性がいるでしょ」

「安定した職業とか?」

「たとえば年収は1000万円以上、学歴は超難関有名大学の卒業、身長は180cm以上、できればイケメンで、家柄は良く、・・・」

「うううう・・・・」

(参ったか!)

「牛なんて肉質、体格、父親、母親の家系を何代もさかのぼって優秀な血筋の血統のものしか子孫を残せないのよ」

「ボクだったら・・」

「それに今は冷凍保存の精液を使って人工授精することの方が多いからオスはメスの数の百分の一も必要もないのよ。1000頭に1頭でも、10000頭に1頭でもいいんだわ」

「ふうん、じゃあ残りの9999頭のオスは・・」

「おとなの牛に成長する前に去勢するの」

「キョ、キョセー?!」

「うん、オスらしい体つきになると肉が固くなっておいしくなくなるから、メスみたいな体にしてメタボみたいに太らせておいしい脂ののった肉にするの」

「・・・やっぱりオレ、人間でいい・・・」


オス牛の話はこの際どうでもいいのです。

今気にしてるのはメス牛が無駄なく妊娠できるか、です。

中には妊娠しにくいメス牛もいます。
ホルモン注射や子宮の消毒とか牛も治療をするのですが。

狭いパドックに閉じ込めて何ヶ月も飼っているのもあまりよくないかと、牛舎横の放牧場に若いメス牛を出してやりました。

若いけどなかなか妊娠しないメス牛。

何ヶ月ぶりかに牛舎の外に出た牛、うれしそうにピョンピョン飛び跳ねて草の上を走っていきます。


その数日後、この牛にも長くなかった発情があって、その後妊娠したのです。

「ふーん、やっぱり外で身体を動かすっていうのが自然でいいんだわ」

人間も同じ生き物ですからそうなのかも知れません。

あやかりたいものです。


赤ちゃん礼讃 その8 につづく

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赤ちゃん礼讃 その6

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  →赤ちゃん礼讃 その5 からつづく

秋になりました。石垣の秋というのは11月以降です。

テッちゃんも半年の実習を終えて大学に戻って行きました。

最後に残った従業員のヨシダさんもその数ヶ月後に本土の実家の近くに転職が決まって引っ越して行きました。

そうするとこの広い牧場の仕事は夫婦二人だけできりもりするということです。

従業員募集の広告を雑誌に載せたり、貼り紙をしたりしていますが、希望者はすぐには見つかりません

二人でなんとかやっていました。

「オレの作業ズボンは?」

「昨夜洗濯して部屋に干してあるわ」

「扇風機かけっ放しだよ」

「冬は毎日雨だもの、外に干せないでしょ。乾燥機がないから一晩中扇風機回して乾かすしかないの」

そうなのです。青いサンゴ礁の石垣島、冬場は北風で天気が悪く、雨の日が多いのです。

10日以上も降り続くこともあります。

「まだ何枚もズボンあったじゃないか」

「どれも大きく破れているからダメよ」

有刺鉄線の牧柵をくぐったり、またいだりの毎日ですからそうなります。

「縫ってくれよ」

「その暇がないんだってば」

朝から晩まで仕事、夜は牧場の勤務日誌や牛の記録を細かく書く仕事があります。

雇われカウボーイですから、本社への報告義務があります。

「仕事でクタクタだし、時間もないし、まともなご飯作れないわ」

「他に炊事係りがいないからなあ」

慣れてくれば家事も上手にこなせるようになるんでしょうが、なにしろ始めたばかりのカウガールですから。

「仕方ないな、でもクリニックの先生が身体を動かして働けと言うんだから、それは外せないな」

「近くにコンビニもないし」

「スーパーでまとめて弁当買って来よう」

一番近いスーパーでも牧場から20kmはあります。

「閉店間際に行ったら半額だったよ。たくさん買ってきた」

・・・ドサッ・・・

「わ!何食分よ、そんなに」

「冷蔵庫に入れて置いて、食べる時にチーンだよ」

究極の手抜き料理です。いえ、料理とは呼べません。

毎食半額弁当の日がしばらく続きました。

夜は勤務日誌を書いて、寝る前に作業着を洗濯して部屋に干して扇風機を点けておく、という毎日でした。

昔の農家の女性はこんなだったのかな。

もしかすると今でも働き詰めの人もきっとたくさんいるはずです。


なかなか新しい従業員が見つからないので忙しく身体を動かす結果になりました。

仕事と平行して不妊治療も続いていました。

薬を服用しながら、体温表もつけています。

頻繁に上京して診察を受けるわけにはいかないので、基礎体温表のコピーをファックスで東京のクリニックに送ります。

そして日時を決めて電話で先生と話して指示を受けます。

状態に適した薬を郵便で送ってもらい、診察料と薬代を現金書留で送ります。

遠隔地の患者は通信治療です。

薬は効き目の軽いものに替わっていき、症状はよくなっていっているようです。

額に汗した分だけの成果はあるんでしょうか。

ないと困るんですけど。




赤ちゃん礼讃 その7 につづく

おねがい

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赤ちゃん礼讃 その5

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赤ちゃん礼賛その4からつづく


今日から私は牧場の女カウボーイ「カウガール」です。


「私は何すればいい?」

「朝の見回りからだね」

「今日は東の一番近い放牧場だね」

「ペンチ持って行くの忘れるなよ」

カウガールの毎日の主な仕事は放牧場の見回りです。

ブカブカの長靴に作業着。手にはペンチを持って。
全然カッコよくないです、カウボーイ・・じゃなくてカウガール。
移動は「馬に乗って」じゃなくて歩き。
少し離れた所ならバイクか軽トラ、というのが現代のカウボーイです。

放牧と言っても外側には柵があって牛が逃げないようにしてあります。ところがこの柵を破って逃げる牛がいるのです。

柵はいつも点検して破れ目を見つけたらすぐ修理します。

一枚の放牧場は100~200m四方はあります。
それでもそこに牛を何十頭も入れておくとすぐ草を食べてしまうのです。

夏はまだいいのですが、冬場は草の伸びが悪くなって牛が食べるのに草の伸びが追いつきません。

夏は亜熱帯の石垣島も、冬はあります。最低気温10~12度の日もあるくらい寒くなります。

そこが熱帯と亜熱帯のちがいです。

夏によく伸びる熱帯向けの種類の牧草を植えてあるので余計に寒いのに弱いのです。


牧草が短い芝生のようになるまで食べ尽くし、お腹の空いた牛たちはブーブー不平を・・、と言うか、ブタではないのでモーモー不満げに鳴きつづけています。

「牛たちがお腹すいたって文句言ってるよ」

「仕方がないだろ、草がないんだから」

「隣の草の多い区画の方に移してやれば?」

柵一つ向こうには青々とした草が茂っています。それが見えるので牛はそちらに行っておいしい草を腹いっぱい食べたいのです。

「ダメだよ。そんなにすぐ移したら、次々に移動しなきゃならないだろう。あっという間に一巡しちゃうじゃないか。まだ最初の所の草が伸びていないのに戻ってきたら、牧場中の草がなくなっちゃうよ」

「なるほど、一区画を徹底的に食べさせて時間を稼ぐのか」

「そういうこと。草の伸びるのを待って、なるべく移動する回数を減らして草の短い冬を乗り切るんだ」

そういう計画だったのです。

3月まで何とか持たせれば、4月からは石垣は暑い夏。草もどんどん伸びて草刈りも追いつかなくなります。

それまでの辛抱、と人間は思うのですが、牛にはその考えは通じません。

牛の頭の中には「将来」という言葉はありません。

あるのは見えている草だけ。

しかも柵一つ向こう、20センチのところに青々としたおいしそうな草が豊富に、

「食べてください」と言わんばかりにそよ風に揺れています。

「隣の芝生は青い」

ということわざを牛が知っているとは思えませんが、ちょっと離れた所の草は余計においしそうに見えます。

柵の手前で牛はそれを見て長いヨダレを垂らします。

いえ、実際には空腹の時には牛のヨダレは出ません。

あれは満腹のときに反芻するので出るのです。


柵に少しでも切れ目があるとそこから脱走する牛があるので柵の点検は大事です。

柵の点検が済んだら今度は牛の健康チェックです。

近づいて異常がないか見るのです。



「午後から牛の群れを移動するからな」

「群れを追えばいいの?」

「いや、ずっと後ろからオレたちが追うから、群れから外れる牛が出ないように群れと平行に歩いてくれればいいんだ」

   **************

「オーイ、群れがそっちに行くから」

「わかったー」

放牧場は平坦な土地ではなく、丘の傾斜地に作られているので牛を追って斜面を上ったり下ったりして息が切れます。

足元はもちろん長靴。ハブを踏まないようにです。

草に隠れた地面はデコボコ。ドタドタと走って大きな石につまづいて何度も転びそうになります。
というか転びました。

牛は想像以上に走るのが速いのです。何と言っても4本足ですから。

つまづいた地面の足元には小さなスミレの花。

頭の上の空をカンムリワシが輪を描いて飛んでいます。

「ピピピ ピイピイピーイ」←(カンムリワシの声です。)

牧場の裏山は特別天然記念物のカンムリワシの営巣地域だったのです。

牧場のカウガール、なんか健康的で不妊症も治りそう・・・なんですが。




赤ちゃん礼讃 その6 につづく

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赤ちゃん礼賛その4

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赤ちゃん礼賛その3からつづく



スクワット運動が終わって、次回の予約を入れて一度帰ります。

不妊治療には保険が利かないし、時間もお金もかかるのです。

根気と財力に余裕がないと続きません。

不妊は病気じゃないから健康保険が使えないんでしょうか。

こういう点をなんとかしないと、日本の出生率はそう簡単には上がりません。

         *********************

「ただいまー」

「おう、どうだった?子どもできた?」

そんなわけはありません。
何日も東京に行ってたんですから。
これで妊娠してたらエライことです。

「できるはずないでしょ!」

「わかってるよ、冗談だよ」

「まだどこが悪いってすぐにはわからないよ」


たまたまこの年は他に用事があって上京する機会が多くあったのです。


以前に新婚旅行で無人島に行って自給自足キャンプをしたことがあった、と書きました。

その無人島生活のことや牧場での経験を本に書いて出版したのですが、それが映画化されることになったのでした。

その打ち合わせや契約のことで東京に数回行くことになっていたのでした。


とはいえ、毎週飛行機に乗って東京に行くこともできないので、しばらくは律儀に毎朝基礎体温を測って記録するのでした。


次にたまった体温表を持ってまたクリニックに行った日に原因がわかりました。

  ************************************

「MRIの結果をみると、どうもあなたの場合、子宮内膜症ですね」

「え?シキューナイマクショー?」

「これが原因の人は多いんですよ。現代人特有の病気ですねえ」

「はあ」

「でもいい薬がありますよ」

「ホントですか」

「ですが薬にだけ頼っていてはいけません。下半身の血流をよくするために運動をしなさい。身体を動かさないとこの病気は治りませんよ。自分の力で治すんですよ。わかりますか」

「運動ですね。先生、それならさっき駅からここに来るまでの間、遠回りをして散歩を30分くらいして来ました」

「散歩?そんな散歩くらいじゃ運動とは言えませんよ」

「はあ?」

「あなた、たしか牧場でしたねえ」

「はい、そうですけど・・・」

先生はカルテと、初めに書いた申込書の夫の職業欄を見ていました。

「でも、牧場の仕事は主人がやっていて、私は従業員ではないので時々手伝うくらいです」

「せっかくそういう場所にいるんだから、ご主人といっしょに同じように身体を動かして汗をいっぱいかいて働きなさい」



というわけで半信半疑ですが先生の指示に従ってみることにしたのです。

   ************************

「・・・・って言われたんで、私もカウボーイやることにした」

「カウガールだな。ちょうど人手が足りなかったんだ」

その頃従業員が辞めていて、人を募集しようと思っていたところだったのです。

夏休みが終わって3人の実習生は帰ってしまいました。

夫の他はヨシダさんと長期実習生のテッちゃんだけです。

「アルバイトも雇わなきゃと思ってたんだ、ちょうどいい、がんばってもらおうか」

女カウボーイの誕生です。

トラクターの運転もできないし、男並みの力仕事はできませんが、それでもやれる仕事はたくさんあったのです。



赤ちゃん礼賛 その5 につづく


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赤ちゃん礼賛 その3

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赤ちゃん礼賛 その2 からつづく

普通の産婦人科の患者さんの年代が20~30代中心なのに比べて、そこのクリニックは明らかに少し上の、30~40代が多いように見えます。

考えてみればそれはそうです。

結婚してすぐに不妊治療を始める人はあまりいないと思います。

何年か経って、赤ちゃんができないので意を決して不妊専門の病院のドアを開くのが普通でしょう。

その時点で少なくとも30歳近くになっていることが多いわけです。

不妊の検査や治療には時間がかかるものです。

長年不妊だった人が、今日初めて外来診察を受けて、
1週間後に妊娠、なんてことはあるはずがありません。

治療には数年かかる場合も多いのです。
結果、患者の年齢も上がってきます。

このとき私は38歳。
不妊治療を始めるにはもうギリギリの年齢でした。

「次の方どうぞ」

長いこと待った後で呼ばれて診察室に入ると、
年配で上品な先生が親切に対応してくれました。

 *******************

検査をしたからといってすぐその場で結果がわかるわけではありません。

次回に来るまでは毎日基礎体温表をきちんと毎日つけなければなりません。

診察室の隣の部屋に、今日初診の患者たちが案内されました。

もう子育てはとうに終わったであろうと思われる看護師さんの指導で体操をします。

「不妊の方は下半身の血液循環が悪い場合が多いんですよ」

「はあ」

下半身の不妊予防の体操と言ってスクワットみたいな運動が始まりました。

「文明が発達した影響でしょうかねえ、現代では運動不足の人が多いですね」

「は、はい」

スクワットしながら返事をして周りを見ると、

なるほど患者さんたちは、運動とは縁のないオシャレで素敵な服装の人たち。

待合室にいる人たちもきれいに髪をセットし、お化粧も持ち物も垢抜けています。

専業主婦なのかキャリアウーマンなのかわかりませんが、
髪振り乱して子育てに追われているのではないので
きれいにしていられるのでしょうか。

まあ、小さい子が何人もいるとお母さんは一日中子どものことばかり見ていて、鏡で自分の顔を見る時間はほとんどありません。

子どもの顔や髪は気にしても、自分の髪をとかすのを忘れていたりすることもあるのです。



輪になって、患者どうし顔を見ながらまだスクワットは続いています。

罰ゲームではありません。健康な母体を育てるための運動です。

下半身の血行をよくするために。

私以外はブランド物のワンピースやニットのアンサンブルでスクワットを繰り返しています。

これで効くんでしょうか?




赤ちゃん礼賛 その4につづく


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赤ちゃん礼賛 その2

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赤ちゃん礼賛 その1からつづく

都内の山手線のある駅から遠くない所にそのクリニックはありました。

近くに美術館や外国の大使館もある静かな所です。

ドアを開けるとすぐの待合室は患者さんでいっぱいでした。

でも、今まで通ってきた石垣の産婦人科とは全く雰囲気がちがいました。

田舎と都会のちがいだけではありません。


それは・・・・・・・。



石垣島に限らず普通、産婦人科の患者さんというのは、
妊娠している女性、産まれたばかりの赤ちゃんを抱いた人がほとんどです。

年代も20~30代の人が中心で、診察には幼児もいっしょに連れて来ていることもあります。

診察室はお腹が大きい人、小さい子の声、新生児の声があってにぎやかな感じです。

病院と言えど、病人が集まる他の科とはちがって患者さんは明るい表情です。

婦人科の病気で診察に来る人もありますが、それでも患者さんの半分以上は健康な人です。

石垣のクリニックに不妊治療のために通っていた時には内心肩身の狭い思いをしていたのでした。

小さな島なので産婦人科でも知り合いに会います。

    * * * * * * * *

「あら、ついにお子さんができたの?よかったわねえ 

「いえ、ちがうんです、その反対です」

「え?」

「なかなかできないから検査に来てるんです」

「あ、そうだったの・・・」

急にテンションが下がってしまいます。



もっと気分を害したのは、

「子どもさんは何人いるの?」

「いえ、まだ・・・」

「へえ、結婚して何年も経つでしょ」

ダメじゃないの、がんばりなさいよ」

「はい・・・」


がんばってないわけじゃないんですけどねえ。

さらには、

「ボクなんか、7年間で6名も立て続けに子ども作ったぞ。
アンタ、何やってるんだ、早く作らんとイカンよ


返す言葉が見つかりません。

(家畜じゃないんだから、たくさん産みゃあいいってもんじゃないわよ)

などという失礼な言葉は口が裂けても言えません。ハイ。

本当は、若いのに何人も子どもを育てて生き生きとしている女性などを見ると、

尊敬の念が湧いて来るのでした。

産婦人科に治療に行くたびに疎外感を味わっていたのです。


それが、都内のこのクリニックの待合室に入った途端、不思議な雰囲気の印象に驚きました。

ここは不妊治療専門なので、患者さんは子どものいない人ばかり。

赤ちゃんの泣き声も匂いもありません。

お腹の大きい人もいません。

診察日に連れて来る上の子もいません。

不妊専門のクリニックなので、それは当然なのですが。


待合室は実に静か。

でも普通の病院のように、病気のせいで苦しそうで辛そうな病人たちが順番を待つ、というのでもありません。

患者はだいたいがセンスがよくてちょっと裕福そうに見える、オシャレなミセスたちです。

そのナイスミセスたちは静かにソファに腰掛けてシーンと診察の順番を待っています。


この独特の雰囲気のクリニックに私はこれから何度も通って治療を受けることになるのでした。

赤ちゃん礼賛 その3 につづく


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赤ちゃん礼賛 その1

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前回から最新記事をトップに持ってきています。

↓第一回から読みたい方はここから読み始めてください。
キャンプへGO その1


アイ ハブ ア ハブ その 13からつづく

ここまで読んでいて気が付かれたと思いますが・・・。

キャンプ“家族”と言いながら家族は私たち夫婦しか登場していません。

そうです、まだ子どもができないのです。

テッちゃんがハブに咬まれた時で、すでに結婚7年目でした。



「また今月もダメだった・・・。」

「そうか・・・」

子ども大好きの夫は結婚する前から子どもが欲しくて、名前まで決めていたのです。

それに比べて私は、というと、

まあ、そんなに急がなくても自然に任せれば・・・と、のんびりしていました。


出生率減少問題は別として、夫婦の間に子どもが何人いるか、いないか、は全くプライベートな話です。

他人がとやかく言う話でもないと思うんですけど。

でも「孫が欲しい」という夫の両親の率直な希望もプレッシャーに感じてしまいます。

別に直接いやみを言われたわけではないのですが。


「〇〇さんの家に赤ちゃん産まれたんですって」

「××のところも二人目だって」

(〇〇さんも××もずうっと年下の後輩です)

赤ちゃん誕生のカードや写真付き年賀状が届く度に

“よかったね”

という感情から、

“いいなあ”

という羨望に変わり、そのうちに

“クッソー、なんでうちにはコウノトリが来ない!”

という妬みというか焦りに変わっていくのです。

結婚後4年経ったころから地元の産科クリニックで検査していましたが、不妊の原因ははっきりわかりませんでした。

それでも基礎体温表は記録しておきなさいと言われ、毎朝目が覚めると婦人体温計を口にくわえるところから一日が始まるのでした。

キャンプ中も例外ではなく水銀体温計をリュックに入れて行きました。

険しい山道を歩くたびに揺られ、開けてみると体温計の水銀柱はバラバラに途切れてしまっていたこともありました。

人工授精、漢方薬、ホルモン注射、といろいろな治療をしていました。

数年過ぎても効果がなく、私は確実に高齢出産の年になっていました。

産婦人科のお医者さんは、

「おかしいですねえ、ご主人の方にも問題があるかも知れませんね」

「そうですか?」

「ご主人にも漢方薬を出しておきますから飲んでもらってください」

帰宅して伝えると、

「そんなバカな!オレはどこも悪くないぞ!」

とご立腹。

「でもそんなこと調べないとわからないでしょ」

わかるっ!!」

「なんでそんなこと言えるの?」

「大学時代に研究室の顕微鏡で確かめたんだ。」

夫は大学院で畜産の、特に家畜繁殖学の研究をしていたのでした。

羊の精子を観察するはずの顕微鏡で何を見てたんでしょう。

「顕微鏡を覗いたら、何億匹ものオレ様が元気に泳ぎ回って
いるのを確認したんだ。
絶対にオレには欠点はないっ!!」

孫悟空のように何億人もの分身の夫のバックコーラスにそう言われれば、従うしかありません。

「ええいっ!もうそこの病院はダメだ。大都会の不妊専門の大きな病院に行って来いっ!」

横浜の私の母に頼んで、実家近くの産婦人科に聞いてみてもらいました。

その先生の恩師という方が、都内で有名な不妊治療の権威のお医者様だったのです。

紹介状をもらって東京の病院へ検査と治療に行くことになりました。

「時間がかかっても、しっかり診てもらって来いよ。」

「わかりました、行ってきます」

重要な任務を仰せつかった三蔵法師の旅立ちのように責任重大に感じて出発です。


赤ちゃん礼賛 その2につづく


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アイ ハブ ア ハブ その 13


いつも更新を楽しみにしていてくださる方のために、今回から最新記事をトップに表すことにしました。

アイ ハブ ア ハブ その 12 からつづく

その日、やっと全員そろって牧場に戻ることができました。

一週間ずっと牛にエサをやって留守番していてくれたヨシダさんと、キャンプに参加しなかった井上君が笑顔で出迎えてくれました。

「お帰りなさい」

「お帰りなさーい」

すごくうれしそうにニコニコ、と言うかニヤニヤしてるように感じます。

「ハブに咬まれたんだって?災難だったなあ、クククク・・・」

「たいへんでしたねえ、ふふふ・・・」

疲れてボロボロになった私たちにねぎらいの言葉をかけてくれるのはいいんですが、

『オレたち、キャンプに行かなくてヨカッター!』

とその顔にしっかりと書いてありました。

ニ、三日後、テッちゃんはまだ靴は履けないのでまだサンダル履きです。

でも日常生活にはほとんど支障がないほどにまで回復していました。

腫れも自然に引いていました。

メスで切った傷はカサブタになっていました。


結局テッちゃん、病院には一度も行きませんでした。

その代わり1ヶ月くらい経ってからリーダーが診察を受けることになりました。

          ******************

「先生、高い所から落ちて、胸を強く打ったんです。1ヶ月も経つのにまだ痛むんです。微熱もありますし」

「骨折かヒビだと思いますが。
 時間が経っているのでレントゲンには写らないですよ。
 微熱は炎症のためでしょう。
 薬を出しておきますから飲んでください」

抗生物質をもらってきて飲み続けていました。

「どう?まだ痛いの?」

「うん、薬は飲み終わっちゃった」

「薬がなくなったらまた来なさいって言われたんでしょ」

「めんどうくさいよ、病院なんて」

「だって薬がないんじゃ・・・」

「うちにあるのでいいよ」

「同じ種類の抗生物質はないわよ」

「あるよ、牛用のが」

「ええっ?!家畜用の薬を飲むの?」

「成分が同じならいいんじゃないか」

「牛の・・・クスリ・・・」

「体重に比例して量を加減すればいいなだよ、効果はいっしょだ」


やっぱり動物病院でよかったのかも・・・・


赤ちゃん礼賛 その1につづく

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アイ ハブ ア ハブ その12



アイ ハブ ア ハブ その11からつづく

もうかれこれ1時間もみんなでテッちゃんを探しています。

「もしかして先に一人で船に乗って帰っちゃったとか?」

「そんなばかな、財布も何も持たず手ぶらなんだから」

さんざん名前を呼んで探し回った頃、大きな岩の陰からヒョコッと現れたテッちゃん・・・!

「な、な、なんだ、どこにいたんだよ」

「いやあ、意外と早くに着いちゃって、みなさんが来るのを待つ間に散歩して、それから休憩してたんです、すみません」

かなり大きな声で呼んだのに気が付かなかったということは、待ちくたびれて岩の上で眠っちゃったんでしょうか。

それにしてもずいぶんと治りが早いものです。

1週間前にハブに咬まれた人とは思えません。
もしかするとジャングルの野戦病院に入院したのがよかったんでしょうか。
西表の山の空気が自然治癒力を高めてくれたのかも・・・。

でもみなさんがもしハブに咬まれたときはテントの病院ではなく普通の病院に行かれた方がいいと思います。もちろん動物病院ではなく人間の病院です。


テッちゃんの回復に反比例するようにリーダーの元気がありません。

「どうかしたの?テッちゃんならもうだいじょうぶだよ」

胸が痛むよ

「ああ、後輩をキャンプに連れて来て怪我させちゃったから?」

「え?」

「そうだよね、実習のために石垣に来てもらったのに、休暇中にキャンプに来てこんな山奥でハブに咬まれるなんて」

「うん」

「それに治療のためとは言え、ナイフでテッちゃんの足を傷つけたわけだし」

「あの、それは・・・」

「今は歩けるようになったとは言っても、まだ牧場の力仕事は無理だしね。あと数日は・・・」

「ちがうんだ、胸を岩にぶつけた所が痛いんだよ」

「はあ?」

そうだったのか。後輩をキャンプに連れて来てタイヘンなことになったから責任を感じて「胸が痛む」のではなかったのです。本当に胸が痛かったのでした。

キャンプに来てすぐ新記録のオオウナギが釣れて、うれしくて昼間から酒盛りをしたのでしたっけ。

そこで調子に乗って高い所から川に飛び込み、(というか、酔っ払って落ちたように見えましたけど)、水中の岩に胸をぶつけてしばらく呻いていたのでした。

テッちゃんのハブの一件で忘れていました。

「まだ痛むの?だいじょうぶかな」

「まあ、歩けるし、荷物も持てるし・・・」

と言いながら重いリュックを背負って立ち上がると、

「イテテテ、う――ん、胸が痛いよー」

今度はリーダーが病院に行ったほうがいいみたいです。

ジャングルのテントの病院ではなくて街の普通の病院に。


  →アイ ハブ ア ハブ その13につづく



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アイ ハブ ア ハブ その11


アイ ハブ ア ハブ その10 からつづく

テッちゃん、まだ十分に歩けはしませんが、元気に生きていました。

「よかった、無事だったか」

「何が?」

キャンプに残った方は、ここでは何の刺激もないし、することもなく平和で退屈だったわけで、下山組の人の心配がわかりません。

「来る途中にヘリコプターが上を飛んでてさあ」

「うん」

「心配したんだよ」

「はあ?・・・?」

テッちゃんも含めてテントの私たちはキョトンとしています。


この日、応援隊の持って来てくれたふんだんな食糧のおかげで久々にゆったりした気持ちで食事ができました。

みんなが来てくれてにぎやかにもなったし、急に心強くなりました。

「テッちゃん、どうだ、足の具合は?」

テッちゃんの足の腫れは徐々に引いてきていました。

「靴は無理でもゴムぞうりなら履けるくらいになりました。ゆっくりなら歩けます。」

「そうか、よかった」

「これで下山できますね」

この二日間、川向こうのテントで一人で寝ていた野田君もうれしそうです。

「今夜はもう一晩ここに泊まろう。明日の朝早くに出発だ、いいな、テッちゃん」


翌朝は朝食が済んだら片づけをする前にまずテッちゃんが一人で先に出発します。
まだ少しずつしか歩けないし、しかもぞうり履きなので時間がかかります。

「テッちゃんは荷物も持たなくていいよ、空身で行きな」

「じゃあ、お先に」

一歩一歩山道を下りて行きました。
とにかく他の人たちより先に行かないと、すぐ追いつかれてしまいます。

「テッちゃんにはすぐ追いつくよ、オレたちはゆっくりしてから出かけよう」

朝食ものんびり食べて休憩、そしてテントの撤収。
テッちゃんの荷物もみんなで分担して持ちます。

健脚ならふもとまで一気に下りて行かれますが、テッちゃんのスピードに合わせて、途中で一泊する予定です。

待ち合わせの場所は、今夜のキャンプ地であるマヤグスクの滝の下の広い川原ということにしました。


川に沿って下りて、少し下流まで来たときです。

「あれっ、見たことある物が・・・」

川岸の草に何か白っぽい丸い物が引っかかっているのを見つけました。

四日前に流されたプラスチックのキャンプ用食器でした。

「あ、またあった」

流された食器は下りる道すがら全部回収しました。

昨日応援部隊が登って来たときは山の中を通ってきたので気が付かなかったのでしょうか。

それとも頭上のヘリに気を取られて下を見ていなかったのか。


午後までかかってキャンプ予定地の川原に到着です。

今日はここまででストップ。一泊です。


翌朝、テッちゃんの足はさらに回復していました。

「また荷物なしで先に出発してね」

「はあい、じゃあ、お先に行かせてもらいます」

「来た時の道なので迷うはずはないと思うけど、念のためにテッちゃんが通過した証拠に目印をつけて行ってもらうことにしよう」

「木の枝や小石を使って地面に通過した時刻を表すんだよ。それを確認しながら行けば安心だ」

オリエンテーリングみたいなものです。

「わかりました」

テッちゃん、数日前にハブに咬まれたとは思えないくらい元気に歩いていきます。


地面の時刻の目印によると、テッちゃんはずいぶんと足が達者になったようです。

私たちは追いつくどころかどんどん離されて行っているように感じます。


下流の軍艦岩に着きましたがそこにテッちゃんの姿がありません。

「あれ?テッちゃん、道間違えたのかな」

「そんなはずはないよ、すぐそこまで目印が順調に付いていたの見ただろう」

「追い抜いちゃったのかな」

「まさか」

「この辺をよく探してみよう」

「オーイ、てーっちゃーん」

「せんぱーい、テツヤせーんぱーい」

もう1時間も探しています。テッちゃんどうしたんでしょう?


 →アイ ハブ ア ハブ その12 につづく

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アイ ハブ ア ハブ その10


  →アイ ハブ ア ハブ その9からつづく

ハブの血清は獣医のO先生に断られてあきらめましたが、リーダーはどうしてもテッちゃんのことが心配で、ろくに眠れません。
そして夢にうなされるのです。


「グスン・・・、テッちゃん、短い人生だったなあ。こんな山の中でハブに咬まれて死んじゃうなんて・・・」

「ホントに・・・クスン、クスン・・・。実家に知らせて家族に来てもらわなきゃね。シクシク・・。」

「ああ、両親が来るまでは遺体が腐らないようにしておかなきゃな」

「こんな山の中じゃドライアイスも氷もないけど」

「とりあえず川の中に遺体を沈めておくんだ。遺体が浮かんで来ないように重い石を載せておけよ」
 

!!とんでもない縁起の悪い夢を見たものです。

翌日の午後、出発するKさんを空港に見送りしました。

実家の農業を手伝っていたり、農業自習でアメリカの農場にも居たことのあるKさんなら協力隊の試験も合格することでしょう。

空港でKさんとお別れした後、燃料や食糧も買い込んで、また次の日から西表です。
今度はいつものようにウキウキしたキャンプの準備気分ではありません。
もしキャンプに残っている人たちに何かあったとしても、すぐには助けを呼べる場所ではなく、連絡も取りようがないのです。

そして心配でろくに眠れないうちに夜が明けて、すぐ出発となったのです。


船の中にいるときも、西表の川沿いに山を登っているときも、リーダーの頭の中は
『テッちゃんたちのことが心配・・・・』

・・・・・・・・とにかく   『心配』 ・・・・・・・

  の二文字でいっぱいなのです。

だんだんキャンプの場所に近づいて来ますが、今日は全然ワクワクではなく、胸の中は、もやもや、ドキドキ・・・・。

「あ、ヘリコプターだ」

「ホントだ、何でこんな山の上に」

ヘリコプターがこれから登ろうとしている山の上に向かって飛んでいます。
一行の頭の上をバラバラと音を立てて低空飛行するヘリ。

「う、・・・このヘリ、テッちゃんの遺体を運ぶヘリにちがいない」

リーダーは確たる根拠はないけど直感でそう思ったのです。

「どうやって下界に連絡してヘリを呼んだんだろう?」


実は、このヘリ、ウリミバエという害虫を根絶するために沖縄県の事業でウリミバエの不妊虫を空から撒いていたのでした。

このウリミバエ、瓜類の作物に卵を産みつけ、実をダメにしてしまう害虫で、沖縄県の野菜が他府県に出荷できない要因になっていました。

ウリミバエの不妊虫、つまり「交尾しても幼虫が生まれない特殊なウリミバエを増殖して、それを大量に放虫することでこれ以上ウリミバエが産まれないようにする、という計画です。

何十年もかかって地域ごとにこの事業が行なわれて、最後に1990年から三年間、石垣島や西表島にも大量のウリミバエ不妊虫が放出され、1993年についにウリミバエは根絶されました。

おかげで石垣島産のゴーヤなどの瓜類の野菜も自由に島外に持ち出せるようになったのです。
このキャンプの頃はウリミバエ根絶事業真っ盛りだったわけです。


牧場の近くにもよくこのヘリが飛んでいたものでした。

ちょっと考えればわかりそうなものですが、頭がテッちゃんのハブのことでいっぱいだったリーダー、もうそれ以外には思いつきません。

そして険しい山道もすごいスピードで登りきってしまい、あんなに朝早い時間にキャンプ地に到着したのでした。



 →アイ ハブ ア ハブ その11につづく

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アイ ハブ ア ハブ その9


  →アイ ハブ ア ハブ その8 からつづく

テッちゃんは動けないのでテントの中でじーっとしています。
看病といってもこれと言ってすることもないのです。
ご飯を作って運んであげることぐらいです。
トイレだけはテッちゃん何とか一人で歩いて行っています。

「ところで、テッちゃん、昨日はトイレに行こうとして咬まれたんでしょ。その後どうしたの?」

「あ、ウンコ、止まっちゃいました」

暗くなってから動き回るのはいやなので明るいうちに夕食、片付けなどを済ませます。

明るいうちに夕食を摂るなんていうところがますます『病院に入院』しているみたいです。
野戦病院ですけど。

まだまだ日が高いのにもうすることがありません。

「それじゃあ、ボクはもう向こうのテントに行きます。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい・・・」

・・・・・って、まだ早すぎるよ。

この日、野田君はテントに入ったきり、翌朝明るくなるまで出てきませんでした。

朝日の当たる時間帯になると夜行性のハブはもう出てきません。


テッちゃんはトイレ以外、ずっとテントの中で過ごし、することもなく退屈そのもののようでした。
私は、薪集め、水汲み、食事の支度、片付けと、一日中何かとすることがあって適度に忙しくしていました。

暇な時間があっても、景色を眺めたり、散策したりもできて決して退屈はしません。健康というのは本当にありがたいと思いました。

景色のよい大自然の中のキャンプも、健康であればこそ楽しめるというものです。

野戦病院に入院中のテッちゃん、テントの中で暇つぶしに読む物さえありません。
誰も本の一冊も持って来ていません。キャンプ中に読書なんて暇はないと誰しも思っていました。

あるのは、昨日まで炊事の焚き付けに使ってきて最後に残った古新聞の20cmほどの切れ端だけ。
この小さな切れ端を、テッちゃん端から端まで読んでいます。たった1枚の新聞の切れ端を、表を読んで、裏を読んで、また表を読んで。古新聞をこんなに丁寧に読んだことは今までなかったでしょう。

古新聞に飽きると(とっくに飽きていますが)、テントの小さな出入口からわずかに覗く空の“一部”を見ています。
三角形に切り取られた空をぼんやり眺めていると時々野鳥が横切るのが見えます。

ほんの一瞬チラッと目に入るだけですが、いつも牧場で見ているのと同じ種類の鳥が多いので、鳴き声と羽の色で判断して野鳥の好きなテッちゃん、次々と鳥の名前を当てています。


三日目の朝食後、私もすることがなくテントで寝転がってウトウトしていました。

三日間雨が降らずにいたので川の水は減ってきていました。浅くなった川の中を、ザッ、ザッ、ザッと誰か歩いてくる音がします。

「なんだ?何が来たんだ?」

こんな朝っぱらから応援隊が来るとは思っていませんでした。


「よかった、生きてたかー

「あ、来てくれたの、早いね」

「石垣から朝一番の船で西表に渉って急ぎ足で登って来たんだよ」

「それにしても速いじゃないの。ここまで一日がかりで来た所なのに」

「石垣にいてもあんたらのことが心配で、心配で」

こっちは山の中でも“退屈なくらい”何事もなく平和に過ごしていたのですが、下山した人たちは、とくに心配性のリーダーは連絡もつかない山に残してきたメンバーのことを気遣って不安な時間を送っていたのでした。

この頃はまだ携帯電話が普及していませんでした。持っている人もいましたがほんの一部の人たちでした。
まして完全に圏外の場所です。
衛星電話は一般化されていない頃のことです。


以下は後で聞いて分かった話です。

朝早くに山を下りていった下山組はもう昼前には石垣に着きました。

「食糧や燃料も準備するけど、まずはハブの血清だ、病院へ急ごう」

   
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「先生!先生!」

「どうしたんですか」

「この病院にハブの血清はありませんか?」

「ハブ?うちは動物病院だけど・・・・」

O先生が答えます。


O先生は、『キャンプへ GO』や『幻の湖』の章で登場した獣医さんです。

「ですから牛用の血清があるんじゃないか、と思って」

「牛が咬まれたの?」

「いえ、実習生が西表のジャングルでキャンプしてて咬まれたんです。今テントで寝てるんで血清があれば持って行ってやりたいんです」

「ええっ?!そ、そんな、命にかかわること・・・簡単に薬なんか出せませんよ!!ちゃんと人間の病院に行ってくださいっ!」

「やっぱりダメか」


   (当然です。普通はハブに咬まれたら救急車です)

リーダーは夜になると恐ろしい夢を見てうなされたのでした。



  →アイ ハブ ア ハブ その10につづく


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