アイ ハブ ア ハブ その8
→アイ ハブ ア ハブ その7からつづく
結局ジャンケンに負けた野田君が野戦病院に残って看病の手伝いをすることになりました。
「下山組のオレたち4人は明日の朝早く出発することにしよう」
「とりあえず今夜はもう休もう」
「じゃあ、僕たちは向こう岸のテントに帰って寝ます」
若い実習生の3人は向こう岸のテントに入って行きました。
テッちゃんはだいぶ落ち着いたように見えます。
「毒の痛みはもう弱くなってきました」
「よかったね、ひどくならなくて」
「痛いのが治まったら、足がだるくて重くて・・・」
「横になってていいよ」
テントの中で私はテッちゃんの足をマッサージし続けてあげました。
血液の循環がよくなったせいか、テッちゃんの調子は少しよくなって、安らかな表情になってきました。
「ああ、ありがとうございます。なんだか眠れそうな気がしてきました」
長い、長い一日でした。
次の朝、起きてきた対岸の実習生、あまり元気がありません。
昨夜の騒動で寝不足なのでしょうか。
「疲れた顔してるわね、よく眠れなかった?」
「あれから急にハブが怖くなっちゃったんです」
「それでテントにハブが侵入して来ないようにテント入り口のファスナーをぴっちりと閉めて寝たんです」
「そしたらテントの中は3人の吐く息がウナギ臭くてたまらなくて・・・」
そりゃあ、三日間ウナギを食べ続けた若い男たちが閉め切った狭いテントの中に何時間もいるというのは、それこそ拷問です。
朝食も摂らずに下山組はわずかな非常食だけ持って山を下りて行くことになりました。
「オレたちは一応、二泊したら戻って来るつもりだけど、もしかして何かがあって4、5日戻れないということもないとは言えないから」
「うん、雨天用の燃料はなるべく節約して使うわ。野田君に手伝ってもらって昼間のうちに薪をたくさん集めておくことにする」
「ハブに咬まれるなよ」
そう言い残して下山組は出発しました。川ではなく、テントの横の山の中へ。
4人の足音が小さくなって、やがてすっかり聞こえなくなると急に心細くなりました。応援部隊が帰って来るまでこの山奥に寝たきりのテッちゃんと私と野田君だけで過ごすのです。
残されている食糧は、7人が最後の朝と昼に食べる分の米とおかずだったので、3人が3~4日過ごすには間に合いそうです。
ガソリンコンロの燃料があまりないので、雨が降った時のために保存しておきます。
明るいうちに野田君と二人でせっせと薪集めです。
野田君も私もすっかりハブ恐怖症になってしまっています。
岩の上に小物をひょいと置いてあったのを手に取る時も、(その下にハブが隠れているかも知れない)と、おっかなびっくり触っています。
地面の太い木の枝を拾うのにもチョンと足で蹴って、ハブが隠れていないのを確認してから持ちます。ハブに取り囲まれているような気もして疑心暗鬼になっているようです。
でもこれは実は大事なことです。
キャンプに限らず、石垣で日常生活を送っている時も、ハブに咬まれる危険性はどこにでもあるのです。
夜行性のハブですが、昼間は日の当たらない石の陰や日陰の暗い草むら、ブロックの穴の中、地面に置かれた板の下や転がっているパイプの中、などに隠れていることがあるのです。
昼間でも、深い草むらにはズカズカとゴムぞうりで入って行かない事、地面の石やブロック、鉄パイプなどを持ち上げる時には触る前に靴でポンと蹴って見てからにする(もしハブが入っていればスルスルと逃げ出します。)・・・・ことが大切なのです。
まさかこんなジャングルの山奥でキャンプしていて仲間がハブに咬まれることになるとは・・・・。
→アイ ハブ ア ハブ その9につづく
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