大草原の小さな家 その1
→前回 幻の湖 その5 からつづく
私たちは一年中キャンプばかりしているわけではありません。
普段はきちんと仕事をしています。牧場で働いているのです。
ここから南の島の牧場の生活の話がしばらく続きます。
興味のない方は数日後にまたご訪問ください。
またその頃に、さらにはげしくなるあぶないキャンプや厄介な事件を起こしてくれた実習生の話を書く予定ですので。
沖縄県の石垣島の端の方にある岬の牧場で、肉牛を飼っています。
日本では普通、牛の牧場というと乳牛か肉牛か、のどちらかです。
牛乳を搾るための牛は、それ専用に改良されたホルスタインなどの牛が使われます。
肉牛の場合は、和牛では黒毛和種というおいしい肉が取れる肉用牛が使われます。
この種類は牛肉にすると脂がのって柔らかくおいしいのですが、牛乳は搾れません。
自分の産んだ子牛に飲ませる分の乳を出すのもやっとです。
知らない人は牧場と言うと「新鮮なミルク」を連想しますがそれは乳牛の牧場だけです。
ここの牧場に来たばかりの頃、都会から引っ越してきたような奥さんが入れ物を持って、
「牛乳を分けてくださいませんか」
と言って来ました。突然のことで、(なんだろうか)、とふしぎに思いましたが、買い物にも不便な田舎なので料理に使う牛乳を切らしたのかとも考え、
「?・・・すいませんねえ、今、買い置きの牛乳はうちにはないんです」
「?・・・あ、ないんですか、・・・?・・・そうですか・・・」
と言って去っていきました。
あとで考えると、牧場だから絞りたての牛乳を分けてもらえると思ったのでしょう。
そう思うのも無理はありません。
それまで都会で何年も教師だけをやってきた私も、結婚して牧場に来るまではそういうことは知りませんでした。
ここは肉牛の牧場だから毎朝毎夕の乳搾りの仕事はありません。
では何が仕事か、というと、牛の世話です。
毎日エサをやって水を飲ませることです。
牛というのは大量に食べて飲むのです。牛飲馬食とはよく言ったものです。
エサの中心は草、あとは JA(当時は農協と言いました)やエサ会社から買う家畜用飼料です。
水は牧場の近くの谷からポンプで汲み上げ長いパイプで引いて来てありますから水汲みの仕事はありません。そこまでやっていたら体が持ちません。
数年に一度ポンプのモーターが故障して水が出ないことがありました。その時は、人間がすっぽり入るくらいの大きなポリペールを牛舎に置いて、そこに軽トラックでドラム缶に入れた水を運んで飲ませました。
直径80cmはあろうかというポリバケツの化け物のようなペールでも、牛が3頭も顔を突っ込むと、大きな牛の頭で一杯になります。
犬のようにペロペロと舌を使うのではなく水面に直接口を付けて、
「ブチュー、ズズズー」
と吸って
「ガブッ、ガブッ、ゴブッ」
と飲みます。
コップの水をストローで吸うように、ペールの水面は見る見る低くなり底を尽きます。
牛舎にいる何十頭もの牛を満足させるには軽トラで何回も往復して水を運ばなければなりません。
それだけで一日が終わっちゃいます。
モーターが故障することは滅多にないですからいつもはこんなことはありません。
普段は牛舎の牛たちは「ウォーターカップ」という公園の水飲み場のような所で自分で水の栓を開けて飲みたい時に勝手に飲んでいます。
栓を開けるのは手で蛇口を捻るのではありません。牛はそんなに器用ではありません。
正面に付いたレバーを下に押すと水が出るような仕組みになっています。
鼻先でグイと強く押すとシャーッと勢いよく水が出て半球型のボウル状の流しに水が溜まります。これを、
「ズズズー、ゴブッ、ゴブッ」
と好きなだけ飲めるわけです。
レバーを押すと水が出るというのは敢えて教えなくても自然に覚えてくれます。
この便利なウォーターカップは広い放牧場にもいくつも設置してあって、放牧の牛たちもそれを使って水を飲んでいます。放牧場と牧草の畑を合わせると55ヘクタール、一般的にわかりやすく言うと、縦1km、横500mの大きさとほぼ同じと考えていいでしょう。
この面積に100頭近い牛のほとんどが放牧され、その牛の面倒を住み込みの数人の従業員がみているのです。
牛の群れを移動させたり、街に売りに行ったり、投げ縄のようなもので子牛を捕まえて目印のタグを装着したり(今では昔の西部劇のように焼印を押すのはありません)、そういうことをするのが仕事です。
そうです、私たちは南の島のカウボーイたちなのです。
幼い頃に白黒テレビで見たウェスタンのドラマ、カッコイイ西部の男たち、何でも手作り家事を上手にこなす優しいお母さん、想像していた素敵なカントリースタイルの牧場のカウボーイの暮らし・・・・・・・・
とは、ちょっとちがっていたのでした。何事も経験して見ないことにはわからないもんです。
→大草原の小さな家 その2につづく
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私たちは一年中キャンプばかりしているわけではありません。
普段はきちんと仕事をしています。牧場で働いているのです。
ここから南の島の牧場の生活の話がしばらく続きます。
興味のない方は数日後にまたご訪問ください。
またその頃に、さらにはげしくなるあぶないキャンプや厄介な事件を起こしてくれた実習生の話を書く予定ですので。
沖縄県の石垣島の端の方にある岬の牧場で、肉牛を飼っています。
日本では普通、牛の牧場というと乳牛か肉牛か、のどちらかです。
牛乳を搾るための牛は、それ専用に改良されたホルスタインなどの牛が使われます。
肉牛の場合は、和牛では黒毛和種というおいしい肉が取れる肉用牛が使われます。
この種類は牛肉にすると脂がのって柔らかくおいしいのですが、牛乳は搾れません。
自分の産んだ子牛に飲ませる分の乳を出すのもやっとです。
知らない人は牧場と言うと「新鮮なミルク」を連想しますがそれは乳牛の牧場だけです。
ここの牧場に来たばかりの頃、都会から引っ越してきたような奥さんが入れ物を持って、
「牛乳を分けてくださいませんか」
と言って来ました。突然のことで、(なんだろうか)、とふしぎに思いましたが、買い物にも不便な田舎なので料理に使う牛乳を切らしたのかとも考え、
「?・・・すいませんねえ、今、買い置きの牛乳はうちにはないんです」
「?・・・あ、ないんですか、・・・?・・・そうですか・・・」
と言って去っていきました。
あとで考えると、牧場だから絞りたての牛乳を分けてもらえると思ったのでしょう。
そう思うのも無理はありません。
それまで都会で何年も教師だけをやってきた私も、結婚して牧場に来るまではそういうことは知りませんでした。
ここは肉牛の牧場だから毎朝毎夕の乳搾りの仕事はありません。
では何が仕事か、というと、牛の世話です。
毎日エサをやって水を飲ませることです。
牛というのは大量に食べて飲むのです。牛飲馬食とはよく言ったものです。
エサの中心は草、あとは JA(当時は農協と言いました)やエサ会社から買う家畜用飼料です。
水は牧場の近くの谷からポンプで汲み上げ長いパイプで引いて来てありますから水汲みの仕事はありません。そこまでやっていたら体が持ちません。
数年に一度ポンプのモーターが故障して水が出ないことがありました。その時は、人間がすっぽり入るくらいの大きなポリペールを牛舎に置いて、そこに軽トラックでドラム缶に入れた水を運んで飲ませました。
直径80cmはあろうかというポリバケツの化け物のようなペールでも、牛が3頭も顔を突っ込むと、大きな牛の頭で一杯になります。
犬のようにペロペロと舌を使うのではなく水面に直接口を付けて、
「ブチュー、ズズズー」
と吸って
「ガブッ、ガブッ、ゴブッ」
と飲みます。
コップの水をストローで吸うように、ペールの水面は見る見る低くなり底を尽きます。
牛舎にいる何十頭もの牛を満足させるには軽トラで何回も往復して水を運ばなければなりません。
それだけで一日が終わっちゃいます。
モーターが故障することは滅多にないですからいつもはこんなことはありません。
普段は牛舎の牛たちは「ウォーターカップ」という公園の水飲み場のような所で自分で水の栓を開けて飲みたい時に勝手に飲んでいます。
栓を開けるのは手で蛇口を捻るのではありません。牛はそんなに器用ではありません。
正面に付いたレバーを下に押すと水が出るような仕組みになっています。
鼻先でグイと強く押すとシャーッと勢いよく水が出て半球型のボウル状の流しに水が溜まります。これを、
「ズズズー、ゴブッ、ゴブッ」
と好きなだけ飲めるわけです。
レバーを押すと水が出るというのは敢えて教えなくても自然に覚えてくれます。
この便利なウォーターカップは広い放牧場にもいくつも設置してあって、放牧の牛たちもそれを使って水を飲んでいます。放牧場と牧草の畑を合わせると55ヘクタール、一般的にわかりやすく言うと、縦1km、横500mの大きさとほぼ同じと考えていいでしょう。
この面積に100頭近い牛のほとんどが放牧され、その牛の面倒を住み込みの数人の従業員がみているのです。
牛の群れを移動させたり、街に売りに行ったり、投げ縄のようなもので子牛を捕まえて目印のタグを装着したり(今では昔の西部劇のように焼印を押すのはありません)、そういうことをするのが仕事です。
そうです、私たちは南の島のカウボーイたちなのです。
幼い頃に白黒テレビで見たウェスタンのドラマ、カッコイイ西部の男たち、何でも手作り家事を上手にこなす優しいお母さん、想像していた素敵なカントリースタイルの牧場のカウボーイの暮らし・・・・・・・・
とは、ちょっとちがっていたのでした。何事も経験して見ないことにはわからないもんです。
→大草原の小さな家 その2につづく
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