カウボーイのお引越し その1

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イノシシ天国 その15からつづく


趣味を重視しながらも牧場の仕事は真面目にやっていました。

ここの牧場は私たちが来たばかりの頃はずいぶんと黒字でした。

島の畜産農家の中でもあそこはいい牛を出すと有名だったのです。

ただ、セリ市の会場で牛が良く暴れることでも有名でした。

「アンタのとこの牛は闘牛みたいだね」

と言われたこともあります。

数頭だけ飼っている農家では、毎日牛をわが子のようにかわいがっているのでセリ市でも飼い主の後をおとなしくついて歩きます。

うちの牧場は放牧が中心なのでロープで繋がれることに慣れていない牛たちはいやがって暴れます。

特に放牧場で生まれて一年近く育った子牛はのびのびと、野生の牛のように生きてきたのです。

生まれて数ヶ月経った所で親子いっしょに放牧場から牛舎に移動してきます。

ここで親子の牛は別々のパドックに分けて飼われます。

今までお母さん牛のおっぱいを好きな時に好きなだけ吸っていた子牛もこの日で離乳です。

当然さびしくて鳴きます、大声で。


モーーッ、モーーーッ

「うるさいなあ、一日中モーモーと」

「昨日離乳したばかりだからなあ」

一度に数頭から十頭を離乳しますから鳴き声も数倍です。

牛舎から五十m離れた住宅まで鳴き声は聞こえてきます。

モーモーとしか鳴きませんが、牛の言葉で

「おかあちゃーん」

と呼んでいるのでしょうか、ちょっと切ない。

母牛の方でも子牛に飲ませられるはずのおっぱいが張って痛くなって、

モーーッ

その声を聞いてまた恋しくなって子牛が

モーッ

「いつまで鳴くんだ」

「まあ、2、3日の辛抱だよ」

本当はおっぱい無しの状態に子牛の身体が慣れるのに一週間くらいはかかるのですが、三日も鳴き続けていると子牛も鳴き過ぎで声が枯れて息しか出ません。

風邪を引いて声が出ない人のようにかすれ声で

「モホーホホッ、ヒーッ」

一生懸命鳴いていますが聞こえません。

静かになりました。

鳴き交わしていた母牛もあきらめたのか、感じなくなったのか、鳴きません。

「ああ、これでやっとぐっすり眠れるわ」

「そうか?毎晩スヤスヤ眠ってたように見えたぞ」

「いいえ、眠れませんでした!!」


離乳が終わると子牛はよく草を食べるようになります。

青々した新鮮な草とトウモロコシ、ムギ、フスマ、ダイズなどの穀物の餌を食べさせて体重を増やします。

そしてセリの日が近づくと出荷の子牛を選びます。

数週間前にロープ飼いに慣らしておけばいいのでしょうが・・・。

セリの日の一日前くらいになってセリ市に持って行く子牛を捕まえてロープに繋ぎます。

追い掛け回された子牛も必死です。

狭いパドックの中、二十頭ほどの子牛たちの中からセリに出す牛を選びます。

牛の耳に着けた番号札―「耳標番号」を見て捕まえます。

「そいつだ、その外を向いてる大きな奴を捕まえろ」

「わ、他の牛がじゃまだ、向こう行けっ!」

子牛は群れで動くので全体がドドドッと同じ方向に走ります。

「ああ、もう、つかまらんなあ、そいつだ、そいつ、二十一番」

「クソッ、また逃げられたー」

「仕方ない、先に十七番捕まえよう、そこにいるぞ」

「わあ、また逃げられた」

狭く限られたパドックの中でカウボーイたちと牛たちの鬼ごっこみたいなことが続きます。

四角いパドックの中を丸くグルグル、ドタドタと走る牛とカウボーイたち。

子牛といってもせりに出すような生後一歳前後の牛は体重が二百kg以上あります。

体当たりされたら吹き飛びます。

カウボーイたちが疲れてきた頃、大捕物の末ようやく予定の牛たちを全部捕まえて角と鼻にロープをかけてこれで一段落。

初めて自由の身から囚われた姿になった子牛。

場合によってはこのときに初めて鼻に鼻環を付けられる牛もいます。

鼻環、つまりロープを通すための鼻ピアスです。

牛にとってはとんでもない災難の日です。

追い回されて捕まり、いきなり押さえつけられて鼻にピアスをされてロープに繋がれて自由を奪われてしまうわけです。

針を刺されて予防注射というのもあります。

突然に人間不信になるのも無理はありません。

かくして翌日セリの会場に向かうトラックに載せる時にも牛は怖がって踏ん張り、一歩も動きません。

カウボーイ全員が力ずくで大汗かいて荷台に載せて会場まで行きますがそこでもまた牛と格闘です。

「ドナ・ドナ・ドーナ」と感傷に浸っている暇はありません。

わけわからず恐ろしい所から逃げ出そうとする牛と、ロープの綱引きになります。

時にはロープを持った手が滑って放してしまい、会場の外にまで牛が逃げ出すことも。

場外乱闘です。

飼い主に引かれて牛がトコトコと素直についてくる農家の人は笑って見ています。

「またあの牧場の闘牛大会が始まったぞ」


いえ、笑われても、毎月何頭もの子牛を出荷できていたこの頃が、思えば牧場の最盛期でした。


カウボーイのお引越し その2につづく

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カウボーイのお引越し その2

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カウボーイのお引越し その1からつづく


1991年に牛肉の輸入が自由化になったころからでしょうか。

多くの肉牛の畜産農家が経営困難になっていきました。

外国の安い牛肉が入ってくるのですから当然牛の値段は下がります。

ごく一部の高級牛肉が取れそうな牛だけが高値が付き、残りは安い値でしか売れません。

私たちの育てた牛たちは残念ながら大多数の安い方のグループに入ってしまいました。

牛の血統はいいのですがいい草を与えられないので牛がやせていたからです。


「体重が同じなのによその牧場の牛はもっと高く売れてたよね」

「セリの仲買人は見る目があるからね。将来よく太って最高級霜降り肉が取れそうな牛かどうか見分けられるんだ」

おいしい牧草を育てるためには肥料をたっぷりやらないといけないのですが。

「経営が苦しいのに肥料代にそんなにお金は掛けられない」

というオーナーの指示で、肥料なしで牧草地の草を刈るだけになってしまいました。

何年も肥料を撒いていないと牧草地も放牧場も荒れてきます。

牧草は雑草に負けて、チガヤだらけです。

ほとんど枯れススキのような牧草地になってしまいました。

草を刈って干草を作っても牛は喜んで食べてくれません。

「干草の梱包というよりワラの束だね」

「こんな針金みたいな草じゃ牛もよく育たないよ」

肥料をたっぷりやった栄養のある青菜のようにおいしそうな草とは牛の育ちもちがいます。

折りしもBSE(いわゆる狂牛病)や口蹄疫などの影響でますます日本の畜産は苦しくなっていきました。

給料を払う余裕がないのでもうアルバイトも実習生も募集しません。

働くカウボーイは父さんと野鳥さんの二人だけになりました。

牛の数も少しずつ減らしていったので、昔のように大勢でたくさんの干草を作る必要もなくなったのです。

放牧に出すほどの牛の数もないので見回りも要りません。

仕事は楽になりましたが、牛の数が減ったということは売りに出す子牛の数も減っていくということです。

セリに出荷しなければ収入はなく、ますます牧場は貧乏になってしまいました。

そして、

「これ以上赤字を続けるわけにはいかない」

ということで、ついに牧場の経営は終わりを迎えることになったのでした。

牛を全部処分して残務整理することになりました。

ここに来て私たち家族にとって困ったことがありました。

これからの住みかです。

今までは牧場従業員の管理棟兼住宅として家族も一緒に住まわせてもらっていましたが、牧場が閉鎖になったらここを出て行かなければなりません。

島には公営団地も民間アパートもありますが、今子どもたちが通っている学校の学区の村にはありません。

転校する気もありません。

「街に引っ越す?」

「そんなことすると思う?」

「んなわけないよね」

野生児出身の父さんですから、それはありえません。

それにイノシシがまだ二匹居ます。

団地でイノシシは飼えません。

「よし、家を建てるぞ!」

「あの土地に?」

「そこしかないだろう」

もし牧場を出ることなったら、ということも考えて以前から土地だけは買っておいたのでした。

学校のすぐ近くの畑ですが、そこなら広くて家畜も飼えます。

農業もやれます。

しかしそこは農地。

建築許可は簡単には下りません。

それでも牧場は早く出なければならないのです。

立退きの期限は迫っています。

まずは市役所に家を建てるための許可申請です。

しかしこれが何ヶ月もかかることになるのです。

たとえわずかの面積でも宅地には転用できない地域だったからです。

それなら農機具を置く倉庫なら・・・ということで倉庫の建築許可を申請しました。

倉庫だけでも建てないと、二十年近く住んできて増えに増え、貯まりに貯まったたくさんの荷物を保管する場所がありません。

「倉庫は早く作って荷物だけは何とか移動しなけりゃなあ」

「うん」

「人間は何とかなるさ、テント張って住んだっていいんだから」

「そ、そう?そうかな?」

牧場追い出されて私たち家族どうなるんでしょう。

→カウボーイのお引越し その3につづく

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カウボーイのお引越し その3

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→カウボーイのお引越し その2からつづく



(・・・・「牧場がつぶれる所の話なんか早送りでやれよ」

という注文も出ましたのでこの辺の話はサラリと・・・。)



倉庫建築の許可をもらう、と一言で言いますが、市役所に住民票の移動届を出すように簡単にはいきません。

まず農地を造成するには農業委員会に、建築物を設置するには市の農政課に、そして建築そのものの許可は市の都市計画課と県の建築係りに、とそれぞれ別に許可申請を出します。

その上、建築許可を得るためには土地に面した道路の使用許可が必要です。

うちの土地に隣り合っている道路は林道と農道です。

林道は市の林務課、農道は市の村づくり課の許可が必要になります。

建築業者に依頼すればこういう面倒くさい手続きは代行してくれるのでしょうけど。

「自分の家は自分で作る!」

そうです、家作りも自分の手で、というわけで住宅も自給自足です。

手続きも全部自分でするのです。

市役所に許可申請に行っても1日ではなかなか済みません。

「お帰りなさい、申請出せた?」

「いや、担当の係りの人が不在だから別の日に来てくれだって」

お役所ですねえ。

そしてまた別の日、

「今日はどうだった?」

「担当の人が出張なので出直してくれって」

「さっき電話して確めたのにねえ」

「急に出張になったらしい」

何度も市役所まで往復することになります。

許可が下りてから初めて造成が始められ、土地の測量をしてから設計ができるのです。

お引越しどころか、いつになったら建築が始められるのでしょう。

こうしている間にも牧場の後片付けは進んでいきます。

トラクターもトラックも牛が居なくなった牧場には必要がない物です。

廃車となり、業者が引き取りに来ました。

「このトラックともお別れだね」

「十五年間よく働いてくれたよ」

夜になってもなかなか寝ない夜行性児童の鉄兵を寝かせようと、乗せて夜の道路を走り回った助手席のシート・・・。

草刈りの時にはまだ小さかった子どもを助手席に座らせて運転したハンドル・・・。

天気の良い日は子どもたちが上って遊んだり、キャンプの時に港まで若者たちを運んだりした荷台・・・。

それら、思い出のある物が全部一瞬にしてスクラップになりました。

車をつぶす特殊な機械が来て解体されます。

巨大な鉄のはさみでバラバラにされたトラックの残骸から、金目になる鉄やエンジンやタイヤは拾われて引き取られて行かれました。

残ったスクラップに埋もれた中に見覚えのある物がありました。

「あ、この模様、トラックの座席のだ」

生き物ではなくてもなんともかわいそうな気がして悲しくてなりません。


このトラックは古くなってあちこち錆びて、ボディも少しガタが来ていました。

でも最後までよく走っていました。

ただマフラーがボロで、走るとゴーッとすごい音がしました。

「牧場のトラックは戦車と同じような音がしますね」

と言ったのは、以前、自衛隊にいて戦車も操縦したことがあるという人。

トラックは牧場の象徴のような存在でした。

自家用車のなかった時期もあって、そのころの外出にはいつもトラックのお世話になりました。

トラックでいつも農協にエサの飼料を買いに行きました。

天気の悪い時はエサを濡らさないように荷台ではなく、助手席の足元や座席の上にギュウギュウに積んだものでした。

20kg入りの飼料袋を十五袋も積んで、帰りにそのまま学校に子どもを迎えに行ったこともありました。

「わ、な、なんでエサ積んであるの?!」

「ちょうど農協の帰りで、下校時刻になったからまっすぐ来たよ」

「僕たちどこに乗るの?」

「このエサ袋の上に」

「うわ、狭い」

「隙間にも乗れるよ」

「ムギュー・・・」

今はただ、長い間ご苦労様でした、と戦車トラックの冥福を祈るばかりです。


カウボーイのお引越し その4につづく


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カウボーイのお引越し その4

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カウボーイのお引越し その3からつづく


秋ごろに役所に何種類もの申請を出して、結局は許可がもらえたのは春の新学期が始まってからでした。

近所の土木業の人に大きなパワーショベルで整地してもらいました。

広い畑の中の、道路に接した二百坪くらいの場所です。

この部分だけは、畑にはならない、岩盤に載った土地です。

大きな木が何本も茂った一区画でした。

しかも斜面になっていて、昔から耕作した人はいませんでした。

畑にはならないこの斜面の部分を平らにしました。

測ってみると四十坪くらいの建物は建ちそうです。

自分で家を作るというのは、普通は建築業の人でなければ無理と思われます。

でも、簡単な建物なら大人が数人居ればできるのです。

もちろん経験者に教わりながらですが。

数十年前、この地に移住してきた人たちは土地を開拓して、家も自分たちで協力して作り、たくましく生きてきたのです。

まだ電気も水道もこの島のはずれには届かなかった頃です。

村の学校も村人の協力(ボランティア)でそうやって建てられたのでした。

60年前の創立当時は茅葺き屋根の校舎でしたが。

鉄筋コンクリートブロック造りの建築に替わってからも、近所同士や親戚の人が協力して家を作るという精神は残りました。

小さい住宅なら今も村の人たちは自分たちで作ることがあります。

田舎に暮らす人は何でもとても器用なのです。

近所の家造りを手伝うことでやり方を覚え、いずれは自分の家も手伝ってもらいながら作れるようになるのです。

牧場は村から大分離れていたので今まで家造りのお手伝いをする機会がなかったのです。

でも一度だけいい経験がありました。

村のお宮の境内にトイレを作ることになった時の事です。

材料は自治会の予算から出ますが、労働はもちろん村人のボランティアです。

このときは父さんが手伝いに行ったので建物を建てる基本を知ることができたのでした。

歴史はありますが、宮司も居ない小さなお宮です。

祭りの時以外は個人的にお参りに来る人がポツポツあるだけなので、トイレと言っても一つだけの便器を壁で囲った一人用トイレです。

地面に基礎の土台を作る→柱を建てる→鉄筋を縦に何本も立ててブロックを積む→屋根を掛ける→完成・・・です。

まあ、簡単に言えば家を作る基本はこれと同じです。

お宮のトイレ作りで家を建てたような気になったわけではないでしょうが、すっかり自分で家を作る自信が付いたようです。

「トイレと住宅とではちがうんじゃないのかな?」

「基本は一緒だよ、基本は」

うーん、柱と壁、窓とドアが開いているという所は同じですけど。

トイレに住むのか?私たち・・・。

カウボーイのお引越し その5につづく



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カウボーイのお引越し その5

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カウボーイのお引越し その4からつづく


自分で家を作るとは言え、私たちはまったくの素人です。

「建物は作ったことはあるぞ、・・・小さいけど。

「半坪のトイレじゃないの」

「建物は建物だ」

「1人で作ったの?」

「いや、。・・・みんなで作った・・・のを・・・手伝って・・・

まあ、見るだけでも建て方を学んだわけですから。

先ずは家を作ったことのある村の先輩にお願いに行きます。

建設業の人に任せるのではなく、自分たち家族も働いて家造りをするからです。

この先輩は自分の家を作っただけでなく、建設の会社の仕事も雇われてしたことがあるので建て方の基本はよく知っているはずです。

プロの大工さんに頼んだ方がいいんじゃないかと、遠慮されていましたが、お願いして指導してもらっての手作り住宅を選びました。

設計だけは街の本職の設計士さんにお願いしました。

設計図は描いてもらいましたが、内容は施工主の希望が中心です。

「この土地の形からして、東西に細長い建物になるな」

「どうせ作るならできるだけ広い家にしたいな」

「ドアも大きく、窓も広くたくさん付けたいな。風をいっぱい入れて涼しくすごしたいし」

「中央部は食事する所にして、子どもたちの部屋はその両側がいいかな」

「台所や風呂場の水回りは南がいいんだって」

「誰がそう言った?」

「風水で・・・」

「何だ、そりゃ?」

今振り返ると、自分で青写真を描いていたこの時が、夢があって一番楽しい時でもあったと思います。

ノートに描いた大まかな図を持って行って、設計士さんに細かい設計図を引いてもらいました。

いよいよ着工です。

先ずは土台作り。

土台はコンクリートを平らに流し込んで作りますが、その流し込むための広く浅い穴を掘ります。

もちろん人間がスコップで掘るのではなく、小型のパワーショベルを使います。

一般にミニユンボと呼ばれている、乗用車より少し大きいくらいのパワーショベルです。

これは自前です。

家も作るし、これからは農業をするにも機械が必要になるからと、中古のものを買いました。

このミニユンボを探してくれたのが、以前牧場にいたことのあるキャンパーの人。

キャンパーネーム「隊長」です。


今はキャンパーではなく、本土で中古の重機や車を扱う仕事に就いています。

「ミニユンボは貨物船で送ってもらうことになりましたから」

「すっかりお世話になったね。金額もずいぶん安くしてくれたんだね」

「送る前にきれいに塗装し直してくれることになっています」

「ありがとう、きれいなのが使えてうれしいよ」

「ついでに名前を入れられるけど、どうしますか?」

「車体に○○(彼の苗字)丸と入れてくれ」

「えっ?!僕の名前ですか?そんな、恥ずかしいなあ」

「いやいや、アンタが尽力してくれた記念だからさ」

そして、届けられたミニユンボは、サンゴ礁と同じコバルトブルーでした。

車体には、彼の名前ではなく、うちの長男の名を使って、「鉄兵丸」と大きく黒い字で書かれてあります。

「届いたよ、ありがとう。でも何で『鉄兵丸』なの?」

「いやあ、自分の名前を入れるなんてそんなのやっぱりできないですよ。それで鉄兵君の名前を入れました」

この「鉄兵丸」は家の建築中はもちろん、牧場の荷物運びや引っ越してからの畑仕事などで大活躍でした。

測量した地面に土台用の穴を「鉄兵丸」を使って掘っていきます。

人間が手で掘ることを思ったら何十倍もの力と速さでガガガーと固い土を削っていきます。

頼もしいです、鉄兵丸。


→カウボーイのお引越し その6につづく

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カウボーイのお引越し その6

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カウボーイのお引越し その5からつづく


柱や壁になる予定の場所にはしっかりとした土台が必要です。

地面に土台用の浅い穴を「鉄兵丸」が掘っていきます。

人間がスコップで掘ったら何日もかかるだろうと思われる大きさの穴も半日で掘り終わってしまいます。

穴は思ったより深く大きな溝のようなものでした。

遺跡の発掘でもしているみたいです。

ちょっと中に入ってみます。

「わあ、竪穴式住居みたいだ」

大昔の人はこういう穴に屋根をかけて住んでいたわけです。

その場でしゃがんでみると、

「風も当たらないし、これで日除け雨除けの屋根があったら暮らしていけそう」

「あ、そうかい、これで建築工事終わりにするか。金もかからないし、楽でいいや」

「いえ、それは・・・」

トイレに住むのと同じくらいに避けたい選択です。

第一、柱や壁の部分だけですからすごく狭い。

土を掘ってすぐに土台の鉄筋コンクリートを作るわけではありません。

土台のコンクリートを作るためのその台を作ります。

「捨てコン」と呼ばれるコンクリートを地面に直接流し込みます。

数㎥ですが生コン会社のミキサー車を呼びます。

平らに均して乾くのを待ちます。

そして本格的な土台作り。

長い鉄筋を四本組み合わせて柱のような物を組み立てます。

この柱を横倒しにして土台用の溝に入れるのです。

本当の柱は、この溝の中の横倒しの柱に鉄筋を組んでしっかり結んで立ち上げるようにします。

これが鉄筋の骨組みです。骨組みができてからセメントを流し込みます。

先ずは土台の骨になる横倒しの柱と、垂直に立てて屋根を支える柱を鉄筋で組み立てます。

これは鉄筋と鉄筋を細い針金をねじって留めていく仕事のくり返しなので、コツがつかめれば私でもできます。

たくさんの箇所を留めていくのは手間はかかるけど力は要りません。

こういう人手の要る細かな仕事こそ子どもたちの出番です。

放課後は毎日家造りのお手伝いになりました。

棟梁をしてくれた近所の先輩の他に、もう一人の近所の人「マムさん」にも毎日建築の仕事をしてもらっています。

そして一番忙しい時期には、棟梁の知り合いで建築仕事の手伝いの経験がある「ゴエモン」にも来てもらうことにしました。

「ゴエモン」はキャンパーネームです。

長期キャンパーだったのです。

バイクで街の近くから通って来ていました。

どうして「ゴエモン」と呼ばれたのか、というと、今は短い彼の髪の毛が以前はふさふさと長く、それが毛先が天を向いて石川五右衛門のようだったから、だそうです。

父さんも入れると男四人で仕事をするということです。

私も手伝いたいところですが、力仕事より仕事の途中で必要になった材料や道具を店に買いに行く、という仕事の担当になっています。

もう1つ大事な仕事、それは炎天下で大工仕事をしている男の人たちのために飲み水を運ぶことでした。

建築中の土地は今まで畑と小さいジャングルだった場所です。

当然、水道も電気も通っていません。

しかも林道を上った所です。

すぐ近くにもらい水ができる民家はありません。

一番近い道路の水道管まで200mあります。

そこまで行って隣家があります。

水道は建築が進んでから引いてもらう予定ですが、それまでは仕事中に飲む水は4km離れた牧場から運んで来るのです。

朝、子どもたちを学校に送るのが8時10分頃。いつも遅刻ギリギリです。

父さんはそれより一足先、8時前にバイクで現場に向かいます。

他の人たちと同じかそれより前に現場に行きたかったからです。

何せ自分の家を作るんですから。

「お前たち、まだ学校行かないのか?遅れるなよ」

「せっかく早く仕度できてるのに、お兄ちゃんとくるみが遅いから私まで遅刻しそうになるんだよ」

「きりん、不満そうだな」

「三人いっしょじゃないと車で送れないから仕方ないのよ」

「お父さんは今からバイクで行くから先に送ってやるよ。きりん、後ろに乗れ」

「うん!」

兄妹のせいで今まで早く登校したくてもできなかった、準備の素早いきりんちゃん、バイクの二人乗りで機嫌よく早々と登校していきます。

そして子どもたちを送った後、工事現場でよく使われる大きな水入れに氷水を入れて私が現場に届けます。

建築工事が始まったのが5月初めでしたが石垣ではもう暑い季節です。

日なたで一日中働くと頭がクラクラしてきます。

8ℓ入りの水入れに満タンに入れた氷水も夕方になる前に四人で飲み切ってしまいます。

この辺りでは「キーパー」と呼んでいる円筒形の保冷水入れです。

10ℓ前後のものから20ℓくらいの大きなものもありますが、大家族でなくても大体どの家にも一つはあります。


キーパー


家族のピクニックや運動会の見学、部活や草野球の応援、汗をかくような場には必需品です。

小さな水筒やペットボトルでは間に合いません。

北緯二十四度ですから。

夕方学校が終わると子どもたちは歩いて現場に来ます。

新しい「おうち」の場所は学校のすぐ近く。

学校に近いからこの土地を選んだわけではないのですが、空いていた土地を買ったらこうなりました。

土地を手に入れたときはまだ子どもも産まれていなかったし、学校に子どもを通わせることも、牧場が閉鎖になって家を建てて引っ越すことになるとも思っていませんでした。




カウボーイのお引越し その7につづく

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カウボーイのお引越し その7

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カウボーイのお引越し その6からつづく

現場への水運びと建築材料の買い物のほかにもう1つ、大事な仕事が私にはあったのです。

引越しのための荷物まとめです。

新しい倉庫が完成したら、いえ、完成しなくても壁と屋根ができてドアと窓で塞がれるようになったらすぐ荷物を移動しなければなりません。

住宅の明け渡し期限はとっくに過ぎています。

でも建築ができるまでは引っ越すこともできないので、何とか牧場オーナーに待ってもらっているのです。

もう一人のカウボーイの野鳥さんは早々とアパートを見つけて引っ越して行きました。

野鳥さんは独身男性ということもあって、もともと荷物は少ない方でした。

動物は、イヌを二匹飼っていましたが、ペットOKのアパートだったので問題はありません。

我が家の方は五人家族、おまけにこの二十年間、飼った物、もらった物、拾って来たものが山のようにあります。

拾うことはあっても捨てるということはしないカウボーイ家族です。

強いて言えば生ゴミと鼻をかんだ紙くらいでしょうか。

壊れた電気ポットでも、もう乗らなくなった小さな自転車でも、動かなくなって廃車にしてもいい車でも、そのまま牧場の片隅に置いてあります。

今の時代は捨てるにもお金がかかるからでもありますが、一番は、

「まだ何かに使えるかも知れない」から取っておくのです。

壊れた鍋は家畜の水飲みに、古い水道の鉄パイプは牛舎の柵の修理に、金網の切れ端は鶏小屋の穴塞ぎに、となんでも用途はあるのです。

電気ポットのヒューズが切れてしまった時、捨てておいた別のポットの中からヒューズだけを取り出して付けて復活させました。

使用中の車が壊れるたびに、臓器移植のように廃車から部品を取りだして修理に使って重宝しました。

「この際だからどんどん要らない物を捨てようよ」

「要らない物なんてここにはない!」

「だけどさあ、こんなの要る?食べないでしょ」

数年前に賞味期限が切れた調味料、いつのものか判らない乾物。

「悪くなってないだろ。水に浸けて戻せば食べられる。捨てない!」

そんなに全部持って行ったら家にに入り切らないんじゃないの?」

「イヤ、入る。入れるの!」

でもねえ、倉庫とは言ってもせっかく新築の家に引っ越すのに、またガラクタに埋もれて暮らすのか?

ええい、捨てちゃえ。

何年前のものか分からないカラメルソースのビンがいくつも出てきたので昼のうちに他の空き瓶のゴミといっしょに出して置きました。

すると珍しくその日は仕事が早く終わって帰った父さん、

「おい、これが間違えてゴミといっしょになってたから回収しておいたぞ。捨てるなよな」

(拾うなーーっ!!)

「普段使わない荷物は住居の方じゃなくてコンテナ倉庫に入れて置く」

家そのものが倉庫ですから、収納の押入れなどは初めから設計図にありません。

なので、分厚い鉄でできたコンテナ倉庫を買いました。

家ができるまでは建設の資材や道具をしまうのにも鍵のかかる倉庫が必要です。

倉庫を作るための倉庫です。

よく港で見かける直方体の鉄の塊のような巨大コンテナです。

中古ですが頑丈なのを二棟買って現場においてあります。

注文して運んできたセメント袋など、雨がかからないようにこの中にしまっておきます。

重い鉄の扉を開くと中は8坪くらいの広さ。

これが二棟あるから相当の物が入りそうですが、牧場の我が家の荷物はそれ以上です。

普通は引越しの歳に涙を飲んでいろんなものをジャンじゃん捨てて行くんじゃないのか?


毎年転勤の時期の三月には街のゴミ捨て場には転勤族の出した物でまだ使える上等な物がたくさんあります。

転勤というと海を渡って外の島に移動するのですから、飛行機や船で運ぶことを考えると捨てて行ったほうが安くつくということでしょう。

うちは引越し先はわずか四kmですからトラックで往復する回数が増えるだけです。

どうせ一回の往復では運べません。

それどころか何十回運搬しなければならないのか気が遠くなります。

建築が始まってすぐに荷物整理に入りましたがそれだけで何ヶ月もかかりそうです。

建築完成のほうが早くなるかも知れません。

「先ずは使わない本やよそ行きの服から段ボールに詰めて・・・」

荷物の入った段ボールが廊下や部屋の隅に積み上がって行きます。

「これじゃ、荷物で生き埋めになっちゃうよ、もう置く所がない」



カウボーイのお引越し その8につづく


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カウボーイのお引越し その8

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→カウボーイのお引越し その7からつづく

荷物を箱に詰めたはいいけども、荷造りした箱の置き場がありません。

このままでは寝るところがないどころか、家に入れません。

「荷物詰めた箱をどこかに置けないかな」

「隣りの野鳥さんがいた所に運んでおけよ、空いてるんだから」

野鳥さんが引っ越した後はもちろん、がらんとした空き家になっています。

10m離れたそこの住宅は独身従業員が数人泊まれるような広さでしたから荷物を運び込むのには適した場所でした。

男の人たちが昼間の炎天下で建築の仕事をしている間、私はせっせと荷物作りです。

「明らかに捨てるべきゴミは持って行かないでしょ?」

「そりゃ、もちろん」

衣類、書類、食器、おもちゃ類・・・と大まかに分類しながら箱に詰めて箱の外に油性ペンで品名を書いていきますが、捨てるかどうか迷うものがほとんどです。

普通の家ならためらわずに捨てているであろう物ですが。

そして夕方になると牧場から自家用車で現場に行きます。

迎えに行かないと家族が帰って来られません。

下校の早い小学生のきりんくるみはもう学校から歩いて現場に来て手伝っていました。

日が落ちて少し涼しくなった頃には、部活を終えた中学生の鉄兵も現場到着。

片づけを手伝ってバイクと車で牧場に帰ります。

「お母さん、今日は何箱作った?」

「やっと四箱かな」

「そんな調子じゃ終わらないぞ。もっと大急ぎで荷物作ってくれないと」

「だって種類別に分類して、しかも捨てる物と捨てない物に分けるのに時間がかかるんだもん」

「分けなくっていいよ」

「え?」

「何でもかんでも詰め込め」

「だけど、食器とか、衣類とか、大まかに分けないと・・・」

「いいんだよ、靴と食器がいっしょの箱に入っていても」

「はぁ?」

「とにかく運んでしまわないと。向こうに運んで、箱を開けてから片付けながら分類すればいいだろ」

「それはそうだけど、ゴミまでは運ばなくてもいいじゃないの」

「捨てるかどうか迷うくらいならそのまま全部運ぶんだ。捨てるのは向こうに行ってからでもいつでも捨てられる」

「まあ、そうですけど・・・」

こうして部屋の中のものはゴミでも何でも区別なく箱詰めすることになりました。これでますます運ぶ物が増えそうです。

引越しというと、箱の数を減らすために、工夫して隙間がないようにぎっしり詰めるのですが、今はそんなのはどうでもいいのです。

次の日からは手当たり次第に箱にどんどん詰めていきます。

箱詰めのスピードは一気に速くなりました。

次々と荷造りの箱ができて、溜まると野鳥さんのいた家に運びます。

家の奥から箱を並べて積み上げていきます。

野鳥さんの家も箱で畳が見えなくなりつつあります。

「おっと、お昼だ」

荷造りに夢中になっていてウッカリしましたが、昼の弁当を届ける時間です。

慌てて簡単なお弁当を作って急いで出発。

お弁当のおかずはリクエストにお答えしてごくごくアッサリした物。

脂っこい物はこの暑さでのどを通らない言われたからです。

現場に着くと、父さん食べるものがなくポツンとしていました。

棟梁とマムさんは歩いても帰れる自宅にお昼を食べに行っています。

「遅かったじゃないか」

「ゴメンゴメン、お腹がすいたでしょう」

「早く食べないと午後の仕事が始まるよ。昼の休憩をする時間がなくなっちゃう」

暑い時期に外で働く人は昼の休憩をしないと夕方まで体がもちません。

石垣島は北緯24度、ほぼ北回帰線上にあります。

ということは、夏至の頃には太陽が南中すると高度89,1度、ほとんど90度、真上です。

5月でも87度、やっぱりほとんど真上です。

同じ頃、東京では、夏至で77,8度、5月で74,2度ですから、ここは亜熱帯なんだと再確認。

お弁当のふたを開けた父さん、

「あれ?実に質素なお弁当・・・」

「だってアッサリしたのって言ったじゃない」

「でも、ご飯とタクアンと明太子しか入ってないよ」

「おかず足りない?」

「いえ、充分です。こういうのが食べたかったんです」

戦前の弁当みたいなお昼を食べて休憩です。

食事の後に昼寝をしようにも日陰がありません。

鉄のコンテナも庇がないですから、建物の陰に、というわけにもいきません。

午前中に一回ある水飲み休憩の時間や昼の休憩時に使える日除けが必要です。

長い鉄パイプを骨組みにして上にブルーシートをかけて日陰の休憩場所を作りました。

直射日光が当たらなければ、海からの風が吹きぬけて、けっこう涼しいのです。

ここは村のはずれの林道を山に向かって200m上がったところです。

現場の周囲は見渡す限りの畑と草地です。

真夏の濃い緑の上を渡ってくる風のなんと気持ちのよいことでしょう。

畑の下の方に村の学校がよく見えます。

教室の廊下で子どもたちが動いているのが小さく見えています。

音楽室から合奏の音楽が聞こえてきます。

学校がすでに村の一番はずれにあったのです。

そこからさらに山の中腹に上ったところですから、斜面の下の方の村が一望できます。

高台なので風当たりが強くて夏も意外と涼しいのです。

ということは、冬は北風がビュービュー吹いて寒いということかも。



カウボーイのお引越し その9につづく


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→カウボーイのお引越し その8からつづく

牧場で荷物作りに精を出している間に、建築は着々と進んでいたのでした。

放課後は子どもたちが毎日柱の骨組み作りの手伝いです。

3mもある鉄筋に30cm置きに短い鉄筋の横棒を梯子のようにつけていきます。

短い横棒にする鉄筋は、長い鉄筋を高速電動カッターで切断して作ります。

長い鉄筋に短い鉄筋を細い針金で一つ一つしっかりと結び付けていくのは根気の要る作業です。

これが一番時間がかかるけど、後でやり直しの効かない大事な仕事なのです。

土台のコンクリートを流し込む前に、溝に鉄筋の柱の骨組みを横倒しにして入れます。

その骨組みに垂直に柱の骨組みを立てて、固定します。

もう一つ、排水管も土台を固める前に入れておきます。


「もしもし、今何してる?」

現場からの電話です。

近くに公衆電話がなく、業者に連絡するにも牧場に電話するにも不便なので、最近になって携帯電話を買ったのです。

携帯電話が大嫌いな父さんでしたが、少なくとも工事が終わるまでは必要なので仕方がありません。


「決まってるでしょ、荷物作りだよ」

「ちょっと来てくれ、流し台の位置を確認したいんだ」

現場に行くと、マムさんが排水の太いプラスチックパイプを準備していました。

彼はどちらかというと水道管や浄化槽の設置の方が専門です。

「台所がここで、流し台がここに来る予定だから、流しの排水はこの位置でいいです」

土台を作る時にもう床下の排水パイプを入れてしまうのです。

なるほど。

浴室、洗面所、トイレの排水管の位置も同様に決めておきます。

溝を掘って排水パイプを納めます。

骨組みを入れた土台の溝にはコンパネというベニヤ板で内側に壁を作ります。

このベニヤ板の中に生コンを流し込んで固めるのです。

生コンが乾いて固まったらベニヤ板をはがします。

こうして四角いコンクリートの出来上がり。

土台だけじゃなくて床も柱も梁も天井も、コンクリート製の「直方体」という形に分類される物は、基本的にほとんど全てがこの手法で作られます。

その度にたたみ一畳より大きなコンパネを必要な形、大きさにカットしてしっかり釘を打ちつけて型枠の形を作るのです。

青い絵の具で染めたような晴れた空に、男たちが金槌でカンカン、コンコンと打つ音が響きます。

家を作る大工さんの音です。

コンクリート住宅なのに木造家屋を作っているような音がするのはこれだったのです。

生コンを流し込むのはある程度型枠が出来上がってから、まとめてミキサー車に来てもらって一気に入れます。

それまでは毎日カンカン、コンコン、そしてコンパネに正確に印を付けて巻尺で測り電動カッターで切っていきます。

合計で何十枚もコンパネが必要になります。

これも業者にまとめて注文します。

配達されたコンパネはコンテナ倉庫の中に積み上げられます。

コンパネの型枠を補強する角材や、夜間にドリルやカッターなどを保管するのでコンテナ倉庫はもうすでにいっぱいです。


コンテナ倉庫コンテナ倉庫



「季節外の衣類や寝具、普段使わないキャンプやダイビングの道具はコンテナ倉庫に入れておけばいい。そうすれば居室が広く使える」


と言った計画はどうなったんだ?

大体、牧場にある我が家の荷物全部を持って行って新しい家に入るのか?


荷物の段ボール箱は次々と野鳥さんのいた住宅に運び込みます。

もう野鳥さんの2DKの家の2部屋は畳が見えていません。

箱の側面には品目別の名前ではなく、「テレビの部屋」とか「玄関」とか元あった場所の名を書くことにしました。

ぬいぐるみと文房具が同じ箱に入っている状態ですからそう書くしかないのです。

どうせ箱を開けても、洗面所にあったものは洗面所に、台所にあった物物は台所に納められることになるのです。

(アレはどの箱に入っているのかなあ)と思ったら、前の家ではどの部屋にあったかを思い出せばいいのです。


「野鳥さんの家はそのうちに床が抜けるよ。これ以上は入らないんじゃないかな」

「まだ台所があるだろう。台所にも荷物を入れろ。野鳥さんの台所はけっこう広かったぞ」

「たくさんは入れられないと思うよ」

「何で?」

「だってもう床が抜けているもん」

「あ、そうだった」

実は野鳥さんのいた住宅は、牧場ができる前から建っていた物で、先住の人が手作りして使っていた物でした。

相当古くなって、だいぶ前から台所部分の床は根太が腐って抜けていました。

床が抜けたところに薄い板とシートを載せてありましたが、歩く時は気をつけないとズボッと足が落ちてしまいます。

それでも床に注意しながら入るだけ入れていきます。

(新しい家にぜーんぶ荷物を運べたとして、人間が入る場所があるのかな。私たちはどこに寝ることになるんだ?新居の隣にテント張って寝るのか?)


→カウボーイのお引越し その10につづく


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→カウボーイのお引越し その9からつづく


柱の骨組みができて土台の骨組みと組み合わせて立ち上げます。

柱は垂直になるように正確に測ります。

それには水準器という道具を使います。

丈夫で厚い大きな板状のモノサシみたいな形です。

厚さ3cm以上ある板の中に色のついた液体の入った小さなシリンダーのような物がはめ込まれてあります。

密閉されたシリンダーの中には少しだけ空気が入っています。

その空気の粒が、泡というか透明の玉のように液体の中を泳ぎます。

水準器をちょっとだけ傾けると、わずかでも高い位置に空気は行こうとして動き出します。

完全に水平に置かないと空気の粒はシリンダーの中央の位置に止まってくれません。

なあるほど、こうやって水平、垂直を取るのか。

いろいろと勉強になるのです。

水準器 ↑水準器

ミキサー車で生コンを入れてもらい、一日経って乾いて固まると、丈夫な、コンクリートの土台から柱の骨組みが生えているように見えます。

高さが加わって、作業は立体的になりました。

高い所で仕事をするので足場が必要になりました。

足場用の鉄の組み立ての板はレンタルです。

柱の骨組みにコンパネで型枠をします。

また生コンミキサー車を呼びます。

翌日にはコンクリート製の柱が青空に向かって垂直に伸びていました。

「パルテノン神殿みたい」

「あれは円筒形の柱だろ」

「だって柱だけが何本も建ってるから」

「それにパルテノン神殿、ってあれ、遺跡じゃん」

新築の家を作ってるのに遺跡はないでしょう。

とにかく、ここまで出来上がるとなんとなく完成した家の形が想像できます。


「ここが浴室になるんだ。ここが台所で、料理して、運んでこの辺で食事する、と、・・・ウフフフフ・・・」

「何を楽しそうにニヤニヤして歩いてるんだよ、おい、下を見て歩けよ。その板踏むなよ」

自分たちで家を作るのは楽しいものです。

次は壁作りです。

床、壁、柱、屋根と全てコンクリート流し込みにすると材料費が高額になってしまうので、壁はブロックにします。

レンガのようにただ積んだだけでは弱くなってしまうので間に鉄筋を入れます。

ブロックには大きな穴が開いています。

この穴の位置に合うように鉄筋を土台に垂直に挿します。

これに上からブロックの穴を通して積んで行きます。

一段積む毎にブロックとブロックの隙間にセメントを塗って糊の代わりにしてくっつけます。

一段ブロック積んで、セメント塗って、また一段ブロック積んで、の繰り返し。

数段毎には横にも鉄筋を入れます。

踏み台に乗って高い位置からブロックを入れて下までゆっくり下ろします。

上半身と膝の屈伸を一度にやっているようで、いい運動です。

こういう作業は人手が要るので、荷物詰めの方はちょっと置いといて私も現場組に参加します。

「ヒェ~~~、一日中やって腰が痛いよー、まだ半分以上残ってるよね」

「二割くらいしか進んでないよ」

形はシンプルでも広く住みたいと大きめに設計したので、壁の面積も大きくなりました。

壁のブロック積みに何日もかかりました。

窓の部分は寸法を測って四角くおかないといけません。

そうしないと窓のない家になってしまいます。

壁ができたら、次は天井の型枠を作って一気に生コンを流し込むのです。

その後、ドアと窓が入ったらすぐに荷物運び、引越しを始めることになっています。

牧場の家も早く出ないといけません。

もう頻繁に立ち退きの催促が来ていたのです。

いつ引越しが始まってもいいように荷物のまとめも準備しておく必要にせまられています。

私は現場組からまた荷物詰の孤独な作業に移りました。

家が出来上がるのと荷物のまとめが終わるのとどちらが先かというところです。



→カウボーイのお引越し その11につづく


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カウボーイのお引越し その11

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→カウボーイのお引越し その10からつづく

子どもたちも学校から帰ってからよく働きました。

セメントが固まった後に型枠のコンパネをバールではがしたり、板に打った釘柄おペンチやくぎ抜きで抜いたり、曲がった釘をハンマーで叩いてまっすぐに直したり・・・。

大工仕事の経験の少ない大人よりもハンマー、ペンチの使い方が上手になったかと思えるほどでした。


「お母さん、夕方もっと早くに迎えに来てよ」

「そうだよ、早く帰って勉強したいんだよ」

壁と屋根が出来上がったら、先ず真っ先に運び込むのは子どもたちの勉強机でしょう。

「設計図よりトイレの奥行きを60cmほど広くしたんだけど、いいよな」

「え、ええ、まあ、広くなる分にはいいんじゃない?」

(ふうん、設計図どおりじゃなくていいんだ。)

「なんか初めの設計よりだいぶ広くなってない?」

「せっかく建てるんなら、めいっぱい広くしたいじゃないか」

それはそうですけどね。

「屋根を支える強度を増すためにここに壁を入れてもいいかな」

「いいんじゃないの」

現場での設計変更もありなのでしょう。

建築主がその場にいるんですから。

地面に何か白い紙が落ちています。

「アレ?設計図のコピーだ。風に飛んで落ちてたけど・・・」

「ああ、もういいんだ、それ」

(設計図なくていいのかな。)

地面にコンクリートを流して床を造り、ブロックの壁がある程度できあがると、いよいよ家を作っているんだという実感が湧いてきます。

本当は家じゃなくて農業倉庫ということになっているんですけど。

「床面積、けっこう広いね」

「40坪だからね」

「家の中でローラースケートできそう!」

「自転車も乗り回せるね」

広い住宅に引っ越すのが楽しみになってきました。

「広い」「大きい」とその時は思っていました。

実際、広いです、荷物がなければ。

床もセメント打ちっ放しで土足で上がるようにする予定だったので、家の中で自転車や三輪車に乗って遊ぶのも可能なはずでした。

建築も大詰め、屋根にコンクリートを流し込むための型枠作りは時間がかかります。

ていねいにやらないと流し込んだ生コンの重さに型枠や支えが耐え切れなくなってしまうからです。

屋根を張り出した所が庇になるのですが、

「庇は、設計図では90cmになっているけど、そんなに要らないね」

「ああ、60cmで充分だな」

え?庇が短いと夏は陽が入って暑いのでは?

「そうだ、家が出来上がったら屋根の上にトタンを載せて屋根の日除けと庇にするから、コンクリートの庇は短くていいんだ」

ホントかな。

日曜大工で日除けを一人で作ってくれるのかな?

ちと不安でもありますが・・・。

ここは建築主の言葉を信じることにしましょう。
 

梁は大きく、太い鉄骨を入れます。

生コンを入れる前に「サポート」と呼ばれる鉄の柱を屋根の下に数mおきに何本も入れておきます。

このサポートもレンタルです。

屋根のコンクリートが固まるまではめておくのです。

電気の配線も始まります。

今までは電動ドリルや電動高速カッターなど、電気が必要な時もありましたが、発電機を使って自家発電していました。

建築が完成する頃には電柱を立てて正式に電気を引く工事をします。

室内の配線は電気屋さんにお願いします。

丈夫なパイプの中に電線を入れて、屋根の厚いコンクリートの中に埋めるというわけです。

電気配線の準備もできて、そしていよいよ屋根の生コン注入です。

この時に天井の梁も、部屋の境目にある柱の何本かも、同時に生コンを入れて固めます。

それがいわゆる棟上(むねあげ)で、一応大まかな家作りの大工仕事が終わります。

棟上が無事に行われたら、もう建築は九割完成したも同じです

その後は外壁の塗装、ドアや窓の取り付けをアルミサッシ屋さんにやってもらって、完成になります。

内装はしなくても使えます。

棟上の日は近所の人が何人も手伝いに来てくれます。

この日が上棟式になるのです。

この日はご近所の人達を呼んでお祝いをするのでその準備も必要になるのです。





→カウボーイのお引越し その12につづく


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カウボーイのお引越し その12

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カウボーイのお引越し その11からつづく


屋根の型枠ができあがって、あとは大量の生コン注入となりました。

その日は大勢の人に来てもらって仕事をするので、終わってから、いわゆる「棟上式」(むねあげしき)をします。

近所の人も呼んで、無事に棟上が出来たことをお祝いして料理や酒を振舞うのです。

今までは人手の要る作業の日は女の私も頭にタオルを巻いて男たちといっしょに作業をしていました。

でもこの日は棟上式の準備が忙しいので朝から料理作りに専念します。

二、三品作ると言っても、村のほとんどの人が来ますから相当の量になります。

刺身、お寿司は店で買って来るとして、天ぷらなどは手作りです。

牧場の家で作ったのではここまで運ぶのに遠すぎます。

建築中の場所にはガスも水道もまだありません。

そこで村の公民館の台所を借りて料理することにしました。

私一人では大変なので、友人のナッちゃんに手伝いに来てもらうことにしました。

ナッちゃんは数年前に牧場で過ごして今は石垣の人と結婚して主婦になっています。

大量の魚、イカ、野菜に衣をつけて二人で次々と揚げていきます。

島では冠婚葬祭の行事その他、人が集まるというと料理は刺身と天ぷらがメインです。


「何かというと天ぷらだけど、いいのかな?」

「いいんです、天ぷらで」

自信を持ってそう答えるナッちゃんは大阪出身ですが島の地元の人と結婚しています。

大家族で親戚の集まる時はたぶん大量の天ぷらを今まで作って来たのでしょう。

「こんなにいつも天ぷらで飽きないのかなあ」

「飽きないんですよ」

笑ってそう言ういつもニコニコ明るいナッちゃん、

ナッちゃんの作る天ぷらを親戚の人たちはきっと喜んで食べてくれているんでしょう。

幸せそうなナッちゃん、

私より二十歳くらいも年下で主婦暦も短いナッちゃんに沖縄風のおいしい天ぷらの作り方を教わります。

冷めても衣がベチャつかず固くもならない。

野菜を揚げても水っぽくならない。

天ツユや醤油をつけずにそのままで食べられる下味付きです。

天ぷら作りに夢中になっていましたが、現場の生コン注入はどうなったでしょう?

だいぶ前に公民館の前の道路をミキサー車が通って行きました。

ここの台所の窓から道路を走る車はよく見えます。

「ナッちゃん、悪いけど、ここちょっとお願い。向こうの様子も見てくるね」

「はいはい」

車で2分。歩いても行かれる距離です。

いえいえ、それどころか道路から山の方を見ると高台に建つコンクリート色の四角い大きな物が遠くからも見えます。


「みなさん、ありがとうございます。わあ、屋根の生コンうまく入ったんだね」

「うん、ちょっとアクシデントはあったけどね」

「何?」

「柱が爆裂しただけだよ」

「爆裂?!」

柱の型枠を留めたネジ釘が一部はずれて、板の隙間から生コンがあふれ出したらしいのです。

「で、柱は無事?」

屋根も崩れず普通に建っていますから無事は無事だったと見えますが。

「急いで板を当てなおして事なきを得たんだけどね、・・・・まあ・・・」

「だけど・・・?」

「ここだよ」

たくさんのサポートの柱の隙間を縫ってこわごわ屋根の下を覗くと・・・。

ちょうど台所と脱衣所の境に当たる柱です。

型枠はきちんと直されて生コンが納められています。

下を見るとあふれたセメントが床にこびりついて固まりかけています。

つるつるに平らに出来上がっていたコンクリートの床にちょっとセメントが垂れてデコボコになったかなあ。

でも壁際の隅っこだし、まあいいか。

自分たち家族が住むだけだし。

しかし、数日後に型枠のコンパネをはがした時に結果が分かることになるのですが。


「もうそろそろお仕事終わりそうだね」

「よし、棟上式のお祝いの準備だ」

建物の中はサポートの柱だらけだからお客さんはもちろん、家族も入れません。

棟上のお祝いの席は建物の外にビニールシートを敷いて、ということになります。

セメントの後片付けが済むころにはぞくぞくと村の人が棟上のお祝いに集まってくれます。

買ってきた刺身やお寿司と、公民館でナッちゃんに手伝ってもらって作った大量の天ぷらを並べます。

大人たちが食べて酒を飲む席の隣に子どもたちのテーブルもセッティング。

「ワーイ、お寿司だ!」

「ポテトチップおいしい」

近所の子どもたちも集まっていっしょに食事するのは楽しいことです。

ご近所からは棟上のお祝いもいただいて薄暗くなるまでこの山の中腹の建築現場がにぎやかな宴会場になります。

今まで毎日仕事に来てくれていた棟梁やマムさんも、忙しい仕事はこれで一区切り。

今までは、夏の台風が来る前に棟上を終わらせようと毎日暑い中がんばっていたのでした。


明日は朝寝坊ができそうです。



→カウボーイのお引越し その13につづく


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カウボーイのお引越し その13

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→カウボーイのお引越し その12からつづく


大きい仕事が終わって一区切りがついたところで2、3日休みになります。

が、これから数日間は毎日しなければならない作業があります。そ

れは屋根に入れたコンクリートが生乾きのうちに水を撒くことです。

「早く乾いて欲しいのに、なんでわざと水を撒くの?」

「こんなに暑いカンカン照りの日は水を撒きながら乾かさないとヒビが入っちゃうんだよ」

そうか、セメントの中心部分と表面とで乾き具合がちがって、ということは縮み方もちがうからヒビが入るのかな。

子どもの送り迎えに学校に来たついでに現場に寄って毎日二回ほど広い屋根の上にジョウロで水を撒きます。

撒いたそばからどんどん蒸発していきます。

夏至を過ぎていました。

水道はまだ敷設されていません。

飲み水は毎日運んできていましたが、仕事で使う水は溜め池の水を使っていました。

家を建てる前に整地してもらった近所の土建業の人にお願いして、敷地の山側に直径3mほどの穴を掘ってもらったのです。

ここに山から流れてきた雨水を溜めます。

建物の方に水が流れてこないように、また溜めた水は何かと利用できて便利なので、一石二鳥です。

このため池のおかげでセメントを練る水にも使えたし、汚れた手足を洗うのにもとても役立ちました。

池まで行って手を洗うのは不便なので、モーターポンプで汲み上げてドラム缶何本にも移して使いました。

池があふれるくらいの大雨が降ることもあります。

それも想定内です。

この辺りのスコールの雨量はすごいのです。

池の上部に太いパイプを入れて、その先は地面の下を通り、畑の下の低い土地の方に余った水が送られるようにしておきました。

これで大雨でも池は氾濫しません。

このパイプを通ってきた水はドラム缶に受けて、またここでも溜めて置きます。

こちらでも畑や家畜にこの雨水を使うのです。

むだはありません。

もちろん屋根のコンクリートに撒く水もこの雨水です。

屋根が乾くまでサポートの柱ははずせません。

その間にまだまだすることはたくさんあります。


200m離れた道路の水道管から水を引くこと。

外壁のブロックに上塗りのセメントを塗ること。

電柱を立ててもらい電気を引くこと。


隣の民家(200m先)近くの水道管の本管から道路のアスファルトをはがして、という王道の方法で支線を引いてもらうと、何十万円もかかります。何百万円かもしれません。

どうしても業者でないとできない部分以外は自分たちでパイプを通すことにしました。

本管から現場までの土地の半分以上はうちの畑です。

隣接の畑の持ち主にも許可を取って畑の中を深く掘ってパイプを埋めます。

またまた小型パワーショベル「鉄兵丸」が大活躍です。

そして本領発揮のマムさん。

外壁は雨が降っても水が滲み込まないようにブロックの上にセメントを塗ります。

室内では浴室だけをセメントで壁塗りをします。

ここだけはシャワーの水がかかります。

こういう仕事は器用な棟梁が慣れていてきれいに塗ってくれます。

サポートをはずすと、中は広い空き倉庫状態です。

次なる仕事は、固まったコンクリートの柱や天井の型枠のコンパネの板をはがすことです。

バールではがした板から釘を抜き取っていくのは子どもたちの仕事。

みんな慣れたもんです。

台所の柱の型枠の板もはがされました。

一度爆裂して急いではめ直したあの柱です。

「ん?なんか、目がおかしいのかな?」

「おかしくないよ」

「気のせいか、この柱ゆがんで見える」

「気のせいじゃないよ、あふれたセメントがふくらんで固まったんだよ」

柱の途中、根元近くがふくらんでいます。

凸面鏡か凹面鏡の部屋にいるようです。

「なんか目が回る・・・」

まあ、鉄筋が入って、セメントが固まったんですから構造上問題はないでしょう。

見た目の問題です。

いえ、この柱の前に冷蔵庫や食器棚を置いてしまえば見えなくなるからいいかな。

「この柱、お腹がふくらんだみたいで、なんかこういうの教科書で見た覚えがある」

「なに?」

「あ、思い出した、エンタシスだ」

「は?、何だ?」

「やっぱり遺跡だあ」




→カウボーイのお引越し その14につづく


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カウボーイのお引越し その14

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カウボーイのお引越し その13からつづく


学校が終わってから子どもたちは歩いて現場(もう建物は出来上がったので新しい家と言った方がいいでしょうか)に来ます。



使った板の釘を抜いたり、板を集めて片付けたりという仕事を手伝っています。

牧場での引越しの荷物まとめも本格的になったので、夕方の私の迎えが少し遅れがちになります。

夕方の仕事が済むと迎えが来るまで子どもたちは机に向かって待っています。

勉強机は約束通り一番初めに運んでやりました。

屋根が出来たので陽射しを防いでくれるからゆったり勉強して待っていられます。

六月の石垣の日の入りは午後七時半頃、暗くなるのは八時過ぎです。

少しずつでも出来上がった荷物を運びたかったのですが、ドアやアルミサッシの窓が入らないうちは運ぶわけにはいきません。

多少雨に濡れても構わなくて、盗まれそうもない物だけは先に移動します。

勉強机と同じように最初に入れたのは台所の流し台、調理台です。

これは牧場から運んだのでも、新品を買ったのでもありません。

ガス屋さんに新しい換気扇を注文に行った時に見つけたのです。

ガス屋さんの建物の裏に置いてあったまだ使えそうな新しめの流し台、調理台、ガス台のセットが・・・。

システムキッチンに買い換える人から下取りしたのでしょう。

壊れてもいないのに引き取られてきたようです。


「これ、もらって行ってもいいですか?」

「あ、これ?どうぞ持ってって。全部持って行ってくれる?こっちにももっと大きくて上等のがあるよ」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

というわけで中古ですが買わずに手に入れました。

というか、拾ったって言うのかな?

しかも憧れのダブルシンク。

「捨てないでくれよ、まだ使えるじゃないか」

の精神で使える間は使います。

実はこのシンク、使い易そうなのを早くから目をつけていたのです。

建物の工事が始まってすぐにもらってきて現場の隅に置かれてありました。

屋根が出来たらすぐに運び入れました。

水道が引かれて蛇口が付けられました。

流しの排水口から排水パイプを浄化槽の方につなぎます。

「わーい、水が出た」

窓ガラス、ドアを業者に取り付けてもらうと、待ってましたとばかりに電気の配線がされました。

電気も水も使えれば、もうこっちの方で生活した方が便利そうです。

これから本格的な引越しが始まります。

こまごましたものを運ぶ前に壁際に置く大型の冷蔵庫を運びました。

土日になると町に住んでいる父さんの弟が手伝いに来てくれました。

休みのたびに来てくれて本当に助かりました。

荷物の移動は近所の農家のトラックを借りました。

もちろん1、2回の運搬で終わるはずはありません。

一日かけて段ボールの移動です。

引越しといっても短い距離ですし、一日でなんとしても終わらせなければいけないというのではないので、きちんと梱包してありません。

手当たり次第に段ボールにぽんぽん放り込んだだけです。

段ボールもスーパーで野菜が入っていたようなあまり大きくもない箱をもらってきて使っているのです。

一個ずつは軽いけど、個数ばかりが増えてかさばります。


野鳥さんの住んでいた家に詰め込んであった荷物をトラックの荷台に山積みして何度往復したことでしょう。

「疲れたー」

「兄貴、オレもう帰るわ、明日仕事やし」

「ありがとうね、本当に助かりました」

野鳥さんの家の畳が見えていました。

その分だけ新しい家は荷物で埋まっていくのですが。


「野鳥さんの家がスッキリ空いたなあ」

「ガランとしちゃったわ」

「さあ、明日からまたここに荷物を入れられるな」

「あ、ああ、そうですね」

「まだ押入れ、天袋の中、それとプレハブの荷物もあったよな」

「う、うん」

「また明日から荷物作りだね」

もう七月に入っていました。

夏休みは新しい家で過ごせるかなあ・・・。


→カウボーイのお引越し その15につづく


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カウボーイのお引越し その15

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長らくお休みしていました。お待ちかね(誰も待ってないと思いますが)つづきです。

カウボーイのお引越し その14からつづく


休日の度に父さんの弟が手伝いに来てくれました。

それでも荷物運びはなかなか終わりません。

主に男性二人がトラックに荷物の箱を積んで移動、そして向こうで降ろして空になったトラックが帰ってきます。

子どもたちや私はトラックの荷台に載せやすいように野鳥さんの家の出入り口まで荷物を運んでおきます。

普通の家の引越しなら、家族でこうやってトラック一台に荷物を積んで一度の運搬で終わるのでしょう。

そうなるためには、引越し前には最低限必要な物以外は、涙を飲んで捨てるか知り合いの人に引き取ってもらうんでしょうが。

我が家では「拾う物はあっても捨てる物はない」精神でものすごい量の持ち物です。

なにしろ、毎年三月末の転勤の季節のなると、引っ越す人からもらう物や、まだ新しいのに捨てられる運命の物を運び込み、家にまたものが増えていくのです。

買った物は少ないけど年々増加の一方の家財道具。扇風機などは五人家族でありながら十五台以上になりました。ほぼ1mおきに扇風機が置かれて、どの部屋のどの位置にいても扇風機に手が届く、という便利というか、どんだけ暑がりなんだ?!

 荷物をトラックに満載して出発→降ろして帰って来る→次の荷物でまた満載で出発・・・を繰り返して夕方になります。

トラックを農家の人に返すついでに新しい家に行って見ます。

「わ、わ、すごい!荷物でいっぱい!」

そりゃそうです。牧場では小さな2DKの住宅には入りきらなかった荷物は隣接したプレハブ、ちょっと離れたプレハブ、そして室内でなくてもいい物はトラクターを入れてある格納庫に、と分散してありましたからまとめると相当な量です。

「西の部屋はもうこれ以上は入らないな」

「これだけギッシリよく入ったね」

「隙間なく入れただろう。・・・って言うか、人間が入る隙もないな」

奥から順番に詰めて荷物を入れたので上手にたくさん入りましたが、奥の方の荷物は取り出せません。

「まあ、今度は床が抜ける心配はないからねえ」

荷物はコンクリートの土間に直に置いてあるので床が抜けることはありません。元々が倉庫ですから、床の板張りは作ってないのです。

家の中は全て土足で生活することにしました。

「次は隣の中央の部屋に入れるのか」

約四十坪の東西に長い建物を、大きく三つに分けて作りました。

東と西の部分が倉庫兼車庫。中央の一番広い部屋が居室部分です。

でもここで一つ問題がありました。

中央部にはベニヤ板が何百枚も山積みされて場所を占めていたのです。

天井や壁に生コンを流し込む時に使ったコンパネです。

セメントが固まってからはがしたベニヤ板は外に置かれた船積み用巨大コンテナの倉庫にも入りきらず、居室部分に積まれてありました。

大きさはたたみ一畳ほどの板、厚さ1cm2cmの板でも百枚重なると高さ1mになります。

中央の部屋には人間の背の高さよりも高く積まれたベニヤ板の山が全部で三つもありました。

これだけでも荷物を置くスペースが限られています。

夏休みに入り、子どもたちは学校に行かなくていいことになると、毎日が引越し作業です。

「ねえ、引越しってこんなに何日もかかるもんなの?」

引越しを経験したことのない子どもたちの素朴な疑問。

「ううん、普通は一カ月位前から少しずつ荷物をまとめていって、引越しの日は一気に一日で運んじゃうんだよ」

「そういうもんなの?なんでうちはこんなにタイヘンなの?」

「荷物がすごく多いからかな」

「よその家ではもっと少ないのかな」

「多い家でも、引越しとなると仕方なくどんどんものを捨てたり人に上げたりして減らすのよ」

「うちは拾うことは捨てることはありえないもんね」

よくわかっていらっしゃる。

「他の人が捨てるような物でも拾ってきちゃうもんね」

「捨てるゴミあれば拾うゴミあり」

そういう諺だったかな?

カウボーイのお引越し16につづく

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カウボーイのお引越し その16

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カウボーイのお引越し その15からつづく

 夏休みになったら新しい家に引っ越してのんびり過ごすはずが、連日の引越し作業です。

長い休みなのに子どもたちは遊びに行く暇もありません。

家の中の荷物もさることながら、庭の果樹も引越しです。

20年も住んでいると、家庭菜園の域を越えて熱帯果樹が何本も、それもかなりの大きさになっていました。

これも個人の物ですから持って行って新しい土地に植え替えます。

幸いにも今度の土地の畑は広いのです。

シークワーサー、アセローラ、などの熱帯果樹を根回しして移動します。

根回しもミニユンボの「鉄兵丸」が働きます。

建築はほとんど完成ですがこういう仕事にまたマムさんが来てくれます。

何年も育ててきた果樹の根の周りを深く掘って移植できる大きさに地下の部分をまとめます。

一番愛着があって持って行きたいのは「ボクのトモダチ」のクワの木でした。

でもあまりにも大きく育って、今では大木と呼べる太さになってしまったクワの木は運ぶのはむずかしいでしょう。

思い出のあるクワの木。

子供が生まれる前に1m足らずの高さで太さも指くらいしかなかった細い苗だったのに。

植えた2年後に子どもが産まれ、子どもたちといっしょに成長していったクワの木は家族のようなものでした。


数年前に水道管敷設の工事をしました。

それまで谷の水をポンプで汲み上げて引いてきていましたが、市の水道水を使うことになったのです。

水源の近くで道路工事があって、保健所で調べてもらうと谷の水は飲み水には適さない水になっていました。

水道管を地中を掘って埋めるのには台所近くのクワの木の大きく横に張り出した枝がじゃまでした。

大きな機械が入らないので、一番太い枝を切り落とすことになりました。

その時も子どもたちは、(私も)泣きたいくらいに悲しかったのです。

枝にロープを下げてブランコにして遊んだり、それを足がかりにして木に登って屋根の上まで上がったり。

大事な枝だったのです。

枝を一本切るだけでも悲しいのに、この木を丸ごと置いて去らなければならないというのは辛いことでした。


 他の木は根回しが済んで持って行って移植しました。

そしてまだまだ引越し作業が続く中、夏の例年の現象が起きました。

台風です。

毎年の恒例行事のように台風は必ず来るのです。

建築途中でなくてよかったです。

新しい家は壁も屋根も窓、ドアも完全にできあがって台風に対しての心配はありません。

台風が来る季節の前に完成させようとがんばって6月中に工事を終わらせたのです。

新しい家は戸締りを完璧にして、家族は牧場に帰ります。

台風が過ぎるのを待つ事にします。

久々に引越しの作業はお休みです。

あまり大きくない台風だったようで一晩経っただけで暴風は強風に変わりました。

まだゴーゴーと風の音はしますがそっと台所裏のドアを開けて外の様子を見てみます。

「あああっ、クワの木が!・・・・・・」

植えてから十年以上経って、今までどんな猛烈な台風にもびくともしなかったあのクワの木が、傾いてしまっています。

完全に倒れてはいませんが元の位置へ修復するのは人間の力では不可能です。

鉄兵丸を使って起こしたとしてもかえって根を傷める事になるでしょう。

どっちにしてもこの木の所有権は放棄しなければならなかったのです。

「ボ、ボクのお友だちが・・・・・・・」

中一になっていた鉄兵もショックなようです。

クワの木の周りに何本も根を張っていた他の木を掘って持って行ってしまったからでしょうか。

地盤が緩んでいた所へ大雨が降って強風が吹きましたからこうなってしまったのでしょう。

二十年前に初めてこの牧場に来た時は住宅の周りには木の一本もなく風の音だけが聞こえて荒涼とした原野のように見えました。

いつしか、植えたクワの木だけでなく、こぼれ種から生えたクワの苗も生長して大きな木になっていました。

他にも飛んで来た種から生えた雑木などで家の周りは木に囲まれて、森のようになっていました。

遠くから見ると牧場の中に小さな森があり、その中に小さな家があるという状態でした。

大草原の小さな森の小さな家だったのです。

森になってからは直射日光は避けられて、日中壁が熱くて触れないということはなくなりました。

トイレも浴室も涼しくなって、以前のようなサウナ状態ではなくなりました。

その代わりちょっと風通しが悪くなって蚊が多く、それに室内は昼間も薄暗くて電灯を点けていましたが。

牧場閉鎖と同時に解体されたトラックが牧場の仕事の象徴なら、このクワの木はここでの子育ての生活の象徴だったように思えます。

二十年近く続いた牧場での生活も終わりを迎えようとしていました。



カウボーイのお引越し17につづく

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カウボーイのお引越し その17

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カウボーイのお引越し その16からつづく


7月の末になると、鉄兵はかねてから予約してあった飛行機に乗って東京に向かいました。

長期の休みは東京の塾に行って勉強したいと以前からの希望だったからです。

「いいなあ、お兄ちゃん、引越しの仕事しないで」

「オレは勉強しに行くんだよ」

「きりんも塾に行くか?」

「やだ」

「鉄兵が8月に帰って来るころには新しい家の中が片付いているかな」

(そうだといいんですけど・・・・)

鉄兵が出発した後の作業は気の毒ですがきりんとくるみにがんばってもらいます。

新しい家の一番西の部屋は荷物で埋まってしまいましたから今度は中央部分に運び入れます。

高さ2mのベニヤ板の山の周りに段ボールが積みあがって行きます。

そのわずかな隙間を、身体を横にしてカニ歩きで通ります。

すでに我が家は「ドン・キホーテ」状態。

新しい家に水道と電気が引かれて間もなく、牧場の方の水道が、続いて電気が止められました。

これでもう生活するのは新しい家のほうに移動です。

普通はこれを引越しと言うのですが、まだまだ半分も荷物を運んでいません。

朝になると新居から牧場に通い、日暮れになると新居に戻って寝る、ということになります。

しかし、新居の床は土間です。

どうやって寝るのでしょう。

今まできりんとくるみが使っていた二段ベッドは分解して運んでありますが、組み立てて置く余裕はありません。

クッションを置いた長椅子が一台ありますが、これをベッド代わりにしても一人しか寝られません。

コンクリートの土間に直に寝るのもどうも・・・。

それに床という床は段ボールで占領されてしまって布団を敷く場所はありません。

カニの横ばいをせずに歩いて動ける空間は台所の流し台の前の半坪だけです。

これもふさがれてしまっては料理が作れません。


「どこに寝るって言うのよ」

(荷物に占領されて外にテントを張って寝るのはイヤですよ)

「ここがあるじゃないか」

「あ、そこがいい!そこで寝る!!」

きりんとくるみが喜んでタオルケットを持って行ったのは高さ2mのベニヤ板を積み上げた山の上でした。

確かに高さはありますが平らな板を順に平面に積み上げた上は水平で平らです。

たたみ一畳より大きなベニヤはゆったりと寝られます。

夏なので敷布団もなくてもかまわないのです、タオルケット一枚あれば。

ゴツゴツした岩の上や木の根のデコボコした地面で寝るキャンプのことを思ったら、水平な板の上なんて天国です。

キャンプ家族はたくましい!


運び入れたテレビもベニヤ板の山の上に置きます。

「わたし、ここの山」

「わたしはこっち」

ベニヤの山は三つあります。

それぞれ好きな山を選べます。

枕とタオルケットを持ってベニヤの山によじ登ります。

「わあ、高い。おもしろーい」

「テレビも見える!」

けっこう楽しそうです。

窓を大きく作ってありましたから、開け放すと高台の家は風が吹き抜けてクーラーなしでも意外と涼しく寝られます。

亜熱帯とは思えないほど。

風がなく蒸し暑かった牧場の寝室より快適です。

「しばらくはこうやって寝ていなさいね」

この非日常的な寝床はその後家の中が片付くまで本当に「しばらく」続くことになるのでした。

カウボーイのお引越し その18につづく

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カウボーイのお引越し その18

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カウボーイのお引越し その17からつづく

新居で何とか寝る場所は確保できました。

鉄兵は東京に行っていますから、とりあえず四人分の寝床ができればいいわけです。

ベニヤの山が三つで三人分、そしてもう一人は籐の長椅子にクッションを並べてベッド代わりにした物。

朝はここから引越し作業のために牧場に向かって出発です。

牧場はもう水道を止めてしまいましたから、飲み水を持って行きます。

新居の建築中は毎日牧場から現場までキーパーで飲み水を運んでいましたが、今度はその反対です。

住宅の中の荷物はだいぶ運び込みました。

おかげで40坪の新居は荷物で満杯。

人がくつろげる場所はベニヤ板の山の上しかありません。

ある程度動ける空間は、トイレと浴室と脱衣所と台所の調理台付近だけになりました。

それでもまだまだ作業は終わらないのです。


20年も住んでいる間に家を使いやすいように棚を作ったり、生き物を飼っていたのでその放し飼いの柵を設置したりしていたのでした。

今回引っ越すに当たり、私物は全て撤去して外回りも原状回復します。

ヤギを放し飼いしていた頃の広い柵の金網は針金で何箇所も縛ってあったので、それをペンチで一本ずつはずします。

またここでも子どもたちが活躍です。

金網を支えていたのは地面に深く打ち込んだ鉄筋です。

これも引き抜きますが、作る時にはハンマーでしっかり打ち込んであったのでなかなか抜けません。


「ぬおーっ!!」

「ダメだ、抜けない」

「よし、ロープを掛けて・・・」

ユンボの力を借ります。

    グウォ――ン

エンジンの音がしたと思ったら、たこ焼きの楊枝を抜くようにするりと簡単に抜けていきます。

油圧ショベルの力はすごい!

イノシシの小屋も移動です。

以前大半が山に逃げてしまいましたがまだオスとメスの二匹います。

「イノシシどうやって連れて行くの?」

「檻に入れてトラックで運ぶしかないだろう」

またあの柵の内側に人間が下りて檻の中に追い込むんでしょうか?

あんな恐怖はいやです。


「ユンボを使って檻を柵の中に下ろす。エサを撒いて檻の中にイノシシが入った時に入り口のふたを閉める。ガシャーンだ」

どこかで聞いたようなセリフです。

たしかあの時は失敗して最後までイノシシを捕まえられませんでしたけど。

ユンボを運んで来て吊り上げて柵の中にゆっくりと下ろします。

イノシシは何事が起きたとかと興奮気味でしたが、間もなく落ち着いてきました。

やっぱり野生のイノシシとはちがって馴れています。

イノシシがすっかり安心して来た頃、父さんはユンボのアームを伝わって檻の上に立ちました。

イノシシは檻の周りを回っていましたが、檻の中にエサを入れてあるので出入りしています。

奥の方に入った時をねらって手早くドアを閉めます。

ガシャーンという音はしませんでした。もう一匹も同じように捕獲。

「あれ、呆気なく捕まったね」

どんだけ大捕り物になるかと期待、じゃなくて心配してましたが意外と簡単に捕まえられました。

これを吊り上げてトラックの荷台に載せるのもユンボです。

名前の元の鉄兵は不在ですが、代わりに「鉄兵丸」大活躍。

イノシシの檻二基はちょうど2トントラックの荷台に納まりました。

これは新しい畑の脇に平らな土地を用意しておいたのでそこに設置します。

ゆくゆくは広い丈夫な柵を作って広々と放牧してやる予定です。

今のところはそんな余裕はないのでしばらくは狭い檻の中で暮らしていてもらいます。

イノシシの引越しが終わってこれでまずは一安心。

今までは寝泊りが新居に移っても、イノシシのことが気になっていたのです。

「無人になったらイノシシ盗まれるぞ」

「まあ、凶暴なイノシシを生け捕りにして無事に盗み出せる人はいないと思うけど」

「生け捕りとは限らないさ。鉄砲で撃って持っていく奴がいるかも知れないだろう」

「それはそうだけど・・・」

「夜は大人のどちらかが交替で泊まった方がいいな」

「電気も水道もない牧場の家で寝るのお?」

扇風機も使えず、台風でもないのに電気もない所で一人で寝るのはおもしろくありません。

イノシシが移動できて、宿直の番をしなくてよくなったのでヤレヤレです。


昼になると持って来たパンやおにぎりで簡単な昼食をしてまた夕方まで作業です。

電気がないので日が暮れたらもう仕事は終わりです。

荷物で埋まっているとは言っても水道も電気もある家は快適です。

夕食ができると家族のいる山に運んでやるのです。

「はい、ご飯を受け取って」

ベニヤの山の上から手を伸ばして皿を取って壁のない「個室」というか個人のスペースで食事です。

私もご飯を持って山によじ登ってその上で食べます。

「あら、高い所から見下ろして食べるのも悪くないわねえ」

やっぱりキャンプ家族です。


カウボーイのお引越し その19につづく

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カウボーイのお引越し その19

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カウボーイのお引越し その18からつづく

牧場の住宅内の荷物はほとんど移動しました。

荷物をどけると、今までの家ってこんなに広かったかなあと思えます。

引越しの時には誰でも感じることですが、物が多い我が家は特にそうなのです。

物を目一杯置くから部屋が狭くて寝るときも食事の時もぎゅうぎゅうでした。

「引っ越したら広々とした部屋でゆったりと寝たいなあ」

「任せとけ」

「テーブルも広く使って五人全員そろってご飯を食べる場所がほしいわ」

「もちろんだ」

それまでは小さなテーブルしか置けなかったので子ども三人がテーブルに着くともう一杯で、父さんは少し下がって段ボールか何かをテーブル代わりにして食べていました。

私はみんなが済んだ後に交替で食べていました。

だからこそ室内を広く使ってのびのびと暮らしたい、という願いは強かったのです。

『季節外の衣服やキャンプ道具など普段使わない物をしまっておく』はずだったコンテナ倉庫は、建築が完成した時点でもう大きな道具類や角材、ベニヤ板の残りなどで満タンです。

新居では広々過ごすどころかもっと厳しい狭い空間の生活になっています。

建坪は40坪あるので決して狭小住宅ではないのですけど。

家の中のキャンプ状態の生活はまだ続きます。

荷物は運び終わっても、外回りの金網や地面に打ち込んだ鉄筋、プレハブ勉強部屋の日除けの庇も自分で手作りして取り付けたものでしたから、これも撤去です。

台風にもビクともしないように頑丈に取り付けたから、分解するのにも難儀することになるのです。


やがて夏休みも終わりに近づきました。

夏休み前に引越しを済ませて、休みに入ったらゆっくりと荷物の片付けをして新学期はすっきりと迎えようという計画はどんどん遅れていきます。

そして東京の塾の夏期講習も終わって鉄兵が帰ってきました。

「あれ?まだ引越し終わってなかったの?」

「荷物は運び終わったけど、まだ運ぶ物があるんだよ」

「オレはどこに寝るの?」

「どこでも自由に好きな寝場所を選んでください」

「って、ここでいいよ」

籐の長椅子のクッションの上です。

「オレは・・・」

「お父さんどこか隙間を見つけて寝てね」

「ああ、オレ暑がりだから夜は外で寝る」

家の東側の出口前に高さ30cmほどの「ミカンコンテナ」を並べました。

りんご箱くらいの大きさのミカンコンテナを4個並べてその上にベニヤ板を載せるといいベッドになりました。

「ああ、涼しい!こっちはいいぞー」

「どれどれ」

「ホントだ、風が涼しい」

「こっちの方がいいなあ」

「いいぞ、みんなこっちに来て寝ても」

余っているミカンコンテナをもっと集めて並べてベニヤを載せ、もう一台ベッドが外にできました。

大きなベニヤ板一枚に子供なら二人は寝られます。

山の中腹の斜面で回りは広いキビ畑しかない場所です。

空気も涼しい。天然のクーラー、というか工場で使われるような大型扇風機並の風が吹きます。

「広々寝られるー」

家の中は荷物で塞がっていますから人間は外で寝る方が広いのです。

やっぱりキャンプ家族なのでしょうか

「空が広いな、引っ越してきてよかったなあ」

「星を見ながら寝られるなんていいねえ」

周りに高い建物はもちろんのこと1軒の家もなくて障害物はないし、島に大きな工場もなく、空は澄んで星空観察にはいい田舎です。

「でもなんかあの辺がまぶしくてじゃまだな」

家の東側の斜面の下、強烈に明るい光が出ています。

星空観察にもじゃまですが、寝るにもまぶしくて寝られません。

それは小学校の校庭と校門の前にある防犯用の水銀灯の光でした。

「まぶしいから消してほしいな」

そうはいきません。

消してしまっては防犯灯の意味がありません。

でも足元の低い位置から上向きに照らされるとどうしても目に入って眩しいのです。

「頭と足を反対向きにしてみようかな」

「あ、いいかも!やってみよう」

頭と足の位置を入れ替えます。

「ダメだよ、頭の方が下がる~」

「寝にくいよ」

「よーし、光を遮る壁を作る!」

もう一枚ベニヤ板を運んできてベニヤのベッドの端に立てて水銀灯の光を遮断しました。

「ああ、やっと暗くなった、これで寝られる」

「星もよく見える」

南十字星の見ごろの時期は過ぎていましたが、流れ星なら1年中見られます。

「あのもやっとした白いのは雲?」

「天の川だよ」

空の端から端まで渡る銀の粉の川が天の川です。

「星空もいいけど、なんかちょっと痒いんだけど」

「蚊がいるんだね」

「か、カユイよー」

「蚊だけじゃないんじゃない?ブヨもいるみたい」

「うん、ものすごくカユイ」

雨が降る前はブヨが出没します。

「カユイなあ、そろそろ家の中で寝るか?」

「つまんないの」

「天の川が大きくなった」



「ホントだ、空全体に広がった」

??

「天の川が広がったから星が見えなくなった」

???

「コレは天の川じゃないよ。天の川の中も星は見えるんだよ。星を隠すのは雲だよ」

「じゃあ、曇りになったってこと?」

雨が降ってくるのかも・・・。

ポツ・・・、ポツ、ポツ、ポツポツポツ・・・

「雨だ!」

ザ――――――!

「ワー、降ってきた」

「逃げろー」

タオルケットを抱えて我先にテントに、じゃなかった。家に入ります。

「まるでキャンプのときみたいだな」

キャンプ家族なのでした。

→カウボーイのお引越し その20につづく

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カウボーイのお引越し その20

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    なんだ、かんだとブログ更新しないまま1ヶ月が経ってしまいました!! 

    すみません。

→カウボーイのお引越し その19からつづく


予定ではとっくに引越しが終わり、夏休み中に荷物整理をしてスッキリとした新居で新学期を迎えるはずでした。

ですが、なにぶん予定は未定。

6月から始めた引越しは、二学期が始まるというのにまだ続いていました。

新学期が始まっても学校に通いながら放課後に引越し作業の手伝いはできます。


ここで一つ気になることが。

始業式に着る式服です。

石垣市のほとんどの小学校がそうであるように、この学校の小学生は、始業式、終業式などのセレモニーの日には「式服」で登校します。

制服というわけではないのですが、男子は紺か黒の半ズボンに白シャツ、女子は紺か黒のスカートに白いブラウス。シャツは無地ならYシャツでもポロシャツでもいいのです。

ブラウスもフリルやレースが付いていてもいいし、スカートはプリーツでもジャンパースカートでも自由です。

白と紺の組み合わせならOK。


こんなこともあろうかと、夏休み前には一応子供達の式服と学生服はちゃんと取り置いてありました。

何百もある荷物の箱のどこに入っているかわからない、というのでは始業式に出られません。


義務教育で標準服があるというのは堅苦しいと感じる人もあるでしょうが、これが結構便利なのです。

市主催の音楽会に学校単位で出場する時も、入学式も卒業式も表彰式も、何を着て行こうか、と悩まなくていいのです。

サイズが合っている間は毎回同じ服でも恥ずかしくないわけですし。

服が小さくなる頃には、ありがたいことにご近所からお下がりが回って来ます。

年に数回しか使わないので生地も傷んでいないし、上等です。

この辺りでは近所から子供服のお下がりが回って来るのは特別なことではありません。

おかげで我が家では子供服はほとんど買わなくて済んでいました。

幼稚園の制服もいただきました。

その制服の記名ラベルの所を見ると、前の持ち主だった子の名前が油性ペンで書かれたのが残っています。

それはそのまた前に使っていた子の名前の上に重ねて書いたものでした。

何重にも重ねて書き直した、一番下の、薄く消えかかった名前をようやく判読すると、もう今は高校生になっている卒園生のものでした。

うちの子どもは三人だけですが、大きなきょうだいが何十人もいるように思えて頼もしい気がしました。


そして九月の新学期が始まっても、まだ引越しは続くのでした。

朝は歩いて登校できるし、夕方も各自歩いて帰ってきます。

私もやっと送り迎えから開放されました。

「誰々のせいで遅刻になる!」という不満もなくなります。

引越し終了まであともう少し。

平日の夕方と土日で協力して作業を進めます。

そして引越しの最後の日、牧場との感動のお別れの日が近づいてきているのでした。


カウボーイのお引越し その21につづく

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カウボーイのお引越し その21

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→カウボーイのお引越し 20からつづく

家族で迎える「引越し完了の日」というのをずっと以前から想像していました。

子どもたちは生まれてから今まで、そして私たち夫婦にとっては結婚してから二十年近く住んでいた牧場です。


引越しの朝、家から見える山や海に家族はお別れを告げるのです。

「ここからこの景色をみるのはこれが最後ね」

今までの牧場での暮らしの年月に思いを巡らすのです。

荷物を積んだ引越しトラックとそれに続く家族の乗る乗用車。

出発しても後ろを振り返り、遠く小さくなって行く牧場の景色を名残惜しそうにいつまでも眺める私たち。

家族は泣くだろうか。

私は泣くだろうか。

「台所と食事の部屋との距離が遠い」

「学校が遠い」

「調理台が狭くて低い」

・・・・・・・・・・・・・

早く引っ越したいと常時願ってはいたものの、いざ引っ越す最後の日となると、寂しくて離れ難くなるだろうか?・・・と。


ところがどっこい、今日が最後という日は夜になっても引越し作業が終わりません。


「今日の5時には引揚げるって言ったじゃないか!いつまでかかってるんだ!!」

「今荷物まとめて出て行きますよ。だいたいあなた、ここの管理人じゃないでしょ」

牧場を閉鎖した後、この施設を借りて牛を飼うことにしていた人が、早く出て行ってくれと言って来ているのです。

私たちが牧場従業員でなくなってからは、住み込みではないですが別の人が管理人をしています。

ちょっと険悪な雰囲気になりました。

荷物は大方運び終わって、あと残っているのはレジャーボートだけです。

西表で父さんが遭難して、その後、西表の川で沈没したあのボートです。

でももう真っ暗になってこれ以上は作業できません。

管理人さんに電話して、ボートだけは明日の朝に取りに来るということを許可してもらって、今日の引越しは完了ということになりました。


「ボートは明日必ず取りに来るから」

父さんははっきり言って出発となりました。

旅立ちの感傷も何もあったもんじゃない・・・。


これで最後だと、車には荷物をこれ以上どうやっても積めないと思うほどの満載になりました。

父さん運転のトラックの荷台にももちろん山のように荷物が積まれています。

トラックの荷台の一番後ろに荷物がこぼれ落ちないように鉄兵が乗りました。

荷物の最後尾に鉄兵が立ったまま張り付いて、荷物が落ちないように押さえています。

片手はトラックの横の手すりにつかまって、もう一方の手は荷物を押さえ、おまけに片足を上げて低い位置の荷物が落ちないよう器用に膝で押さえていました。

中一の鉄兵は頼りにになる存在になっていました。

そのトラックの後ろに私の運転する乗用車。

この車には、最後にかき集めてトラックに載せきれなかった荷物でぎゅうぎゅうでした。

その荷物の隙間にきりんとくるみを押し込んで乗せました。

「ううう、つぶれそう」

「くるみはどこに乗ってるの?」

「ここだよ」

布団か何かかさばる物のわずかな隙間から声がします。

「だいじょうぶ?」

「だいじょうぶだよー」

姿は荷物に隠れて見えませんが声の様子では息ができているようです。

二人とも小柄でよかったです。

乗用車のそのまた後ろに最後まで手伝ってくれた父さんの弟が一人で乗る軽の車。

この車にも何だかんだといっぱい積んであります。


前をゆっくり走るトラックから荷物といっしょに鉄兵が落ちて来ないかハラハラしながら後について出発しました。

後ろを振り返って小さくなって行く牧場や建物に別れを告げるどころではありません。だいいち真っ暗で何も見えません。

合計3台の車を連ねての夜逃げのようです。

カウボーイのお引越し その22 につづく

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カウボーイのお引越し その22

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カウボーイのお引越し その21からつづく

乗用車は前のトラックに近づき過ぎると、もし鉄兵が落ちてきた時に轢いてしまいます。

そうかと言って、あまり離れると荷物が落ちた時に知らせても聞こえません。

後ろからヘッドライトで照らされた鉄兵の姿は、荷物を抑えるというよりスパイダーマンのように両手両足を広げて必死でしがみついているようでした。

「荷物より鉄兵が落ちるなよー」

トラックの荷台には曲芸のようにこれでもかというくらい大量の荷物を載せてありました。

高く積み上げた荷物の山は芸術的でさえありました。

「まだ着かないの?こんなに遠かったっけ?」

「スピード出せないのよ。トラック山積みだから」

「ずいぶんゆっくり走るんだね」

トラックは振動を与えないようにいつにも増してゆっくりと走っていきます。

「あの時の芸術的満載の写真を撮っておかなかったのが残念だ!」

あとで思い返して父さんはそう言うのですが、写真撮影など思いついたとしてもあの時カメラを出す余裕も撮る時間もありませんでした。

いつもなら五分ほどで行ける4㎞の道のりを、渋滞でもないのにトラックはのろのろと十五分以上かかって到着したのでした。

そして夜遅くに新居に無事到着。

「みんな大丈夫だったかあ?」

本当に夜逃げみたいです。

正当な手段で堂々と引越ししたというだけなのに。

このトラックは近所の農家の人が貸してくれたものです。

翌朝農家が使うからというので、その夜のうちに返す約束になっていました。

とにかく急いで荷物を下ろし、室内に積み上げ、トラックを返してくるともう夜中近くになっていました。

みんなクタクタで、有り合わせの物で食事をして寝るだけでした。

「ワーイ、新しいおうちだ!」

「今日からこの新しいお家に住むんだね」

・・・などという、新居での喜びの言葉もなく・・・。

そりゃそうです、もう何日も前から荷物の隙間で寝泊りしていましたから。

新しい家に来たという新鮮さはありません。

でももう明日から牧場に荷物運びに通わなくてもいいのです。

長い長い引越し作業からやっと開放されたのです。

「明日は仕事だからオレ帰るわ」

「ありがとうね、本当に助かったわ」

今日もいつにも増して大活躍だった弟クンも夜遅くなりましたが帰って行きました。

「あんたたちも明日学校だからね、もう寝ようね」

いつものように、2mの高さのベニヤ板の自分の山に各自よじ登って行って眠りにつきました。

翌朝子どもたちはいつものように徒歩で登校して行きます。

もう「早く帰って引越しの手伝いしてくれよ」と言う必要はないのです。

でも、子どもたちが出かけた後、私たちはのんびりしているわけにはいきません。

引越しは終わりましたが、まだ牧場に取りに行く物が残っていました。

昨日は時間切れで運べなかった、例のレジャーボートです。

これを二人で今日中に運ばなければならないのです。

トラックの荷台には載り切れませんから、近所から借りたトラクターとミニパワーショベルの鉄兵丸を使います。

長い船体の前後の端をトラクターと鉄兵丸のアームに結び付けて吊り上げて宙に浮かせて運ぶという計画です。

船を載せて運べる台車があれば簡単なのでしょうが、持っている人を探して借りに行くより手近な方法で運ぶことにしました。

少なくとも鉄兵丸は自家用車(?)ですから天下御免で使用できます。

「鉄兵丸の運転はアンタだよ」

「え?!わたし?」

「そうだろ、オレはトラクター運転するんだから」

ボートの前後でどうしても運転手が二人は必要です。

父さんは何年も前に大型車と大型特殊の運転免許を取っていました。

私は普通免許のみです。

これで小型とはいえ、パワーショベルを運転していいんでしょうか?

無免許運転にならないんでしょうか?

いや、もともと鉄兵丸は公道を走る乗り物ではありません。

工事用、作業用の機械です。

キャタピラーが付いて移動できるようにはなっていますが、長い距離を走る時は、トラックなどの荷台に載せて移動することになっています。

鉄兵丸を操縦してボートを吊った状態で4㎞も走って、いいんでしょうか、私で?

天下御免とは言えないような気がしてきました。


→カウボーイのお引越し その23 につづく

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カウボーイのお引越し その23

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カウボーイのお引越し その22からつづく

子どもたちが学校に行ったらすぐにボート運搬の準備です。

まず鉄兵丸を牧場に移動。

元々道路を走るようには作られていませんから、全速力でも人間が早歩きする程度にしかスピードは出ません。

4㎞の道のりも何十分かかかります。

父さんが鉄兵丸を運転して牧場に到着した頃を見計らって車で迎えに行きます。

自宅に戻って今度は近所から借りたトラクターの移動です。

トラクターは大きな四輪のタイヤですから鉄兵丸よりは速く走れます。

それでも乗用車ほどはスピードは出ません。

トラクターが着くころに合わせて私は乗用車で牧場に向かいます。

運搬には時間がかかることが予想されますからその心積もりで。

「途中で休憩入れるからね」

「そう思って飲み水と昼ご飯持ってきた」

昨夜の引越しの最後の一便よりさらに時間がかかるでしょう。

なにしろ鉄兵丸は人間が歩くよりゆっくりしか進めません。

「アンタが鉄兵丸の運転だよ」

「う、うーん・・・」

「これが左右のキャタピラーを動かすレバー。前に押せば前進、手前に引けば後退」

「うん」

「ミニユンボ(小さなパワーショベル)はブレーキがないから、止まりたい時はレバーから手を離せば自然に止まる」

「わかった」

「あとはこのレバー・・・」

座席の両側の肘掛に当たる所に、左右に一つずつレバーがあります。

レバーは前後左右に動かせます。

飛行機の操縦桿かテレビゲームのコントローラーみたいです。

「右のレバーは、前後に動かすとアームを上下させられる。左右に動かせばアームの先のバケットの角度を変える」

バケットを手首を曲げるようにしゃくって土を掘る時などに使います。

「左のレバーは、左右に動かすとアームの曲がりの角度を変える」

人間の腕で言うとひじの曲げ伸ばしですね。

「左のレバーを前後に動かすとアームが回転する」

アームは座席のある運転台にくっ付いていますから、アームを回転させるといっしょに運転台が回転します。

「やってみな」

「うん」

ガガガガガー・・・。

「わ、こわ!でもおもしろい。グルグル回るよー」

運転席は高くて見晴らしがいいしレバー一つで大きな乗り物を自由に動かせるというのは気分がいいものです。

「マジンガーZを操縦している気分だわ、ハハハハハー」

「こら、遊ぶなー」

遊園地の乗り物よりおもしろいです。

「前進と後退のレバー以外は今日は要らないと思うけど」

トラクターと鉄兵丸のバケットの先にボートの先端をロープで結びつけて吊り上げます。

「オレが前を行くから感覚を保って後ろから来てくれよ」

「え、私が後ろ?難しいな」

スピードを調節して行かなければなりません。

間隔を詰め過ぎるとボートに追突するか、ロープが緩んでボートが地面に着いてしまいます。

スピードが遅すぎると前を行くトラクターと間隔が空いて、ロープが張り過ぎて最悪の場合ロープが切れてしまいます。

前の車と常に一定の距離を保って進まなければいけないということです。

「後ろから行くのは大変だな」

「じゃあ、前を行くか?それでもいいけど、その場合はバックで進むんだぞ」

バケットはボートの方を向いているわけですから前を行く人は後ろ向きで進むことになるということです。

それはもっと大変だ。

「じゃあ、後ろから行くのでいい」

ちょっと練習しておこう。

「レバーはこっちに押すとアームが伸びて・・・」

覚えたての操縦ですからどうもぎこちない動きです。

なれた人は自分の手足のように滑らかに動いて重い物をバケットで持ち上げたり地面に穴を掘ったりしています。

私の場合は、ギーガシャン、ギーガシャン、とロボコップより動きが固い。

マジンガーZの動きになるまでには程遠いようです。

今日はとにかく一本道を通ってボートを運搬すればいいのです。

「じゃあ、行くぞ」

「OK!」

時速2㎞くらいで出発します。

ノンストップで進んでも2時間はかかります。

無事に着けるでしょうか?



カウボーイのお引越し その24 につづく

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カウボーイのお引越し その24

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カウボーイのお引越し その23からつづく


「ウーーウ、ウーーウ」

低いエンジン音を響かせて鉄兵丸は進みます。

前方バケットは高く持ち上げられてその先端にはロープでボートの船首が結び付けられています。

宙吊りになったボートの船尾の方は父さんの乗るトラクターのバケットに結び付けられています。

こちらもロープは短めです。

そうしないと船底が道路をこすってしまいます。

先頭は後ろ向きのトラクター、次が宙吊りのボート、最後がぎこちないミニパワーショベル。

3台が繋がってゆっくり進みます。

何十mも行かないうちに船首が鉄兵丸にぶつかりそうになりました。

牧場を出てすぐの所が上り坂なのです。

おまけにカーブしています。

ロープでぶら下がったボートがゆらゆら揺れて、後ろの鉄兵丸に当りそうです。

「わ、わ、近づき過ぎじゃないの」

慌ててスピードを落とします。

パワーショベルにはブレーキというのがありません。

その代わり押し続けているアクセルレバーを放せばただちに止まります。

レバーの押し加減でスピードを調節するのです。

ちょっとだけスピードを緩めて間隔を取るつもりが、慣れないもんだからゆっくり過ぎてほとんど止まってしまいました。

トラクターは今までと同じように進んでいましたから、当然ロープはピンと張られてついには切れてしまいます。

次の瞬間ボートはアスファルトの道路上に勢いよく落ちます。

「ゴットーン!」

「わ、ロープが切れた」

一度バケットのアームを下げて結び直して、またアームをできるだけ高く揚げてすぐまた出発。

「ボート、大丈夫だったかな」

水に浮くようにグラスファイバーという軽い材質でできているとは言え、全体の重量は相当なものです。

車一台よりはずっと重いです。

高さは1mもなかったでしょうが、重さで落ちた時の音はすごかったので、船体にひびでも入ったのではないかと心配になります。

平坦な直線道路に来ると一定のスピードで走れるので一安心です。

調子が出てくると、時間短縮のためちょっとだけスピードアップ。アクセルレバーの調節の他にもう一つスピードを上げる方法があります。

右手のスイッチの所にボタンがあってそれを押すとギアが入ってガクンとスピードが上がります。

もう一度押すと元のゆっくりスピードに戻ります。

ギアはこのハイスピードとロースピードの2段階しかありません。

ボタンにはウサギのマークが付いています。

「ようし、ウサギになるぞー」

ウサギのスピードでやっとトラクターの下から2番目のギアと同じくらいでしょうか。

これでもまだ時速5kmにもなっていないでしょう。

調子に乗っていると途中で下り坂や上り坂に変わる度にボートとの間隔がずれて慌ててレバーを引いたり押したり。

でロープが切れてまた「ゴットン!」です。何度切れてボートが落ちたことでしょう。

これでひびがたくさん入ったり穴が開いたりして、次に海で使うときにブクブク沈むことがないようにと祈るばかりです。

もう遭難はいやです。

牧場を出て2㎞ほど過ぎ、隣の牧場の横を通る頃でした。

このあたりは急な下り坂になってそしてきついカーブになっています。

吊り下げられたボートはゆらんゆらんと大きく揺れて来ました。

(なんか嫌な予感・・・)

案の定、先頭のトラクターがボートの動きにつられて左右に揺れました。

それも大きく。

ガガガガ・・・

「キャア、危ない!傾いてる」

トラクターは30度くらい斜めに傾いて片側の大きなタイヤが浮き上がっています。

「わあ、倒れるう!!」

シートベルトもなく座席がむき出しのトラクターが横転したら運転手はどうなるか、想像がつきます。

目の前でそんな残酷なシーンを見たくありません。

「ああ、もうダメだ。バカバカ、お父のバカ。なんでこんなことに。なんで生命保険に入っておかなかったんだ」

傾いて倒れ掛かるトラクターを見ながらわずかの時間でそんな事が頭の中を駆け巡りました。


カウボーイのお引越し その25 につづく

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カウボーイのお引越し その25

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いろいろと忙しく2ヶ月もブログ更新していませんでした。

「カウボーイのお引越し」の話の続きに至っては3ヶ月もほったらかしでした。

あらすじを忘れてしまった方は前回のを読んでください。すみません。

→カウボーイのお引越し その24からつづく


トラクターの傾きが30度を越えたと思った時、時間が止まったようにトラクターも止まって見えました。

人間は死ぬ直前には今までの人生の映像が走馬灯のように見えるそうです。

そしてわずかな時間がゆっくりに感じると聞いたことがあります。

それと同じでしょうか。

いやいや死ぬのは私じゃないです。

私は後ろで見て叫んでいるだけです。

「キャーーー!トラクターが・・・。あ――――、生命保険~~~」

と、次の瞬間、傾きの止まったトラクターは起き上がりこぼしのように元の位置に戻りました。

「わあ、奇跡的!!」

と同時に

「ガタン!ドタン!!」

ロープが切れてボートがまた地面に落ちてしまいました。

再び着地したトラクターの大きなタイヤが勢いで少しバウンドしたように見えました。

もしかするとロープが切れたおかげで倒れずに済んだのかも。

「あああ、こわかった」

「助かった。もうダメかと思った」

本当に危なかったところでした。

「なんか後ろで大きな声で叫んでたな」

「だって、もう倒れるかと思ったわよ」

「なんだか『セーメーホケンが~~~~』とか聞こえたけど」

「い、いえ、別に。ただキャアキャアわめいたとは思うけどね」

とにかく無事でした。

気が付くとわずか2kmほどしか進んでないのに3時間くらい経っていました。

途中で何度もロープが切れて結び直して時間がかかったからでしょう。

「この先の日陰でちょっと休憩しよう」

木の陰で、持ってきたパンと水で簡単な昼食。

「いつも車でしか通らないから気づかなかったけど、けっこう遠い道のりだね」

「歩くより時間がかかるね」

たしかに4kmならさっさと歩けば1時間で着きます。

ここでまだ半分です。

ここからは道が広めでカーブも少なく坂もほとんどない道がしばらく続きます

「さあ、行くか」

行くしかないのです。

向こうから車が来ます。

めったに車は通らない道路ですが、こんなに何時間もいれば数台は通ります。

道が狭い所ではすれ違うのに苦労しますが、ここから先、1kmくらいの間は道幅が広いので端に寄って走れば問題なくすれ違えます。

1時間くらい走りやすい道路を行くと、今まで一本道だったのが初めて分かれ道になります。

ここからが難関。

広い道から分かれて山に上がる細い農道を行かないと新居に着かないのです。

広い道路だけを通っていく事もできますがだいぶ遠回り。時間がかかります。

おまけにそれだと村のメインストリートを通らなければなりません。

注目の的になってしまいます。恥ずかしいっ!

直角の曲がり角。

トラクター、ボート、鉄兵丸、の三連の連結の乗り物が曲がるのはかなりむずかしいです。

「曲がれるかなあ」

何度も切り返し、トラクターと鉄兵丸の位置を移動して何とか曲がりました。

あと1kmくらいだ、ガンバレ。

カウボーイのお引越し その26 につづく

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カウボーイのお引越し その26

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またまたまたお久しぶりです。

カウボーイの引越しも何ヶ月ぶりです。

本当に長い時間のかかる引越しになってしまいました。


カウボーイの引越し 25からつづく

ここからは本当に細い農道です。

車のすれちがいはできませんが、通る車もめったにありません。

どうにか新居が見えてきました。

日は山の陰に入ってもう涼しくなっています。

住宅のすぐ下の畑にボートを下ろして移動完了。

朝出発してからここまで4kmの道のりを1艘のボート運搬が一日がかりの仕事でした。

「疲れたー」

「ああ、これですべて終わったねえ」

「長い道のりでした」

今日の4㎞の移動もそうですが、去年家を建てようと決まってから役所に通って許可をもらう所から始まり、建築、荷物運び、どれもほとんど業者に頼まず自分たちでやって来ましたから達成感もひとしおです。

「まだもう一つしなきゃならないことがあるよ」

「そうでした。もう一往復」

朝牧場の入り口に置いて来たうちの乗用車を取りに行くのです。

今度は鉄兵丸で行く必要はありません。

もっと速い乗り物がもう1台あったのです。

バイクです。

バイクに二人乗りで牧場に向かい、一人は乗用車を運転して帰る、というわけです。

乗用車が帰ってこれで本当に引越し完了、いやいや長くかかった引越しでした。

建物の建築に1ヵ月半、引越しに2ヵ月半。


「もう牧場に行く用はなくなったんだね」

ラクになったような、さびしいような。

とにかく荷物の移動は終了。

翌日近くにできたパスタ屋さんに家族五人で食事に行って引っ越し祝。

お疲れ様でした。


でもでも実は、家の中は未完成だったのです。

壁のブロックむき出しというのは初めから予定していたことですが、何と言っても室内は荷物でいっぱい。

床がほとんど見えていません。

荷物の隙間をすり抜けて移動。

トイレの前はドアが開くだけのスペースはあります。

台所もガス台と流しの前は人が立って料理するだけの空間はあります。

それ以外は荷物と建築で使ったコンパネと呼ばれる厚手のベニヤ板の大きな山が3つ。


「この荷物どうやって片付けるの?」

「うん」

この家には押入れとかクローゼットというものはありません。

最初から図面になかったのです。

農業用倉庫ですから。

引越しが済んでも相変わらず家族はコンパネの山の上でご飯を食べて寝ています。

コンパネの山の数は人数分はありません。

鉄兵は長椅子の上で、父さんは荷物の隙間にみかんコンテナを置いてその上に、あるいは天気のよい日は外で寝ています。

子供たちの机と椅子の上には荷物を積んでいませんから勉強はできます。

シャワーも入れます。

食べる場所と寝る場所、勉強する場所があるのですから一応は衣食足りているということにはなりますが。

でもねえ、いつまでも荷物の隙間をカニの横ばいのように移動する生活というのも落ち着かないものです。


引越しが済むと近所の人が様子を見に来てくれました。

「どう、少しは片付いた?手伝おうか」

と言って家の中を見た途端目を丸くします。

「な、な、何、この荷物」

「すごいでしょ」

「一体どうやって寝てるの?」

「このコンパネの山の上で。私はこの山、お父さんがこの隙間で、子どもたちはこの山とこの山と・・・」

「ご飯はどこで食べるの」

「このコンパネの山の上に持って上がってさ」

「・・・・・かわいそー」

それから我が家の荷物で埋まっているという話は、村中に口コミで電話連絡よりも速く広がっていきました。

何人もの人が用事で来たときに家の中を見て

「ホントだ、すごい荷物だね。よく今までこんなにたくさんの荷物をしまって置く場所があったね。まあ、がんばって片付けてください」

物の多さに呆れ、感心して帰って行きます。

「あれ、今の人の用事は何だったんだ?」

引越しが済んで荷物がおおかた片付く頃には、普通は引っ越し祝というか新築祝、新居の完成披露をする習慣なのですが。


できません。


「この荷物を載せる棚を作るさ」

天井を高く設計したので室内の上の方には余裕があります。

ここに鉄の丈夫な枠組みをコンクリートの壁に取り付けて、そこにベニヤ板で棚を作って荷物を載せればどんどん片付いて床が見えて来るはずです。

「材料はこれだ」

食卓兼寝床になっているベニヤ板の山。

しかしですよ、棚を設置するためには壁にしっかりと鉄の枠を取り付けなければいけません。

そのために壁際の荷物をどけないと・・・。

荷物の移動先の場所である棚はこれから作る。

そのために荷物が邪魔・・・。

というパラドックス。

なんかいつもこういうことで悩んでいる気がしますね。


カウボーイのお引越し その27 につづく

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カウボーイのお引越し その27

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カウボーイの引越し 26から続く

今住んでいる所がいくら名目上は「農業倉庫」だと言っても、いつまでもベニヤ板の山によじ登って食事や睡眠というのもそう長く続けられません。

新居なのに。快適とは言えないでしょう。

壁際の荷物をあっちにやったり、こっちにやったり、昼間子どもたちが学校に行っている間に寝床のコンパネの山に段ボールを載せたり、と工夫しながら棚作りを開始しました。

鉄筋で枠を作って壁にコンクリートボルトという丈夫な釘を打ち込んで取り付けます。

それに合う大きさにベニヤ板を切ってはめ込みます。

人間が乗っても大丈夫。それくらいの重さに耐えられなければ安心してどんどん荷物を乗せられません。

どの部屋のどの壁にも次々と棚を作って行きます。

棚ができたら順に荷物の段ボールを載せていきます。

だんだん荷物が片付いて床が見えてきます。

それに比例して、高さ2m以上あったコンパネの山も棚の材料に使われて見る見る低くなっていきました。

そして全部の部屋の壁という壁に作れるだけ棚を作って、ついにコンパネの山はなくなり、家の中をカニ歩きでなく自由に通れるようになりました。

やっと普通の家と同じ状態になったわけです。

言うのは簡単ですが、棚作りだけでも実は数ヶ月かかっていました。

5月に建築を始め、それと平行して荷物まとめ、(引越しの準備です。)

6月に建築完了。

7月8月と引越し作業。
9月初めに引越し完了。

そして壁に棚を作って荷物が片付け始めた頃には冬になっていました。


子供たちの部屋というか勉強コーナーもなんとかまとまりました。

中学生の鉄兵のコーナーには丈夫な鉄の枠組みで二段ベッドを作ってやりました。

日本茶と落語が好きと言う中学生にしてはオジン臭い趣味の彼のために、ベッドの上の段には畳を入れて和室っぽく。

下の段はベニヤ板を敷いて荷物置き場。

きりんのコーナーは、何年か前に引っ越して行った友人からもらった二段ベッドを置いて、女の子の部屋らしくなりました。

くるみのコーナーはお兄ちゃんと隣り合って、境の壁はありませんが、仲良くやれているようです。

くるみのコーナーは二段ベッドを置く広さはないですが、寝るときだけきりんの二段ベッドに移動することで解決。


荷物はほとんど壁の高い所につけた棚の上に上げてしまったので家の中はだいぶ広く使えるようになりました。

これでどうにかお客さんが来ても座ってもらえるスペースができました。

お客さんも呼べます。
ところが、引っ越した当時、荷物に埋もれていた頃には次々と人が見物に来ていたのに、部屋が片付くとあまり来なくなってしまいました。

珍しくないからでしょうか。


不完全だった備品もそろえていきました。

台所の流し台、ガス台(ガスレンジを置く台)は、ガス器具店で廃品にする物をもらって来て据付ました。

廃品と言っても十分使えるきれいな物です。

おそらくは、リフォームでシステムキッチンにするのに下取りしてもらったのでしょう。

しっかりダブルシンクです。

脱衣所の洗面台も、顔を洗って歯を磨くだけでなく、バケツに水を汲む、絵の具のパレットを洗う、洗濯物のつまみ洗いもする、などができるように台所のような大きな流し台を置くのが便利と思っていました。

それで今までそういう流し台が手に入るまでは小さな洗面ボウルを取り付けるのはしないでおいたのです。

水道の蛇口は付けてありますから水は出ます。

蛇口の下にはバケツを置いてそれが一杯になったら外に捨てるという方法で、流し台が手に入るまで数ヶ月排水無しで乗り切りました。

洗面台が広いのは毛糸物や汚れた靴下の手洗いもできて便利です。

せっかく広くなった室内ですが、これが一年も経たないうちにまた荷物が増えて室内が狭くなっていくのです。

家具を買ったというわけではありません。

父さんがいろんな物を機会あるごとに拾ってくるのです。

かく言う私もそれに近いものがあります。

「よしなさいよ、そんな物拾って来るの!」

と言う人がいないと物はどんどん増えていきます。

通路が狭くなり、人のすれ違いもしにくくなり、またまたドンキホーテ状態、と言うか、元の倉庫になりつつあります。

そのうち寝る所がなくなってきたら、また外でキャンプ生活?



→カウボーイのお引越し その28 につづく

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カウボーイのお引越し その28

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→カウボーイのお引越し その27からつづく

だいたい、いつからこんなに家の中に物が増えていったのでしょう。

新婚当時は実に簡素な生活でした。

「家に物があふれているなんて馬鹿げてるよ。生活に最低限必要な物があればいいんだ。できるだけ質素な生活にしよう。シンプル・イズ・ザ ベスト だよ」

と言っていたはずなのに。

新居であった牧場の2DKの住宅に実家から送った荷物は

『できるだけ少なく』

『物に埋もれないで簡素な生活をしよう』

という共通見解の下、極力減らして来たのです。

婚礼家具も持ち込まず、食器も調理器具も新しいセットの物ではなく、もらい物を数個。

家具も、私達が越してくる前に、前任者が使用していた物で間に合うならそれを使おうという事になっていました。

六畳ほどの広さのDKに置かれてあったテーブルは直径1mの電線コイルでした。

椅子代わりに使っていたのはどこから切り出してきたのか、あるいは拾ってきたのか、丸太を切ったものでした。

そして使っていた食器はと言うと実家からもらって来た誰かの結婚式の引き出物のお茶碗が三客、結婚祝にいただいた有田焼のサラダボウルなどの大皿が二枚。

スプーンが大1本、小1本。

必要な物はその都度少しずつ買い足して揃えていこうという考えでした。

それが、まだ自家用車を持たなかったので、20㎞離れた市街地に買い物にいくのは牧場のトラックでエサを買いに行くついで、ということでゆっくりと街で過ごす時間がなかったのでした。

当然しばらくは少ない物で生活していたのです。

 夫婦二人ですから、茶碗が三つでもご飯は食べられます。

味噌汁をつけるとなるとちょっと不便。

新婚の妻としては夫にご飯と味噌汁を盛って提供。

そして自分のご飯を三つ目の茶碗に盛ると、味噌汁を入れる容器がありません。

仕方なく、ご飯を食べ終わってから、空になったご飯の茶碗に冷めた味噌汁を入れて後から飲む。

あるいは、味噌汁を飲みながらご飯を食べたければ、相手が食べ終わるのを待って、洗って今度は自分がご飯と味噌汁の食事、と交代で食事をする。と言う具合です。

カレーライスがメニューの時は、カレースプーンは1本、カレーを食べるのにちょうどいい皿は1枚しかないので、これも夫に。

妻は茶碗によそったカレーライスを、小さなコーヒースプーンかお箸でカレーを食べるということになります。

これは十分に『不便』な生活ではないでしょうか。

 鍋はいくつか持ってきましたが、初めはキャンプ用のコッヘルばかり使っていました。

運び込んだ荷物の箱を開けて片付けないと台所用品が出てこないからです。

12日間の西表の無人島に新婚旅行から帰ると、その間に届いていた荷物の箱は新居の二間の和室からあふれて狭い廊下まで積み上げられていたのです。

私の荷物が多すぎたのではありません。

『簡素な生活』を提案した夫が送ってきた箱の方が多かったのです。

「捨てるのもったいないし実家に置いておいても仕方ないから送ってきた」という理由で、

「どうしてこんな使いかけの短い鉛筆持ってくるのよ!」

「まだ使えるんだ、もったいないだろう」

「鉛筆なんて数本あればいいでしょ。こんなに一箱も要らないでしょ!!」

「子供が生まれても買わなくてもいいし・・・」

「孫の代まであるわっ!」

物が増えるのを防ぐには「買わない」忍耐力と、「捨てる」決心、もう一つ「やたらと拾ってこない」注意が必要なのです。

「もったいない」精神も度が過ぎるとタイヘンなことになります。



カウボーイのお引越し その29 につづく

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カウボーイのお引越し その29

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五月から、母の入院(2週間後に治って退院、今は自宅で元気になりつつあります)、息子のアパート訪問、などで上京していました。島に帰ってからもちょっと元気がなくて更新できませんでした。

「楽しく読んでるよ」と言ってくださる方もあったので、「ああ、誰も読んでないと思ってたけど、覗いてくれてる人もいたんだ」と思ってまた更新することにしました。

またうつ状態になるかも知れませんが・・・。



→カウボーイのお引越し その28からつづく

以前、扇風機など拾いまくって、家の中には1mおきに扇風機が置いてあると書きました。

それはそれで必要だし便利なのですが、他は「物を捨てない」という絶対条件に則って貯めこんだガラクタ、もとい、道具類や品物で家の中には空間があまり残っていない状態です。

建坪四十坪のうち、床が見えているのは十坪くらいでしょうか。

最初から押入れのような収納場所を設計してありませんからしょうがないですけど。

普通の家庭ならとっくに捨てられているであろう物も、取ってある、または現役で使用されています。

壊れた電気製品などもそのまま捨てずにあります。

音の出ないラジカセ、温まらない電子レンジ、古くなって壊れて冷えなくなった冷蔵庫も、まだ室内に置いてあります。

いつか何かに使えるかも知れないという理由で。

地デジ移行で見られなくなったアナログテレビもそのままの場所に置かれています。DVDを観るときに使えるからです。

何でもかんでも捨てずに取ってあるのですが、これだけ物に埋もれているといざ使おうと思ったときにサッと出て来ません。

幾重にも重なった段ボール箱を次々にどけながら捜したり、高い天井近くの棚に梯子を掛けて、汗かきながら棚を覗き込んだりしています。

それでも、

どこに行ったかなあ

→見つからない → 本当にあったのかな → 引っ越して来るときに捨てて来た可能性もある →記憶があやふや → 仕方ない → 間に合わないから買ってくるか、

と、なんだか捨てずに取ってあった意味がないこともあるのですが。

あと数年したら、おそらく

「何でこんな物を後生大事にしまっておいたんだろう、エーイ、捨てちゃえ!」

ということになりそうな気がします。

使える物でも数が多いのはやはりかえって不便になります。

前回書いたように、新婚の頃は食器があまりにも少なくて不便でした。


「食器少な過ぎるよ、買いに行っちゃダメ?」

「これも使えばいいよ」

指差したのはキャンプ用のプラスティックやアルミの皿。

それは新婚旅行で行った無人島12日間キャンプで使った物です。

新婚旅行から戻ってもそのまま日常で使っていました。

それでもお客さんが来た時などは食器に困ります。

たまに実家に行った時に余って使われていない食器を少しずつもらって来たりはしていました。

ところが収納すべきサイドボードのような物がありません。

あるのは新婚のときに古道具屋で買った千円の小さな食器棚。

安いだけあってガラスの引き戸が付いていません。

ガラス屋さんに行って寸法合わせて千五百円でガラスの引き戸を作ってもらって持ち帰ったのでした。

でもこれは幅半間、高さ50㎝しかなかったので、お客様用の大皿などは入る余地がありません。

時々しか使わない物は、一枚ずつ新聞紙でくるんで段ボール箱に入れ、台所の天袋や流し台の下に置いておきました。

使う時には出してきて洗って、使い終わったらまた乾かしてから新聞紙に包んで段ボールに入れて・・・。

「やっぱり不便だあ」

数年経った頃、

「新しい食器棚を買うから、要らなくなった古い食器棚もらってくれない?」

という知人からの連絡。

「も、もらいます。ください!」

これで家にある食器は全部収納できます。

 同じ頃夫(この頃は子どもが産まれていなかったのでまだ父さんになっていません。)が、二ヵ月ほど佐賀県に出張になりました。

家畜人工授精師の免許を取るためです。

講習、実習の合間の休日に訪れた伊万里焼の窯元。

そこでどういう話をつけたのか、廃棄処分にされる予定の焼き物をたくさんもらって(拾って?)、石垣島の我が家に送って来たのです。

「高級な焼き物の器を買ったってすぐ割っちゃうだろう」

そうなのです。

結婚のお祝いにと、お世話になった先生からいただいた有田焼の上品なサラダボウル、私の扱いが悪くて割ってしまったことがありました。

何回も使ってなかったのに。

高価な物に見えましたし、とても気に入っていたので割った後数日は立ち直れませんでした。

 台所の床はコンクリートのまま。

牧場の官舎は、牧場で働く人のために建てられたものです。

外の仕事から帰って来て長靴や作業靴を脱がずに軽食を取ったりお茶を飲んだり、休憩できるようにと、仕事をするのに便利なように土間になっているのです。

それでトイレも外からのドアから近い場所にあって台所と同じように土足で入れるようになっていました。

 そういう台所ですから陶器、磁器の食器は落としたら即粉々です。

高級、高額な食器は怖くて使えません。

「多少の傷や染付けの色むらがあるけど自宅でなら使えるよ」

確かに売り物にはならない失敗作です。

本来なら焼き窯から出てすぐ壊されるんでしょう。

でもうちに来たら割れるまで使ってあげます。

拾った物だから割れても惜しくない、と思うと安心して使えます。

と言ってもそんな物に限って割らずに長持ちするんですね。

ちなみにこのときの茶碗で使いやすいものは二十年も経った今も、食卓で毎日のように活躍しています。

今では景品でもらった食器や実家から不用になったのをもらったりして増えてきました。

ときには

「引っ越すのでもって行かれない食器をもらってください、要らなければ処分してくれませんか」

と言う知り合いもありました。

はい、処分します、食器棚の中に。

大きめと思った食器棚の中も今はギュウギュウです。

そうなると、少々食器洗いをサボっても、

「別の食器を出して来て使っちゃえ」

ということになって、油断するとシンクの中は気付くと汚れた食器で山積みということに。

食器が山と積まれた洗い桶の底に沈む箸を拾えなくて、

「ああ、食器が多いと不便だわー」


なんのこっちゃ・・・。


→カウボーイのお引越し その30 につづく

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