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秘密の山小屋 その1

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→私の黒いランドセル その6から つづく

秘密の山小屋   その1


黒いランドセルをくるみがお兄ちゃんから譲渡される少し前のことです。

牧場の子どもたちの遊び場は、近くの海のほか、すぐ裏の山やそこを流れる小さな川にまで及ぶようになりました。

すぐ裏と言えども歩いて行くにはちと遠い。

でも車で連れて行っていっしょに遊ぶガキ大将がいたのです。

アウトドアの遊びには子どもたち以上に夢中になる父親のことでした。

春休みや夏休みなどの長期休暇には西表島のジャングルや無人の海岸へキャンプに行きますが、ふつうの週末は近場で過ごします。

外に出て行かなくても牧場の中でも遊ぼうと思えば、都会ではできない遊びが十分できます。

たとえば屋根だけで壁がないコンクリート造りの牛舎。

この牛舎は中央に通路があり、両側に牛を入れておくパドックがあります。

パドックは鉄の柵に囲まれています。

通路は干草を倉庫から出してきて運び込むトラックが通れるように広く作られています。

干草は数日に一度まとめて運んでおくのでふだんはここは安全な遊び場です。

「お母さん、牛舎で遊んで来るね」

遊ぶと言っても牛と戯れるわけではありません。

通路で縄跳びや自転車で遊ぶのです。

高い天井、大きな庇、夏は日陰で涼しく、雨の多い冬は乾いた床を歩ける場所です。

それ以外は赤土むき出しのデコボコ地面ですから、水溜りがあったり、石ころだらけだったりなのです。

自転車を練習する時などはやはり牛舎の長い通路(端から端まで五十mくらいあります)が最適です。

「梱包でお家つくってあげよう」

「わーい」

直方体に固められてきっちり麻紐で締められた干草の塊を「梱包」と呼んでいます。

通路に一週間分くらいをきれいに積み上げてある干草の山。

一個の梱包は60cm四方の大きさです。

「これを積み直してお家を作るんだ」

「おもしろーい、3匹の子ぶたのワラの家みたい」

牛舎の通路で始まるお家ごっこ。

「屋根はどうするの?」

四角い積み木のような形の干草梱包ですから積み上げて壁は簡単に作れますが天井部分は難しいことになります。

「上にベニヤ板でも載せておくか」

もともと牛舎の屋根の下に作る家ですから別に屋根は必要ないんですが、そこは天井をふさいで雰囲気を出したいものです。

エスキモーの氷の塊で作った家のようにドーム型にして天井も干草で閉じます。

たとえ崩れても材料が干草ですからケガもしません。

「ここに泊まっちゃおうかな」

「いいよ、子どもだけで寝ても」

「やったー、ここで寝よう」

壁はワラでもギッチリ詰まって、厚みが40cm以上ありますから保温効果は抜群。

北風吹く真冬でも家の中は暖かいんです。

もっとも亜熱帯の石垣ですから冬も10度以下にはなりませんが。

それでもさえぎる物のない牧場では、外は強い北風で体感温度はけっこう下がります。

雪の降らない石垣で干草で作った『かまくら』のつもりです。

冬だからこそできる遊び。

夏は干草の家の中なんで暑くて居られません。

暑い季節は近くに流れる小さな川遊びです。

その上流は牧場の飲み水にしている水源です。

夏でも川まで行くと両側に木が生い茂っていい木陰を作ってくれています。

浅い水深は子どもを遊ばせるのにもってこいです。

「苦労して危険を冒して西表まで行かなくても家の近くに遊べる所はあるじゃない」

「危険を冒してとはなんだよ、なんで西表が危険なんだよ」

「ふつうにキャンプするだけなら別に安全ですけど」

「そうだろ」

「中には、無線も水も食料も服も持たないで遠くの島まで船で行って遭難する人もいるし・・・」

「・・・ウ、ウッ・・・」


牛舎の通路で干草の『かまくら』遊びや小川の水遊びは、小さい子は喜びますが、大きな子ども(野生児の成れの果ての父さんのこと)はこんなものでは満足しません。


数日後。

「おーい、山の中にいい場所見つけたんだ、今度の休みにみんなで遊びに行こう」

「遠いの?」

「いつも遊んでる小川の近くだよ」

休日に行って見ることにしました。

舗装道路の脇に車を停めて山の中に入って行きます。

何度か往復して歩いた跡が道になっていて歩きやすくて助かります。

薄暗い林を抜けると突然明るく開けた草地が現れました。

「あら、こんな広場があったの?」

「市の林務課が木を切ったんだよ。ここは市有林だろ」

何年か、何十年か前に市が山にイヌマキなどの植林をしたのです。

その木が成長したので今切り出しているのです。

「何日か前から林務課のトラックが通っていたからね、そうじゃないかと思ってたんだ」

林に囲まれた広場もいい遊び場になりそうです。

「ここは秘密の遊び場にしようや」

それからそこは我が家の秘密基地として準備されていきました。




→秘密の山小屋その2 につづく




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秘密の山小屋 その2

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→秘密の山小屋 その1から つづく


秘密の山小屋   その2



山の中の秘密の広場。

林に囲まれた遊び場。

私たち以外誰も知りません。

いえ、市役所林務課の人は知っています。

林務課が計画して木を切ったから結果として広場ができたのです。

べつに我が家の子どもたちが遊ぶために広場を作ってくれたわけではありません。

それでも友達や近所の人が知らない秘密の場所です。

道路から少し奥に入った所なので通りすがりの人は気付きません。

まして観光客もいません。

こういう広場では遊ぶのにボールなどは使いません。

手ごろな高さの樹を選んで枝にロープをかけます。

ロープの下端は短い木の枝を結んでブランコを作ったり、ぶら下がってターザンごっこをして遊ぶのです。

枝が高ければ振り子の原理で相当遠くまでターザンができます。

遊園地のアスレチックコーナーのように整ったものではなく自然そのものの味わいがあります。

「キャッホー、ターザンが行くぞー」

「ウワー、本当のターザンみたい」

「お父さんもやって見てよ」

「よーし」

ロープは200kgでも支えられるくらい丈夫なはず、切れることはないでしょう。

ターザンよろしく

「アー、アーア、アーーー」

ロープに飛び付くと、メタボ気味の父さんの体重でロープを結んだ枝がグワーンとしなりました。

びゅーん。

振り子のようにターザンロープは風を切って向こう側を目指して・・・。

「イテェ!」

中間のちょうど振り子の中心の位置で父さん座り込んでいます。

枝が重みでたわんで、化学繊維のロープも伸びる材質です。

もともと地面に一番近い高さでは50cm以上あったのですが。

でもそれは体重の軽い子どもが乗ったときのこと。

子どもの3倍以上の体重の大人のことは作る時には考えていませんでした。

いや、考えていたかも。

父さんが作ったターザンです。

体重でロープが思ったより下に下がり、お尻で地面をこすって振り子は止まりました。

「アア、ケツが痛い」

「大人は無理でしょ」

「いや、無理じゃないっ!」

「もっとロープを短くして」

「スタートがそんなに高かったら子どもが届かないんじゃないの」

「いいんだ、あいつらはそこの岩に上がってスタートすればいいだろ」

「もうちょっと低くしてあげれば?」

「そしたらオレができなくなるだろ、オレが」

そ、そうですか。

父さん、別の樹にもまたロープを下げてもう一つ低めのターザンを作っています。

「これなら小さいくるみでも届くだろう」

山の中にターザンロープやブランコがいくつもできました。

疲れると持ってきたジュースやお菓子でおやつにして、また日が暮れるまで遊びます。

テレビゲームがない我が家ではお金がかからない遊びの一つです。

「暗くなる前に帰ろう、ハブが出るから」

「今度ここで泊まりたーい」

キャンプ家族の子どもはすぐこういう発想になります。

「うん、泊まろう」

「テント持ってくるの?」

「いや、もっと楽しいこと考えたんだ」

「なに?」

「今日はとにかく帰ろう」

なんかウキウキしているようです。た、楽しそうですね。

秘密の山小屋 その3につづく




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秘密の山小屋   その3

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秘密の山小屋 その2からつづく


山から帰って来ると、父さんはニヤニヤしながら設計図を描いています。

なんか楽しそうに見えます。

「何してるの?」

「フフフ、楽しいこと」

「山のキャンプの計画?」

「まあね、子どもたち喜ぶぞー」

たぶん一番喜ぶのは自分だと思うけど。

「テント張るんじゃなくて、いつでも使えるものを設置するんだ」


それから毎日、例の山の広場へ行って秘密の山小屋作りが始まりました。

「お前たち、学校が終わったら山に手伝いに来いよ」

「帰ったら宿題するんだけど」

「そんなのは夜でいい」

「はあ?」

「山は暗くなったら仕事できないだろう。勉強は夜でもできる」


山小屋と言っても大げさなログハウスを建てるわけではありません。

市の林務課が管理する森林の中にそんな物を建てられるわけはありません。




5m間隔に立っている、適当な太さの立ち木2本を選んでそれを柱に見立てます。

あまり高くなく低い位置に二股に枝分かれした部分がある気がよいのです。

木を切るわけにはいかないので二股部分に横木になる長い棒を渡します。

ちょうど昔の洗濯物干し竿の形です。

この横木から地面に向かって斜めにまた棒を立てかけます。

三角テントの骨組みになります。

これに布をかぶせればそのまま簡易テントです。

でも父さんはもっと手のかかることを考えていました。

横木から地面に斜めに立てた2本の木の間に。さらに何本も横に細い木や竹の棒を渡して紐で結びます。

立派な骨組みです。

布をかぶせるくらいならこんな丈夫な骨組みは必要ありません。

この骨組み作りだけで何日もかかります。

同時進行で段ボール箱をお店からもらって集めておきます。

休日になると家族で山の広場に遊びに、と言うか、

朝から作業をしに行きました。


「昼になったな。ここらでお弁当にしようや」

広場で腰を下ろしておにぎりを食べていました。

すると林の方からガサゴソと音がして男の人が現れました。

身なりからすると、この山でイノシシの狩りをしている鉄砲撃ちの人です。

「こんにちはー」

「はい、こんにちは」

鉄砲撃ちの人は広場を横切って反対側の林の中に入って行きました。

イノシシ狩りの人たちはふつう何人かで行動します。

イノシシを追うイヌを連れて山からイノシシを追う人たち、山の反対側でそれを待ち受けて迎え撃つ人たちの、ふた手に分かれて獲るのです。

イノシシはどの方向に逃げてくるかわかりません。

時には2~3ヶ所で待ち伏せをします。

私たちの昼食場所に出会わせた人は待ち伏せ隊の方のようです。

しばらくすると山の上の方でイヌ数匹の声がします。

「ワンワンワン」

イノシシを見つけたようです。

イヌの声がこちらに近づいてきます。

「ワンワンワン」

「こっちに来るのかな」

「ワンワンワン」

「わっ、出て来た」

イヌより先に追われたイノシシが飛び出しました。

走ってきます。

  ドドドドドッ・・・・

すごい勢いでおにぎりを食べていた私たちの目の前を必死で逃げていくイノシシ。

そのすぐ後ろを追って吠えながら走っていく猟犬たち。

その後ろからだいぶ遅れてきた鉄砲撃ちの人。

この人は猟犬担当の人でしょう。

何分もしないうちにふもとの方から銃声が聞こえます。

「あ、獲られたかな」

なんか、いろいろな動物、人間たちが目の前を通過して行きました。

のんびりピクニック気分で食事している雰囲気ではなくなってしまいました。

林務課の管理する山林はわれわれの他にも利用する人たちがいたのでした。


→秘密の山小屋 その4
につづく



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秘密の山小屋 その4

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秘密の山小屋 その3からつづく

それから何回も山に行って作業する日がありましたが、以後はイノシシ狩りの一行に出会うことはありませんでした。

秘密の山小屋作りは着々と進行していきました。

テント型の木の骨組みが出来上がると、それに段ボールを貼り付けていきます。

テントでいうとサイドの部分の横木に下から順に段ボール箱をつぶした物を紐で結び付けていくのです。

一番下の段を結んだら次に下から二段目を一部重なるようにつけます。

つまり一段目の上部の上に二段目の下部が少しかさなっているのです。

次に三段目もさらに二段目に重なるように、と一段ずつ上がっていくように作ります。

出来上がりが「よろい戸」のようになるようにです。

こうすることで雨が降っても段ボールの壁の内側に雨水が浸入しないのです。

「片側が完成したら次は反対側の壁も同じように作るんだ」

反対側の壁の上部はもう片方とぴったり合わせようとしてもわずかに隙間が開いてしまいます。これでは雨漏りしてしまいます。

「両方の壁は対称にしちゃダメなんだ。『入』の字のように一方をかぶせて屋根のようにする」

このとき季節は冬。毎日北風でした。

北側の壁の方が上側になるように重ねます。

「なあるほど。でも大雨が降ったらぐしゃぐしゃになるね」

「そこはちゃんと考えてあるさ」

段ボール自体が濡れて破れては困ります。

そこで紙でできた段ボールの表面に水をはじく物を塗るわけです。

「油でも塗る?」

ふつうは油性ペンキなどを使うところでしょう。

でもそんなお金のかかることを野生児カウボーイ父さんがするはずがありません。

「廃油だよ、廃油」

「ハイユ?」

そうです、トラクターやトラック、その他農業機械の多い牧場ではエンジンオイルの古くなった汚い油が貯まってきます。

缶に集めておくのですが、黒くドローンとした廃油はそこらへんに簡単に捨てるわけには行かない産業廃棄物みたいなものです。

可燃物を燃やす時に上からかけて燃えやすくするくらいしか消費することがありません。

使い古しの天ぷら油で石鹸を作る話は聞きますが、真っ黒の臭い廃油で石鹸ができるとは思えません。

第一、原料は食用油でなくて石油ですし。

このベットリした黒い廃油をよろいの段ボールの壁の上に塗るのです。

これで少々の雨にもびくともしない耐水性の山小屋になります。

見た目は黒い油で塗られて美しくは見えませんが雨と風を避けて中の居住部は快適です。

山小屋の中で火を焚いたとしても煙は天井の板の組み合わせ部分からうまく外に出て行ってくれます。

昔のかやぶき屋根の造りの原理です。

煙は出て行くが雨は入らない。

通気性のよい屋根です。

「いいだろう、手作りの山小屋」

「段ボールでできた家だね」

「三匹の子ブタでも木とかワラで作ってたよね」

「ワラじゃすぐ吹き飛んじゃうよ。これはイメージとしては、合掌造りの家、北米インディアンのテント、モンゴルのパオ、竪穴式住居、・・・」

「というよりホームレスの人の段ボールの寝ぐら・・・」

「やかましい!山小屋と言え、や・ま・ご・や」

「ホームレス」

「ホームレスは家が無いからホームレスなの」

「これは?」

「家ではないけど泊まる所」

「だからネグラ」

「文句言うと泊まらせてやらないぞ」

「別にいいよ。私は夜にはうちに帰るけど」

「そんなこと言わないでいっしょにここで焚き火して泊まろうよ」


楽しいかな?ホームレス・・・じゃなくて秘密の山小屋。




→秘密の山小屋   その5につづく



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秘密の山小屋 その5

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秘密の山小屋 その4からつづく


子どもたちといっしょに作業できるのは週に2日の休日だけです。毎週末は山に通って山小屋作りは続きました。完成まで数週間かかりました。


山小屋の脇で焚き火がパチパチと燃えています。

家族の他に誘った牧場の「野鳥さん」も山に来て火を見ながら酒を飲んでいます。

野鳥さんは野宿が趣味ですからこういう山の中の自然が好きなのです。


「いいですねえ、山小屋」

「そうだろう、雨が降っても泊まれるんだ」

「見た目は汚いけど」

外側は廃油のタールのような真っ黒い色です。

「なにしろ材料費がタダだからな」

夜になると暗い森の中、段ボール製のホームレ・・・じゃなくて山小屋。

そばで燃える焚き火のオレンジ色の炎だけがぼーっと明るく見えています。

外壁に塗った黒い廃油の色など気になりません。

「いいなあ、、森の中で火を焚いて。赤い火をじっと見つめているなんて」

家からすぐ近くですが遠くの島にキャンプに来たような感じがします。

「今度は知り合いも誘ってここでいっしょに酒飲みたいな」

西表島に渡って何泊もするキャンプとなると仕事を長く休めない人は参加できないし、装備も考えないといけません。

でも牧場から車で5分とかからないこの場所なら、気軽に参加できます。

車から荷物を運ぶときもリュックにきれいにパッキングする必要もありません。

「そうだね、サザエさんも誘えば子どもたちも喜ぶよ」

サザエさんというのは以前いっしょにキャンプに行った仲間の一人。

明るくよく笑う女性なので誰かがつけたあだ名です。

喜んで賛成するかと子どもたちの顔を見ると、昼間さんざん森の中でターザンやブランコをして遊んだから疲れたのでしょう。

火のそばで寝袋にくるまって眠っています。

これなら山小屋がなくても困らないようにも思えます。

でも冬の石垣島はそう晴天は続きません。

暖かいとは言っても日本海式気候なのです。

冬はほとんど毎日雨混じりの北風が吹きつけます。

天気が変わったらサッと山小屋の中に逃げ込みます。

翌週の休日、「サザエさん」やその友人、その他どういうきっかけて知り合いになったか忘れちゃいましたけど友人たち5~6人集まりました。

手作り山小屋の新築祝です。

私は初めて会ったような気のする人もありましたが、もうそんなことは関係ありません。

家族の友達は友達、そして友達の友達も友達というわけで、お互いに仲良くできればそれでいいのです。

「アレ?マキちゃん、何を担いで来たの?」

大きなもの、あまり重そうではないけど・・・。

「あ、布団だ」

「私、寝袋を持ってないんですよ」

「え?」

「だって、なんでもいいから寝る物をもってこいって言ったじゃないですか」

「ええ、まあ」

タオルケットか毛布ならわかるけど。マットレスを担いで来るとは。

「これでもいいですか?」

「あ、はい、いいですよ、なんでも」

こういうのも道路から近い森の中だからできることです。

西表のジャングルにキャンプに行くのだったら不可能でしたが。

マキちゃんは東京から島に移り住んで数年の若い女性。

今は隣村で陶芸をしている人の下で働いています。

仕事の都合で遅れてきた人も続々と山小屋に到着。

「この場所わかった?」

「道路にはみんなの車が並んで停めてあったし、少し森に入ったら焚き火の明かりが見えたし、声がしたからすぐわかりましたよ」

森に入ったら遠くはないけど、道路からだと全く見えない秘密の山小屋です。

たまたま道路を車で走って通りかかった人は、何もない山の脇に車が何台も停まっていて不思議に思ったかも知れません。

いえいえ、こんな山道を夜に通る人はまずいません。

火の周りで食べて飲んで、夜が更けていつの間にか眠って。こういうときは本物のカウボーイみたいですね。

翌朝用事や仕事がある人は早起きして出発して行きました。

時間のある人や子どもたちは名残惜しそうに、まだもう一遊びしてから片付けて帰ります。

「今度は学校の友達も連れて来たいな」

「どうせなら大勢で来たいな」

「それもいいかも。たいていの子はこういうの喜ぶと思うよ」


ということで全校生徒を連れて来ることになったのです。

子どもはいいんだけど、ここは市の林務課の管理する市有林です。


何かイヤな予感が・・・。

→秘密の山小屋   その6につづく

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秘密の山小屋   その6

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秘密の山小屋 その5からつづく


北風と雨の毎日だった冬も終わりになりました。

石垣の3月というと、晴れた日は暑く感じるくらいです。

この季節は卒業式があるわけですが、ここの小中学校では毎年、卒業式前に全校生徒、全教職員、全PTAによるお別れレクというのがあります。

その年によって、体育館に集まって全員でスポーツをしたり、歩き遠足を企画したりするのです。

ちょうどこの年、我が家がそれを企画する係りになっていました。


「去年は半島一周の歩き遠足だったなあ」

「その前は運動場でグランドゴルフ大会」

「今年はもちろん、『山』で遊ぶ計画にしよう」

「あの広場で?」

「そう、ブランコやターザンロープももっと増やしてみんなで遊ぶんだ」


さっそく準備です。

「山で遊ぼう」の手書きのチラシ作り。

「集合場所は学校。朝集まって広場を案内して、お昼にお弁当を食べたら午後は自由」

「自由?」

「そう、つまり帰りたい人、用事のある人は帰るだろうが、もっと遊んでいたい人は残って夕方まで遊んでもよい」

「残って遊びたいかな」

「子どもは遊びたいだろう、何時間でも。なんなら泊まってもいいんだ」

「はいはい、山小屋にね」

ふつうの子は泊まりたいって言うかな?



さて当日です。

学校のPTA行事ということで、ほとんどの児童生徒、先生方が集まりました。

保護者も全員ではありませんが、子どもの付き添いで大勢参加しました。


「へえ、こんな場所があったのね」

子どもたちは大喜びです。

「オレ、ターザンやろうっと」

「こっちの方がスリルあっておもしろいぞ」

「このブランコ、すごく高いよ」

子どもの人数の割に遊具をたくさん作ったので、公園のブランコやアスレチック遊具のように順番待ちの必要がありません。

遊具を作ったと言うと大げさですが、簡単に準備したものです。

高い木の枝にロープをぶら下げて、ロープの端に短い木を付ければブランコのお尻を載せるところになります。

もっと高い位置に結び目を作って両手でつかんでぶら下がればターザンです。


定年間近の校長先生も参加されて、一緒に遊びはしませんが子どもたちのはしゃぐ様子を黙って眺めていらっしゃいました。

お弁当の後は何人かは残って遊びましたがほとんどの人は帰りました。

夜まで遊んで泊まりたいという子どもはうちの子の他にはいませんでした。



「なあんだ、みんな帰っちゃった。つまんないの」

「まあ、ふつうはこんな山の中で泊まろうって思う人は少ないんじゃない?」

でもまあ、子どもたちは秘密の遊び場で十分楽しんだのでよかったでしょう。

「この小屋もあと何ヶ月使えるかなあ」

「台風が来たら一発で吹き飛んじゃうわね」

「夏までは持つかな」

「いくら廃油で水をはじくとは言っても大雨が続いたら持たないわよね」

「まあ、使えるだけ使おう。どうせ材料費はかかってないんだから」

毎週とは行かないまでもこれからも度々山小屋は利用するつもりでいました。



数日後、卒業式も終わり、3学期の終業式に続いて転勤される先生方の送別会もあって、春休みになりました。

何日ぶりかで家族で山小屋に行きました。



「久しぶりねえ、山小屋」

「この何日か忙しかったからなあ」

「しばらく来ない間に誰かに見つかって使われていたりして・・・」

「住み着いちゃったりして?」

「ほんとにホームレスの小屋になっちゃうよ、ハハハハハ」

そんなことを話しながら秘密の山小屋に近づくと、小屋の前に何かがあるのが見えます。

「あれ?何かある」

「立て札だ」

それは小さな板にはっきりと油性のインクで書かれた看板でした。


『ここは石垣市が管理する山林です。
 無断で木を切ったり、個人がキャンプをしたりすることは
 禁じられています。
               石垣市林務課』

「あ、」

「あああ・・・・・・」


困ったことになりました。

秘密の山小屋が秘密でなくなってしまいました。





→秘密の山小屋   その7 につづく

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秘密の山小屋   その7

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秘密の山小屋 その6からつづく


久々に遊びに来た山小屋ですが、使用禁止の立て札が立てられてしまったのでした。


「なに?これ」

「ここで遊んじゃいけませんてさ」

「えええっ」

「ここでキャンプしてたってわかっちゃったかな」

「そりゃ見ればわかるだろ」

山小屋の中や周辺にはほとんど物を置いてありませんでしたが、前回、次に来るときのために、と残りの薪やカマドに使った大きな石などはそのままにしてありました。

ここでキャンプしていたことは一目瞭然です。

「でもまあ、今日はせっかく山に来たんだから少し遊ぶか」

「うん」

子どもたちはいつものようにターザンやブランコで遊びましたが、やはりテンションが上がりません。

私たちはそれを見ながら考えていました。


「どうしてここで遊んだりキャンプしたりしてたのがバレちゃったのかな?」

「ふーむ」

「この前のイノシシ狩りの人たち?」

「それはないだろう、あういう人たちはそんなことチクッたりしないさ」

いっしょにキャンプした友達も通報したりするはずがありません。

「この秘密の場所を知ってると言えば・・・」

「学校関係者!」

お別れレクで全職員と全校生徒が春休み前にここへ来て半日過ごしたのはたしか。

でも自分も遊んだ当事者なのに市役所に通報するでしょうか。

「先生たちの送別会やっただろう?」

「うん」

「あのあと何人かは街に繰り出してスナックで飲んだんだって」

「あ・・・・」

「飲みながら当然山の広場の話題にもなっただろ」

「ははーん、どこで誰が聞いてたかわからないもんね」

とにかくここへはもう来ない方がいいかも知れません。


あーあ、せっかく楽しい秘密の山小屋だったのになあ」

「台風に遭うまではまだまだ使える山小屋なのに、捨て置くのは惜しいわねえ」

「でも無断に山林を使用した、とか新聞に書かれてもまずいしね」

ここの地元の新聞には小さなこともすぐ記事になってしまいます。

しかも実名で載ってしまいます。

狭い島ですから、そうなると町に買い物にも行かれなくなってしまいます。



「もういいや、帰ろう」

「なんかあんまりおもしろくないや」

そりゃあ、そうでしょう。

市役所の人が休日にこんなことで見回りに来ることもないでしょうが、あんな立て札を立てられてはいい気分はしないです。

もちろん違反をしているのはこちら側ですから市役所は悪くはないのです。

『市の管理する山林で山小屋作っている人がいますよ』

などと市民からのタレコミがあったら、担当の人は何もしないでいるわけにはいかないのでしょう。

立て札を立てることくらいしか方法はないでしょうが、一応対処はしたわけです。

せっかく何週間もかけて山に通って作った段ボールの秘密のホームレス小屋・・・じゃなくて山小屋だったのに。

市役所の人はホームレスの人がここに住み着いていると思ったのかも知れません。

山小屋は解体して材料を持ち帰るということはせず、そのままにしてサッサと去ることにしました。



あれ以来、秘密の山小屋を訪れていませんが、もう今は段ボールのお家は残っていないでしょう。

雨に打たれて、何度か台風の風に吹かれて、バラバラになっているでしょう。

土に返る材料で作ったのがせめてもの幸いと思うことにしています。


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